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2019.3.22

[change2020 第3回] ひとりひとりの生徒を見つめる入試へーー主体性評価(関西学院大学 アドミッションオフィサー 学長特命 尾木義久 氏)

尾木義久
関西学院大学 アドミッションオフィサー
学長特命により、文部科学省による大学入学者選抜改革推進委託事業を担当。「主体性」評価の尺度・基準の開発を行う同委託事業は関西学院大学を代表校とする複数大学において進められている。

 

2020年度からスタートする次期学習指導要領。日本の教育を大きく変えるターニングポイントと目されています。このコーナーでは、次期学習指導要領に詳しい識者の方から、そのポイントをお聞きします。今回は、文部科学省からの委託で大学入試での「主体性」評価の仕組み作りに取り組む関西学院大学 尾木義久 アドミッションオフィサーに、大学入試の行方や新しい時代の学びのあり方についてお話しいただきました。

 

なぜ「主体性」の評価が必要なのか

私たちは今、時代の大きな転換期に立ち会っています。子供たちにどんな力をつけてもらうのか、立ち止まって考えるべき時期なのです。

従来の大学入試は、答えが一つに決まっている知識について、一つでも多く正確に答えた受験生が高く評価されました。ところが、そのような情報処理は、AIの得意とするところ。教科書の片隅にあるような知識については、今後AIに任せるようになっていきます。

人間が取り組むべきは、答えが一つに決まらない課題に対して、多様な価値観を持つ人たちと協働しながら、最適な解を見出したり、課題を解決するためのプロジェクトを進めたりすることです。

産業構造も急激に変化し、現在の技術や知識が次々と時代遅れになっていきます。そこで必要になるのは、生涯を通して学び続ける力や、学び直して常に新しいものを生み出していく力です。

これまで優秀とされてきた情報処理能力だけではもはや十分ではなく、新たな学びに向かう力、挑戦する姿勢が求められるのです。

 

主体性評価への誤解

「主体性」を評価する、と言うと「調査書を気にして、生徒が先生に忖度する」と心配する人がいます。しかし、これは大きな誤解です。

まず、「主体性」を評価する、と言っても、調査書だけで選抜するようになるわけではありません。今回の大学入試改革では、従来のAO入試にも何らかの学力検査を必須にするなど、基礎学力の重要性はむしろ高まると考えられます。

次に、大学側は、担任教員が書いた所見の行間を読んで評価するわけではありません。現在導入が進められているJAPAN e-Portofolio(以下、JeP)や調査書などを活用して、高校3年間で何に取り組み、どんな成果を出したのかという客観的な事実から評価を行います。JePは生徒が自ら書き込み、生徒が選んだ教員が「事実である」と承認する仕組みなので、忖度の入り込む余地はありません。

 

入試改革は着実に進行

次に、入試の大きな変化に対して現場の混乱を懸念する声も聞かれますが、現在示されている方向性や理念に沿って2021年度入試から全面的に大学入試が変わる、というようなことは、現実的に難しいと考えています。大学側がそこまで対応できないからです。

しかしながら、次期学習指導要領が始まり、アクティブ・ラーニングや探究的学習に授業として取り組む学年(高校では2022年度より導入、今春の新中1から該当)が、大学入試を迎えるまでには、大学側は当然それらの成果を評価する基準を用意することになります。2021年度には、各大学がそれぞれ「主体性」に関わる、どのような成果や取り組みをどう評価するのか、募集要項に明記します。このようにして改革が進むことで、大学入試は、従来のふるいに掛ける試験から様変わりして、受験生の目標や関心と大学が求める学生像とのマッチングへと転換していきます。

本学では、2021年度入試から「総合型選抜」を全学部でスタートさせます。一般入試ながら、従来型のペーパーテストは課さない選抜で、一定の基礎学力をクリアした受験生に対して、書類・調査書および、知識・技能、思考力・判断力・表現力、学びに向かう力を総合的に見る新しい入試制度です。

 

10年後の大学入試

大学入試の改革は少しずつではありますが、世の中の変化に対して何もしない大学は衰退するばかりですから、10年以内には現在と大きく異なる制度になっているでしょう。

基礎学力については、記述式の問題も含めてCBTComputer Based Testing)により、AIが瞬時に採点する一方、「主体性」は人間の試験官が時間をかけてじっくりと評価する方向に進みます。

先ほど、入試はマッチングになると言いました。さらに進めると、受験生が自分の情報を各大学に提示することで、その受験生に来て欲しい大学がオファーを出す、逆指名型の入試や、求める学生を能動的に探し出すスカウティング型の入試も実現すると考えられます。これらはすでに就職活動や転職活動で一般的に行われていることです。

本学は、全国の大学に先駆けて「アドミッションオフィサー」という役職を設けました。時間をかけた丁寧な受験生の評価はもちろん、この逆指名やスカウティングも担うことが考えられます。今後、全国の大学で同様の職員が増えていくでしょう。

優秀な高校生には、複数の大学からのオファーが競合します。大学も選ばれる側となり、研究施設の充実など、より魅力的な大学作りが必要となります。

 

ひとりひとりの生徒を見つめる入試へ

JePを活用すれば、これまでの調査書や活動履歴だけでは追えなかった学びのプロセスを評価することができます。例えば、成果物として他の受験生との共著論文を提出してきた場合、どの部分がその受験生の成果なのか、正しく評価するのが困難でした。しかし、JePには、どんな参考文献を読んだのか、論文作成につながるどんな学びをしてきたのか、といったプロセスが記されています。同じ「生徒会長」や「部長」でも取り組んだ中身は一人一人異なるはずです。

「主体性」評価を契機として、合格するためだけの入試から、学びたいことや将来の目標を実現するための入試への転換が期待されます。私はこれを「ひとりひとりの生徒を見つめる入試」として、今回の大学入試改革の理想に掲げています。

知識問題にAIが答えを出す時代、人間には本質を見抜く力がより重要になります。ブラックボックスとしてAIを使うのではなく、どのような原理で動いているのか、何のために使うのか、その本質を理解していれば、AIに振り回されることなく、生き抜いていけると思います。

 

研伸館

 

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