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ミライノマナビコラム  ― 授業が変わる 学校が変わる

2020.2.14

第8回 21世紀型スキルを発揮したすがたと授業づくり(2)

益川 弘如

益川 弘如

博士(認知科学)
聖心女子大学現代教養学部教育学科 教授
認知科学者。学習科学、教育工学、協調学習が専門。
著書に、「学びのデザイン:学習科学 (教育工学選書II)」(編著)、「21世紀型スキル: 学びと評価の新たなかたち」(翻訳)「アクティブラーニングの技法・授業デザイン」(共著)など。

 

 前回のコラムでは、21世紀型スキルを「目標創出型・学習者中心型」で育む授業実践に向けて、10個のスキルのうち3つのスキル「創造性とイノベーション」「コミュニケーション」「コラボレーション・チームワーク」を取り上げました。今回のコラムでは、続いて4つのスキルを紹介します。

 

21世紀型スキルの初級状態から上級状態へ(2)

情報リテラシー・調査活動

 情報の収集と活用など、情報活用能力のひとつである「情報リテラシー・調査活動」にも初級状態と上級状態が存在します。

 「目標到達型・学習者中心型」として学習環境を設計すると、学習者自身が「何らかの」調査活動を行うことで、活動が達成できたことになりがちです。例えば、教師が与えた課題や問いに対して、書籍やインターネットから、答えをコピーし、そのままプレゼンテーションに貼り付けたり、レポートに引用したりするだけで終わってしまうです。実験やアンケートなどを行う調査活動でも、一部の数値を変えたらどうなるか、なぜその質問をするのか深く考えずにとりあえず聞いてみようといった、思いつきの調査、プロセスをこなすことが目的化してしまった活動にとどまります。これが初級状態です。

 「目標創出型・学習者中心型では、教師が与えた課題や問いに対しても、書籍やインターネットから直接得られる情報を超えて答えを創り上げていきます。様々な情報を組み合わせて、自分なりに整理し、足りない情報を同定し、その上で新たな情報を作り上げ、教室内の友達や、ネット上に広く共有します。作り上げた情報を自分以外の人たちにも役立ててもらいたいという貢献の視点があるからです。実験やアンケートなどを行う調査活動場合、その調査は新たな情報を作り上げる、という目的に位置付けられています。これが上級状態です。

 

批判的思考・問題解決・意思決定

 批判的思考(クリティカル・シンキング)、問題解決、意思決定といったスキルは、どのような文脈で発揮させるかに注意が必要です。

 「目標到達型・学習者中心型」では、教師が45分、50分の一つの授業の中で指示した範囲内、または教師の小発問に対して直接的に、批判的思考や問題解決、意思決定を行うことができる、言わば限定的な範囲(答えを出しやすい範囲)で誰かに指示された範囲で取り組み、それで満足して終わってしまうような活動です。これが初級状態です。

 「目標創出型・学習者中心型」では、教師が提示した問いに対して、単元の流れ全体や学習領域全体を踏まえつつ、批判的思考や問題解決、意思決定を行います。その活動の文脈は真正性(本物に近い)が高く、課題を解決していくなかで、さらなる問いや疑問を発見していきます。有望な解決策を見つけ出す活動を通して、思考のレベルが上がっていくような姿です。単純な問題解決ではなく、複雑で、システム思考で検討する必要性が生まれてきます。これが上級状態です。

 

地域とグローバルでよい市民であること(シチズンシップ)

 「目標到達型・学習者中心型」では、学級文化、学校文化、組織・コミュニティの文化の中での規範・ルールを守ることを大事とします。学習者は、その範囲内で最善を尽くすような活動を行います。また、自分自身の個人的な権利をまずは優先して物事を考えようとします。これが初級状態です。

 「目標創出型・学習者中心型」では、これからの知識創造社会の中での一市民であることを認識させ、教室や学校の枠を超えたグローバルな取り組みに貢献することを目指していきます。チームでの活動でも、一人ひとりのメンバーの多様な視点を尊重して価値を認めます。そして、課外活動はもちろん、決められた学習場面においても、世の中に貢献していくような成果を創り出していくことを大事にします。そのような活動の中でリーダーシップを発揮していくとともに、従来の規範・ルールに課題があった場合にはその改善にも取り組み、多様な立場の権利を支持します。これが上級状態です。

 

ICTリテラシー

 ATC21Sプロジェクトでの21世紀型スキルでは、情報リテラシーとICTリテラシーを分けています。どちらも情報活用能力ですが、情報リテラシーでは情報の扱い方にフォーカスしている一方、ICTリテラシーではテクノロジの活用にフォーカスしているのが特徴です。

 「目標到達型・学習者中心型」では、仕事でも使うような一般的なアプリケーションや、ウェブ上の各種サービスや情報に慣れ親しみ、必要なときに使うことができることが目標となっています。実際ICT環境が整っている多くの学校で、レポート作成と合わせてキーボードが不自由なく使えるようにしたり、プレゼンテーションソフトでの資料作成や動画編集などが行われていたりします。しかし、この範囲では、初級状態です。

 「目標創出型・学習者中心型」では、すべての教科や学習活動においてICTが日常的に埋め込まれて活用することが重要となってきます。ネットワーク上のクラウド等を介して、常に共有されたコミュニティ空間が作られていて、教室内の友達どうしの情報共有や、学校の枠を超えた世界規模での関係構築も行われつつ、リソースやネットワークが広がり続ける中で学びが展開されていきます。これが上級状態です。

 今回は「情報リテラシー・調査活動」「批判的思考・問題解決・意思決定」「地域とグローバルでよい市民であること(シチズンシップ)」「ICTリテラシー」の4つを取り上げました。この4つの21世紀型スキルは、今後も発展し続ける社会において「一人ひとりがいかに世の中に貢献していくことができるか」が問われるスキルとも言えるでしょう。

 

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