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ミライノマナビコラム  ― 授業が変わる 学校が変わる

2019.5.10

第5回 主体的な学びを引き出す授業−−知識構成型ジグソー法実践事例

益川 弘如

益川 弘如

博士(認知科学)
聖心女子大学文学部教育学科 教授
認知科学者。学習科学、教育工学、協調学習が専門。
著書に、「学びのデザイン:学習科学 (教育工学選書II)」(編著)、「21世紀型スキル: 学びと評価の新たなかたち」(翻訳)「アクティブラーニングの技法・授業デザイン」(共著)など。

 

知識構成型ジグソー法学びはどう変わるか

前回、「目標創出型・学習者中心型」を実現する授業方法として知識構成型ジグソー法を紹介しました。授業を受けた子どもたちの学びはどのように変わるのでしょうか。大学の授業で、将来教職を希望する学生を対象に知識構成型ジグソー法を体験させる機会がありました。そのとき学生が授業後に書いた感想を2つ紹介したいと思います。

「グループ学習と勉強は別物というイメージだった

学生A:グループ学習というものに正直言って今まで良い印象を抱いていなかった。小・中・高と通して、グループ活動は多々経験したが、結局は「楽しい」だけで終わってしまい、実になる勉強ができていなかった気がするからである。しかし、実際にジグソー学習をやってみて、今までやったグループ活動とは違い、よく理解できたように思う。グループの作り方一つでこれほどまでに変わってくるということに少し驚いた。

学生Aが受けてきた小中高でのグループ活動は、おそらく第1回のコラムでも紹介した「目標到達型・学習者中心型」の授業にとどまっていた可能性が高いそのため、学習とは「1人で黙々と覚えること」というイメージだったのかもしれません。しかし、知識構成型ジグソー法の体験によって、対話によって理解が深まっていくプロセスを実感し、学習の姿について見直すきっかけになったのではないかと思います。

「コミュニケーション力が低いから苦手なのだと思っていた

学生B:今日一番学んだと思うことは、ジグソー学習法についてです。私は今まで「個小集団全体」という授業方法くらいしか経験したことがありませんでした。今日ジグソー学習法というものを知れて本当に良かったなと思います。なぜなら、私は元々コミュニケーション力が乏しく、「個小集団全体」という授業方法でも他の人に頼りがちでしたが、今回取り組んだジグソー学習では、自分が主体的になって言うことができたからです。また、ジグソー学習において、相手の意見を真剣に聞くことにもなりました。

学生Bが受けてきた小中高でのグループ活動も、おそらく「目標到達型・学習者中心型」の授業でしょう。他者に説明する必然性が乏しく,グループメンバーの誰かが正解を言えば目標を達成できていたため、控えめな生徒はあまり発言できなかったのではないでしょうか。しかし、学生Bは知識構成型ジグソー法の体験では積極的に参加することができていました。実は、コミュニケーション力というのは程度の差がありますが「話したい」「聞きたい」場面がうまく設定されていれば発揮できるものなのです。もし学生Bが小中高時代に「目標創出型・学習者中心型」の授業を数多く経験していたら、「コミュニケーションが苦手」と言わなくなっていたかもしれません。

「目標創出型・学習者中心型」の知識構成型ジグソー法は「子どもたちがうまく学ための条件」が埋め込まれているため、学習者が主体的になって理解を深めていくことを実感できたのではないかと思います。

 

教科書丸暗記からの大転換

実際にどのような授業が行われているのか、著者も授業づくり検討のメンバーの1人として共同研究の形で関わらせていただいた実践事例をひとつ紹介します。とある高校の1年生「生物」免疫の単元で、免疫の仕組みをしっかり理解してほしいことを授業者は目指していました。

授業者の説明によると、これまでの従来の授業では「例え」を用いて現象をできるだけ生徒に分かりやすく伝えるために説明方法を工夫するなどしていたそうです。「目標到達型・教授中心型」の典型でした。しかし、どれだけ授業者が工夫して説明しても、多くの生徒はすぐ忘れてしまい、生徒たちは結局テストで問われる用語のみを暗記する学習になっていたそうです。

そこで、「目標創出型・学習者中心型」の知識構成型ジグソー法を導入することにしましたその具体的な実践は次のようになりました。

・問いの設定

従来の授業では、授業の最初に「今日は免疫の仕組みについて学びます」という形で導入していました。しかし、このような導入では生徒は受動的に「仕組みついて教わって覚えるのね」とし思ってもらえません。そこで、知識構成型ジグソー法での導入の「問い」は、生徒たちが免疫の仕組みについて実生活の出来事と対応付けながら考えてもらえるよう「どうして予防接種を受けるとはしかの発症を防ぐことができるのか?」という設定にしました。

・3種類のエキスパート資料の準備

これまでの授業者の実践経験から、生徒たちにとって免疫の仕組みの上で理解がむずかしい箇所を焦点化しました。その結果、ひとつは、免疫の仕組みが「体液性」と「細胞性」の2種類がありそれぞれの仕組みとその関係の理解、もうひとつは、一度はしかに罹ると次は罹りにくくなるという「1次応答と2次応答」の関係でした。さらにはこれら現象は、通常目で見えるようなものではないことも理解がむずかしい原因でした。そのため、エキスパート資料は、「体液性免疫」、「細胞性免疫」、「1次応答と2次応答」の3種類を準備するとともに、これら資料の視覚的理解を助けるために、テキストの解説に加えて動画も見ることができるようタブレット端末にデジタル教材を準備しました

・実践結果

上記の工夫によって、授業終了後、生徒たちは教科書に書いてあるような解説の丸暗記ではなく、専門用語を使いながら、免疫の仕組みについて自分なりに工夫して説明することができるようになっていました。ある生徒の例を紹介します。

授業開始前:予防接種に抵抗力となる成分が含まれているから麻疹の菌が空気中にあっても発病が防げる

授業終了翌日:B細胞やキラーT細胞へ抗原の情報が伝達される。そしてヘルパーT細胞は活性化し増殖する。しかし一次応答では作れる量も少ないし小さい。次の二次応答では、B細胞やキラーT細胞が記憶細胞となり、以前の抗体があるのですぐに大量の抗体を作ることができ、はしかの発症を防ぐことができる。

この生徒は最初、予防接種が一次応答を起こさせることとは理解してなく、間違った考え方を持っていました。しかし、授業後は、免疫の仕組みを使って予防接種が行われていることを理解し、自分なりの説明の仕方で記述することができるようになっていました。

今回は高校の授業の事例を紹介しましたが、知識構成型ジグソー法は、小学校低学年から大学段階まで幅広く実践が広がっています。

 

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