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ミライノマナビコラム  ― そこが知りたい小学校英語

2019.4.5

第5回 小学校外国語教育 移行期間1年目を終えて見えてきたこと

高橋 美由紀

高橋 美由紀

博士(地域研究)
愛知教育大学名誉教授
外国語教育メディア学会副会長・小学校英語教育研究部会代表
世界の研究者が関わった「TOEFL Primary」のテスト開発会議に参加し、制作に携わる。 全国の小学校での外国語活動の指導助言や調査・研究を行う。
主な著書『CLIL in Diverse Contexts 次期学習指導要領とCLILを活用した英語の授業づくり』(2020) 鳴海出版、『小学校授業づくりのポイント』(2015) ジアース教育新社、『新しい小学校英語科教育法』(2011) 協同出版

2020年度からの次期指導要領において、小学校英語は中学年(3・4年)では外国語活動として年間35時間(週1コマ)、高学年(5・6年)では外国語教育として年間70時間(週2コマ)導入されています。現在、この「移行期間」として、中学年では15時間、高学年では50時間の教育が実施されています。今回は、移行期1年目を終えて、文部科学省作成の「移行期の教材」を活用した教育現場での調査などから、現状と今後の課題についてお話します。

 

「英語を使って、〜することができる」活動への移行

全国の多くの小学校では、高学年の外国語教育として、文部科学省から配布された『We Can!』を活用しています。

この教材は、これまで5・6年で行われていた外国語活動とは異なり、中学校の教育に円滑につなげることを意識した内容となっています。「外国語による聞くこと、読むこと、話すこと(発表・やりとり)、書くことの言語活動を通して、コミュニケーションを図る基礎となる資質・能力を育成すること」が目標とされています。

移行期の授業では、これまでの「英語に慣れ親しませる」活動ではなく、「英語を使って、~することができる」活動を重視して取り組まれました。

筆者が関わらせて頂いている小学校の多くでは、コミュニケーションの必然性を大切にしており、授業の導入部分において、児童が容易に理解できる場面設定をした上で英語を用いた言語活動を行っています。

また、児童の「主体的」「対話的」な学びを取り入れた学習として、教材のキャラクターを身近な友だちや学内の先生等に置き換えて、児童が興味・関心を持てる内容で行っています。そして、学校の日常生活の場面では、日本語であれ、英語であれ、児童に言語を用いて表現する活動を重視しています。

 

現場の先生方と保護者との意識ギャップが課題

移行期間1年目を終えて見えてきた課題は、現場の先生方と保護者の間にある大きな意識ギャップです。

筆者らが毎年実施している「愛知教育大学 小中英語教育研修会」に本年度参加された先生方によれば

1 次期学習指導要領の目標、4技能5領域の育成を目指す教育のあり方についてまだ認識不足であり、具体的な授業研究等についても勉強不足である。

2 児童にとって興味・関心が持てる授業としたいが、移行期の教材には教えなければならない内容(語彙、表現、文法等)が多く、圧倒的に時間が足りない。

3 英語を専門としていない教員にとって、この教材はハードルが高すぎる。自信を持って指導できない。ましてや、教科としての評価をしなくてはならないことにはとても不安がある。

等の声があがっていました。

一方、保護者としては

1 将来のことを考えると、正確な発音や表現を子どもに身に付けさせたい。

2 学校の教育だけで、本当に大丈夫かどうか不安。成績がつけられると聞いているが、具体的な内容を教えて欲しい。

3 小学校の内容を受けて、中学校や高等学校での英語教育がさらに高度になると聞いているので、この先のことを考えると益々子どもが英語嫌いになるのではないか? と心配になる。

との声がありました。

 

移行期2年目に向けて

移行期の教材を「全て使用する」ことが目的ではありません。大切なのは、限られた時間の中で、目の前の児童と向き合いながら、彼らの知的好奇心を満たし、「話したいこと」「読みたい・書きたいこと」等、彼らが本当にコミュニケーション活動で行いたい必要な語彙や表現を取捨選択して使用することです。

一方、音声指導については、ICT教材が充実しているので、それらを効果的に活用することで、担当教員の力量に左右されずに学習を進めることができます。ただ、同じ教材を何度も視聴させる時には、児童が飽きないで興味を持って、何度も何度も繰り返し視聴するための工夫は、各学校・各先生方で必要になるでしょう。会話の場面を途中で止めて、その後について、児童に自由に創らせてみる等の活動が一つの方法です。

また、英語が特別な科目ではなく、国語や算数と同じ「小学校で学習する科目」といった意識を保護者の方にも持って頂きたいと思います。

特別に構えて英語の勉強をするのではなく、日常生活の場面で、保護者の方が子どもと一緒に簡単な挨拶や歌、言葉あそび等を行なうことが望ましいと思います。文字の学習も、いつでも英語の文字が子ども達の目に飛び込んでくるように、英語のポスターを貼ったり、「母の日」「父の日」にカードを英語で書いたり、商品のパッケージに印刷されている英語を親子で調べたり、読んだりする活動に繋げていくこともできます。

評価(成績)については、これまで保護者の方が受けてきた単語や文法を中心とした知識・技能のみの評価では無く、これらを使って英語で表現する(パフォーマンス)能力やコミュニケーション能力等、多方面から評価をすることになりました。

したがって、ドリル的な「詰め込み」学習よりは、親子で言葉(日本語・英語)を使ってコミュニケーションをする時間を増やすことをお勧めします。子ども達が相手(親)を意識しながら自分の考え等を話すことができたら、次のステップの中学校では、言語を日本語から英語に変えて「英語表現能力を育成する活動」へと繋げていくと良いでしょう。

 

Anup

 

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