MIRAI NO MANABI ミライノマナビ

ミライノマナビコラム  ― 子供たちのシンギュラリティ

2019.7.12

第6回 2040年 「努力」が死語になる

小泉 貴奥

日本シンギュラリティ協会 小泉 貴奧

米国テキサス大学アーリントン校学際学部卒。レイ・カーツワイルの思想に傾倒し、帰国後2007年に日本シンギュラリティ協会を設立。講演やセミナーを開催し概念の普及に努める。ベンチャー企業を3社立ち上げ、電子カルテや各種ネット系サービス、人工知能開発を行うなど、シンギュラリティの実現へ向けて邁進している。
日本シンギュラリティ協会
https://www.facebook.com/groups/JapanSingularityInstitute/

 

脳内で機能するナノデバイス「アイコン(InnerCONNect)」が実現すると子供たちにとって努力や研鑽はどのように変化するでしょうか? 2040年に14歳となるエウクの視点を借りてゴール設定、日々の学習、継続できる仕組み、の3点の変化を考えてみます。

 

人生のシミュレート

本格的な学習に取り組む前に、エウクはまず、ぼんやりとしていた人生設計を考え直そうと、なんとなく自分がなりたいと思っていた将来の職業に関してリサーチをかけるところから始めました。そこで初めて、市場や需要がシュリンクしている業界と知り、さらに自動化完成間近とあって、自分の活躍の舞台として適切か疑問を持ちました。そこで他の職業も含めて、可能性を広く模索しました。

当然、将来の実際の仕事内容や、その仕事を通じて将来の社会へどう貢献できるか、生涯年収も含めて満足度の高い人生をどう歩むか、その最適解を見つけ出すのは高度なAIにとっても難しく、人生がその通りに行く場合の方が少ないでしょう。

しかしながら、エウクはアイコンを使って、強化されたリサーチ能力で現在の様々な仕事を知り、サポート人工知能や各種企業が作成する仮想現実シミュレーションで職業の疑似体験を行うことができます。それにより人生の選択肢を幅広く検討・比較することができました。人生の早い段階で目標を設定できたことで、これから何を優先して学ぶべきか、納得感を得ながら判断できるようになったのです。

 

記憶を自動化し理解をサポート

次に、日々の学習に関して考えてみたいと思います。

まず現状の認識として、文部科学省が設定する学習指導要領を読み込み、自分が今どの段階にあるのかのマップを作りました。現在の記憶や知識と将来の目標を照らし合わせ、学習の進捗や不足している知識・スキルを確認し、それらの習得に進んでいます。

2040年には、教科書や参考書もデジタルデータでも配布されており、エウクもそれをアイコンにダウンロードして読み込みます。もし紙で提供されている場合でも、一度ページを開くことで文字や画像がスキャンされ、アイコン内に検索可能な形で保存することができるようになっているでしょう。

アイコンは視覚内に情報が重ね合わされて表示することも可能なため、未だエウクの理解が及んでいない知識や疑問に感じた点が記載されていた場合、その理解に必要な前提情報が、エウクの興味に応じてお勧めとして視覚内に重ね合わせて表示されます。これらは文字や画像としてのみならず、アイコンに搭載されているサポート人工知能と思考で会話したり、レクチャーしたりしてもらうことも可能になります。

自分でわからない点を調べる際、調査対象が母国語以外で記述されていても、アイコンが翻訳し母国語で理解することができるため理解に苦しむことは少なくなり、単言語しか扱えない場合より多くの情報ソースにアクセスすることができます。

単純な暗記に関しては、アイコンか外部ストレージに記録するのが一般的となります。生まれ持った脳細胞に記憶させたい場合でも、必要な個所を指定することでアイコンが記憶に関わる脳の働きを自動化してくれるため、多くの時間を節約することが可能です。思考能力が必要な複雑な問題の場合は、分割や抽象化の方法、類似パターンなど、必要なヒントが提示され、本人が自ら「見つけた」「理解した」という実感を得やすい環境が整うでしょう。

 

いつでもどこでもすぐに学べる

最後に、継続できる仕組みを見てみましょう。レコメンドの表示の仕組みとも共通する機構によって、ドーパミンなどの脳内ホルモンの値が計測され、分泌をコントロールすることもできるため、学びや理解の喜びを呼び起こすことで、興味を継続し、集中して学習を進めることが可能になるでしょう。

加えて、アイコンがあれば手を使って調べる必要がないため、両手がふさがっていても、移動中でも、すぐに学ぶことができます。これは、分からない点をそのままにしない仕組みの一つになるでしょう。

このように、エウクはアイコンを用いることで、努力を意識することなく、日々喜びに満ちながら研鑽を積むことができます。アイコンを使っていない人よりも圧倒的な速さで学習を進めることが可能になったのです。

 

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