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2018.7.20

FLL世界大会総合1位 「人づくり」のロボット教育
追手門学院大手前中学校・高等学校(大阪府 共学校)

 

2018年5月、米国カリファルニア州のレゴランドでFLL(ファースト・レゴ・リーグ)が開催された。レゴを使った世界最大規模のロボット大会で総合1位となったのは、追手門学院大手前中学校・高等学校ロボット・サイエンス部のチームだ。顧問であり、同校のロボットサイエンス教育を推進してきた教頭の福田哲也先生にお話をうかがった。

 

追手門学院大手前 福田哲也先生(左)とFLL総合1位のチーム

 

「人前で話すのは苦手だった」

「小学校では目立たない子供だった」

 

取材した生徒の言葉は意外なものだった。これは世界最大規模のロボット大会FLLで総合1位となったロボット・サイエンス部の一員から出た言葉なのだ。

 

FLLではロボットの設計・プログラミングを競い合うのはもちろん、毎年のテーマに関連する自由研究やチームでいかに課題を解決してきたかをプレゼンテーションする「コアバリュー」など、審査員を前にした英語での発表、質疑応答が審査される。そんな競技で世界トップになった生徒たちが、小学校まで「目立たない」「話すのが苦手」だったという。

世界20万人が参加するFLLでの総合1位は快挙だ

 

「ロボット教育の目的は、理科系の力やプログラミング能力だけではありません。課題に挑戦することを通して、一人前の大人になってほしいという思いで取り組んでいます。」

 

福田哲也先生がそう話す。福田先生は、アメリカの友人教師とともに日米共同のロボット教育プログラムを立ち上げ、同校に最先端のロボット教育を導入した立役者だ。

 

「生徒にただ”大きな声で話しなさい””英語でプレゼンしなさい”と言うだけで、できるようになるわけではありません。ですが、ロボットの世界大会という明確な目標があると、生徒は自ら練習をするようになります。」

 

取材中、福田先生はことあるごとに生徒を指名して、記者への説明をさせた。おそらく日常的に行われているのだろう。どの生徒の話も堂々とした態度で自分の言葉で話をしてくれた。人前で自分たちがやっていること、考えていることを説明することは、生きたプレゼンテーションの練習になる。さらに加えて、生徒の自主性を育てる場としても、ロボット教育が生かされている。

 

「大会への出場を生徒に強制することはありません。そのかわり、生徒が自ら出場したいと言い、アイデアをしっかりと練ってきた時には、土日も関係なく練習に付き合います。大会前などは私が休もうと言うと生徒に叱られることもあります。」

 

ロボットやプログラミングがこれからの時代に必要な素養なのは間違いない。しかし、あくまでも教材の一つ。学びを通して、人前で堂々と話す力や目標を持って取り組む意欲を育てることが教育の主目的なのだ。福田先生が常に意識しているのは「人づくりのロボット教育」だという。

FLLでの技術発表。英語で説明と質疑応答をする。

 

FLLのようなロボットコンテストで高い得点を出すというのは、非常に高度な知的活動だ。ロボットを作り、競技で高得点を取れるようプログラミングすること自体も難しいが、テーマに関連する自由研究やチームの取り組みを英語で説明するプレゼンテーションも簡単な課題ではない。

 

「FLLで優勝することの方が、難関大学に合格することよりも難しいと思います。大学の入試問題は人間が作ったもので必ず正解がありますが、チームで力を合わせてロボットをプログラムし、現実の課題を解決するというのは、模範解答などなく、自分たちで道を切り拓いていくしかないからです。」

 

ロボット・サイエンスの授業では、部員などが中心となって授業を進める。基本のスタイルは二人一組のチーム。二人でアイデアを出し合いながら課題に取り組んで行く。このスタイルはこれからロボット教育を導入しようという他校にとって、大きなヒントになる。

 

「教師が全て教えようとすると行き詰まります。教師が6人の生徒を指導役に育てれば、その6人が6人ずつ教えて36人。クラス全体に行き届きます。二人一組にするのは、一人だとわからない生徒がわからないまま置いていかれ、三人だと必ず誰か一人がリーダーになり、他の二人の学びが疎かになりがちだからです。二人だと、対等に意見を出し合いつつ、他人任せにもできません。」

 

同校のロボットサイエンス部は世界的にも強豪チームと目されている。ロボット先進国・日本の代表として誇らしいところだが、福田先生は日本のロボット教育に危機感を抱いている。

 

「日本のロボット教育は世界的に見て遅れています。レゴがロボット教育の教材を発売してから15年、東南アジアやロシアなどではどんどん教育に取り入れられてきました。皮肉なことに彼らは『日本のようになりたい』と言っています。その日本では、すでに中学校の技術でプログラミング教育が導入されているものの、まだまだ不十分な状況です。」

 

2020年度以降、日本の教育も変化が期待されている。小学校でのプログラミング必須化は目玉政策の一つだ。15年間、変わることができずに来た、我々の学力観にも変化が求められている。

 

「私たちがこれまで学力だとみなして、測ってきた力というのは、人間のわずかな一面に過ぎません。人前で上手に話をする力も、思い通りにロボットを組み立てる力も学力だったのです。日本の大学がそれらの力を正しく評価しなければ、ペーパーテストばかり得意で社会に貢献できない大人が増えていくことでしょう。」

 

「ロボットで世界の大学へ」と話す福田先生は常に世界を見ている。その影響もあったのだろう、FLL優勝チームのリーダーは将来の夢にNASAのエンジニアを挙げてくれた。同校のロボット教育を受けて育った生徒が世界のトップレベルで活躍するのも時間だけの問題に思えた。

 

追手門学院大手前中学校・高等学校
www.otemon-js.ed.jp
大阪市中央区大手前1-3-20 TEL 06-6942-2235

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