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ミライノマナビコラム  ― 授業が変わる 学校が変わる

2019.8.10

第6回 知識創造社会と21世紀型スキル

益川 弘如

益川 弘如

博士(認知科学)
聖心女子大学現代教養学部教育学科 教授
認知科学者。学習科学、教育工学、協調学習が専門。
著書に、「学びのデザイン:学習科学 (教育工学選書II)」(編著)、「21世紀型スキル: 学びと評価の新たなかたち」(翻訳)「アクティブラーニングの技法・授業デザイン」(共著)など。

 

これまでのコラムでは、学校教育では「何を知っているか」から「何ができるようになるか」へ学びのゴールを変えていく必要があること、そして、学びの科学に根ざした「うまく学ぶための条件をいかした授業づくり」について紹介してきました。このような授業・学校の変革は、ICTが発達した社会の変化に呼応する形で、世界各地で進められています。今回はこれからの社会を見据えながら、今回の学習指導要領改訂の背景にある世界的動向を紹介します。

 

仲間と共に知識を創造する力が求められる社会へ

1920世紀の産業基盤社会から21世紀の知識基盤社会への社会の変化に呼応して、求められる能力も大きく変わってきました。AIをはじめとした様々なICTテクノロジは、金融、商業、農業など、全ての職種において、欠かせないものになっています。また、日常生活でも様々な情報を得たり、交換したり、発信していくためにICT不可欠です。このように、仕事の仕方も、生活の仕方も変わり、間も無く訪れる「超スマート社会(Society5.0)」を迎えた後も、社会の姿は変わり続けます。今現在も進行中の急激な社会の変化を概観すると次のようになります

1点目は、ICTがもたらす「効率化」による労働環境の変化です。工場では、より早く、正確に、多くのものを生産することが重視されるため、ICTやロボットの導入によって、単純作業や人にとって危険で難しい作業の自動化は増え続けるでしょう。そこで働く人たちの役割は、工程管理やトラブル時の対応など、より高度な思考と判断が要求されるような、一人ひとりの能力と責任が求められる仕事にシフトしています。

2点目は、多種多様な情報があふれる社会がもたらす「個別化・個性化」による、製品やサービスの変化です。ICTの進展によって多種多様な情報があふれ、一人ひとり嗜好は広がっています。工場においても、少品種大量生産から多品種少量生産が実現できるようになってきました。このように現在は、新しい「モノ・コト」が生み出されやすい社会となり、それを生み出すことのできる人が求められています。この変化に合わせて、組織の構成にも変化が生じており、機動性が高く、社員一人ひとりの知識創造性が求められる、ベンチャー企業の成長が著しくなっています。大企業、ベンチャー企業関わらず、社会に対して新しい「モノ・コト」を提供し続け、社会の変革に貢献していく企業集団は「知識創造組織」と呼ばれています。

3点目は、国連が掲げたSDGsSustainable Development Goals:持続可能な開発目標)ような、社会課題をみんなで解決していく必要性です。人類がこれまで生み出してきた知識によってもたらされた科学技術の発展やグローバル化によって、様々な問題が解決し便利になった一方、同時に単純には解決できない深刻な課題が生まれています。この課題解決のためには、さらなる知識を生み出す必要があり、「知のギャップ問題(Ingenuity Gap」とも呼ばれています。地球温暖化、エネルギー問題、治療薬のない病気、多文化共生、テロリズムなど、一部の専門家の知識創造で解決できる問題でなく、一人一人が考え知識を生み出し、貢献していくことが求められています。

 

21世紀型スキルの評価と教育プロジェクト

21世紀型スキルの評価と教育プロジェクト(Assessment and Teaching of 21st century skills: ATC21S)」が2009年から2012年にかけて実施されました。このプロジェクトでは、これからの社会に必要な資質・能力を「21世紀型スキル」と呼び、その資質・能力を育成するための教育方法と評価方法が検討され、それら検討結果が「白書」まとめられました。(「三宅なほみ(監訳), 益川弘如・望月俊男(編訳), グリフィン, P., マクゴー, B. & ケア, E. (),(2014)21世紀型スキル:学びと評価の新たなかたち』北大路書房」

250名を超す世界中の教育関係者をはじめ、先進諸国の政府機関、OECD(経済協力開発機構)、UNESCO(国際連合教育科学文化機関)、IEA(国際教育到達度評価学会)等の国際機関が参加し、大手IT企業シスコシステムズ、インテル、マイクロソフトがスポンサーとなりました。

21世紀型スキルを検討するチームでは、世界各国の教育政策等を比較検討し、次の4領域からなる10個のスキルをまとめています。

【思考の方法】

1.創造性とイノベーション

2.批判的思考(※編集注 参考リンク 21世紀スキル「批判的思考力」を身につけよう),問題解決,意思決定

3.学び方の学習,メタ認知

【働く方法】

4.コミュニケーション

5.コラボレーション(チームワーク)

【働くためのツール】

6.情報リテラシー

7.ICTリテラシー

【世界の中で生きる】

8.地域とグローバルのよい市民であること(シチズンシップ)

9.人生とキャリア発達

10.個人の責任と社会的責任(異文化理解と異文化適応能力を含む)

みなさん、この10個のスキルをご覧になってどのように思われたでしょうか?こう並べられると、特段目新しいものでもないかもしれません。これからの社会で明らかに必要スキルがずらっと並べられています。

それでは、これらの資質・能力をいかに教育すべきでしょうか。これまでのコラムで書いてきた内容が大きなヒントとなっています。21世紀型スキルを育み評価する学習環境を検討するグループでは、認知科学者・学習科学者が担当しました。そこでは各スキルの初級状態と上級状態を提案した上で、初級状態から上級状態へと育むための授業づくりと評価提言しています。次回は、その詳細を紹介し、これまでのコラムで紹介してきた内容と関連付けていきたいと思います。

 

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