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2018.4.4

子供の潜在力を測るLEGO®ブロック
聖学院中学校(東京都 男子校)

2020年の大学入試改革と次期指導要領で日本の教育は大きな転換点を迎える。その一つが記憶力に偏った学力評価からの脱却だ。しかし、学校現場が脱却できても肝心の入学試験が知識偏重のままでは、結局、塾も学校も入試を見据えた授業を続けざるを得ない。そんな中、LEGO®ブロックを使って受験生の思考力を測ろうという学校がある。東京都北区の男子校・私立聖学院中学校だ。未来の入試の可能性を感じさせる同校の「思考力ものづくり入試」について、思考力入試担当でLEGO®SERIOUS PLAY®認定ファシリテータの内田真哉先生にお話をうかがった。

 

問 資料を見て、この国で起きている問題は何かを考え、その解決策をLEGOで表現しなさい。(2016年度 聖学院中学校 入試問題より)

資料を読んで、課題を見つける――ふむふむ、公立中高一貫校の適性検査型か。お、解決策まで問うのか、なかなか難しいな。ん? ……レ、レゴで?

聖学院中学校の「思考力ものづくり入試」の説明を初めて聞いたとき、多くの人は衝撃を感じるに違いない。何しろ正解が一つではない出題というだけではない。解答方法がブロックを組み立てることなのだ。

「中学入学前の子供の成長はさまざまです。特に男子には、感覚的にはきちんと理解していたり、優れた想像力を持っていたりしても、それをうまく言葉で表現できない子が多い。ところが、自分の手を動かして作ったモノを前にすると、スルスルと説明が出てくることがあります」


思考力ものづくり入試の解答例(1)


思考力ものづくり入試の解答例(2)

「思考力ものづくり入試」を導入した経緯について内田先生はそう説明してくれた。この入試のベースであるLEGO®SERIOUS PLAY®も、人は頭だけで考えていても新しい知識は構築できない。「何かをつくることで学ぶ」という考え方に基づいている。この考え方(コンストラクショニズム)はシーモア・パパードMIT教授が提唱した心理学・教育学の理論で、今や世界中のIT教育や科学分野の研究などに採り入れられている。

「2教科・4教科の解き方を塾で身につけたというのはもちろん評価されるべきことですが、従来の入試方式ではそのタイプの受験生しか合格できませんでした。スポーツや芸術などに打ち込んできた小学生、塾に通い始める時期を逸したけれど潜在能力や学習意欲の高い小学生、そういった子供たちにとって不利にならないルートをと考えています」

内田先生が指摘するように、実際に「思考力ものづくり入試」の受験生の約半数は中学受験のための塾に通わなかった子供たちだという。とはいえ、何も勉強しなくても合格できる、運任せの入試だと捉えるのは大きな間違いだ。

「今年度は、世界の児童労働の問題について出題しました。資料として、就学率と上下水道普及率との相関を示して、解決策を考えてもらいました。出題側としては『上下水道を整備する』という解答を予想していましたが、安価な衣料品を製造するために子供が働かされるという知識を持っている受験生が『先進国の消費者がフェアトレードをする』という解答を出してきました」

資料を読み取り、自らの知識を総動員して課題に立ち向かう。当然ながら、そこでは学んだ知識は重要な武器になる。確かに2教科・4教科の試験ではあまり役に立たない知識かもしれないが、児童労働についての知識や関心も立派な学力であるはずだ。

そうはいうものの、やはり多くの教育関係者が懸念するのは授業について行けるのか、という点だ。いくらユニークな創造力を持っていても基礎学力が不足していては、入学後に脱落していくのは容易に想像できる。その点を尋ねると

「まず、綿密に策定したルーブリック評価で合否を決めるので、高い客観性が担保されています。採点に関わる複数の教員がほぼ同じ得点をつける場合も珍しくありません。その上で、採点者同士が意見交換し、受験生本人の説明も聞くので、一見読み取れない受験生の深い考えまで含めて判定ができるのです。これは教科型の入試にはないメリットでしょう。例えば、2016年度にタイの水不足を出題したとき、灌漑施設や溜池といった対処療法的な答えではなく、植林という環境問題の本質をついた解答をした生徒は、現在成績トップクラスです。他の入学者も、クラスのリーダーであったり、行事のアイデアを活発に発言したり、周りの生徒を引っぱってくれています」

「思考力ものづくり入試」で測ろうとしている力は、入学後の成績と無関係なものではない。むしろ長期的に見れば、努力を評価する側面が強い教科型の入試よりも学力との相関が高い可能性もある。算国社理だけで学力が測れると思い込んでいる我々の方が、常識に囚われているのかもしれないのだ。イノベーションを起こしたり、便利さを超えたユーザー体験を提供したりすることが価値を持つ時代に、従来型の学力の測り方では追いついていないのかもしれない。

最後に「思考力ものづくり入試」に込められた同校からのメッセージを紹介しよう。

「この入試には、世界の経済活動は単独の国さえよければいいわけではなく、持続可能な社会の構築が大切である、というメッセージを込めています。そのため、出題されるテーマは地球規模の問題や環境といったところが多い。本校はキリスト教の学校なので、『他者の思いがわかる人。自らの才能を他者のために生かせる人』というアドミッションポリシー(求める生徒像)も作問や採点に反映されています。先ほどの児童労働の例のように、ご家庭での日常が垣間見える入試でもあります。お子さんとの対話を大切にして、一緒に本を読み、調べ学習をする時間を持ってください」

 

聖学院中学校・高等学校
www.seig-boys.org/
東京都北区中里3-12-1  TEL 03-3917-1121

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