MIRAI NO MANABI ミライノマナビ

ミライノマナビコラム  ― そこが知りたい小学校英語

2020.1.18

第8回 小学校英語で「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「学びに向かう力・人間性」に取り組む

高橋 美由紀

高橋 美由紀

博士(地域研究)
愛知教育大学名誉教授
外国語教育メディア学会副会長・小学校英語教育研究部会代表
世界の研究者が関わった「TOEFL Primary」のテスト開発会議に参加し、制作に携わる。 全国の小学校での外国語活動の指導助言や調査・研究を行う。
主な著書『CLIL in Diverse Contexts 次期学習指導要領とCLILを活用した英語の授業づくり』(2020) 鳴海出版、『小学校授業づくりのポイント』(2015) ジアース教育新社、『新しい小学校英語科教育法』(2011) 協同出版

 

私立小学校が取り組む1年生からの英語教育

「21世紀を切り拓ひらく心豊かでたくましい日本人の育成」を目指して、2020年度から公立小学校では中学年に外国語活動・高学年に外国語教育が本格実施されます。

一方、私立小学校では1年生から既に外国語教育を行なっているところもあります。今回ご紹介する小学校では、次期学習指導要領で示されている育成すべき三本の柱「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「学びに向かう力・人間性」の教育に2003年度から取り組んでいます。

小学校1年生の英語科では、「論理的思考力に基づくクリティカルなものの見方・考え方」を通して、「相手の意見を批判的に聴き、質問する力を鍛える授業実践」をテーマに英語の授業を行なっています。指導者は英語専科の日本人教師です。授業は基本的には英語のみで進められますが、理解できない場合にのみ日本語と英語の両方が使用されます。

参観させて頂いた授業では、『What Is Big?』の絵本を使用して、この絵本を基に子どもたちがオリジナルのクイズ絵本を作り、クラスメートの前で絵本を見せて、「What is big?」 「A(An) 〇〇 is big.」のやりとりを通して、客観的な視点でクイズを出し合う活動を行なっていました。

参観授業の前に、教師が絵本の読み聞かせをTPR等の教授法を通して行ない、語彙や表現、内容を理解させます。指導者は侑香子教諭です。

※TPR:Total Physical Response。「全身反応教授法」などと訳される。身体を動かしながら英語を身につける教授法。

教師:(クマの顔が半分隠れ、それを2匹の蟻が見ている絵を示して)What is big?

子どもたち:I think it’s a bear,

教師:because……(子どもたちに促すように)it’s……(colorのカードを示す)

子どもたち:brown.

教師:because it’s brown. it’s……(shape のカードを示す)

子どもたち:it’s circle.

教師:it has……(クマの顔半分の絵を示した後、detailsのカードを示す)

子どもたち:ear!, ears!, eye!, eyes!, mouth! nose! (等口々に話す)

教師:it has ears, eyes, a mouth and a nose.

子どもたち:(教師が指し示した絵と文字を見て)、it has ears, eyes, a mouth and a nose.

この様に、絵本の内容理解に伴って、子どもたちは様々な形容詞や語感を掴みとることができました。もちろん、文字(アルファベット)学習についても「英語絵本」を活かした学習で自然に楽しみながら学んでいました。

 

オリジナル絵本を発表

次に、この絵本にならって、子どもたちが独自で考えた「クイズ絵本」の制作をしました。絵本作成にあたり、アルファベットを正確に書くことや、クイズで自分が使用する知りたい語彙について、辞書を引きます。そして、クラスメートの前で発表するために、「引いた語彙」については、フォニックスを使用して発音して覚えます。何度も何度もクイズ絵本を見ながら、発表の練習をしました。

さぁ、いよいよ本番です!出題者はひとりづつ順番に前に出てきます。Aさんが自作のクイズ絵本を書画カメラに写しだして、教室の前に立ちました。

A:(絵本の1ページ[動物のしっぽと、それを見ている2匹の蟻の絵]を指して)What is big?

(手を挙げている児童の中からAさんがBさんを指名した)  

B: I think it’s a rhino. Because it’s gray.

A:(絵本のページをめくり)That’s right! A rhino is big.

次はDさんです。

D:(絵本の1ページ[大きな円の4分の1と箸、それを見ている2匹の蟻と箸に登っている1匹の蟻の絵]を指して)What is big?

(手を挙げている児童の中からDさんがEさんを指名した)

E:I think it’s a bowl. Because it’s (the shape is ) circle.

D:Uooon! Close! 

(手を挙げている児童の中からDさんがFさんを指名した)

F:I think it’s a noodle bowl is. Because it’s circle. And it’s yellow. I can find chopsticks.

D:(絵本のページをめくり)That’s right! A noodle bowl is big.

次はMさんです。Dさんと同じような絵でした。

M:What is big?

(手を挙げている児童の中からMさんがOさんを指名した)

O:I think it’s a lemon. Because it’s yellow!

M:Sorry. No!

他の子どもたちも次々に思いつくものを英語で言いますが、正解は出ません。Mさんは、友達からの正解がないので、ちょっと残念そうな表情をしました。

M:A pumpkin is big!

クラスのみんなが「あっ! そうか!」「へぇー、分からなかった!」等口々に話しました。

 

英語を学びながら創造性と自己肯定感を高める

クラス全員の「絵本クイズ」が終わった後は、「オリジナル絵本の展覧会」を行ないました。

クラスを半分に分けて「(1)グループ」の児童が「(2)グループ」の児童が作成した絵本を見て、その絵の良いところをみつけ、英語で誉め伝え合う活動です。

C:I like your picture. Because it’s beautiful.

G:I like your picture. Because it’s wonderful and fantastic!

次に、(1)と(2)を交替して、お互いの絵を誉め合いました。そして、最後は、自分の席で、一番好きな絵本を作成した人に手紙を書くことにしました。

先生のお手本にならって、「Dear       . I like your picture, because it’s        .」とクラスメートの名前と、その理由を書きます。

小学1年生の子どもたちの笑顔がとても印象的でした。「発表・やりとりを楽しみながら」英語を学ぶことができる活動でした。

「知識・技能」の観点からは、「聴くこと」「話すこと」から「読むこと」「書くこと」へと繋がっていました。

「思考力・判断力・表現力」の観点からは、子どもたちの身近なものの名前や形容詞がそのままクイズ絵本の題材となっていること、そして、絵を視覚補助として音読活動につなげることができること、さらに、クイズ形式にしたことで子どもたちの創造性と自己肯定感が高まると思いました。

「学びに向かう力・人間性」の観点からは、クラスメートの絵を誉め合ったり、手紙を書く活動を行なうことで、英語を使って友人とのつながりを大切にする活動であり、子どもたちが英語を学ぶ意義等についても感じ取ることができたと思いました。

 

Category カテゴリ―