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2021.8.13

第14回 教育の情報化で変わる学びのかたち(2)

益川 弘如

益川 弘如

博士(認知科学)
聖心女子大学現代教養学部教育学科 教授
認知科学者。学習科学、教育工学、協調学習が専門。
著書に、「学びのデザイン:学習科学 (教育工学選書II)」(編著)、「21世紀型スキル: 学びと評価の新たなかたち」(翻訳)「アクティブラーニングの技法・授業デザイン」(共著)など。

一人一台の端末環境整備をはじめ、学校内外で「学び」のために多様な情報機器を活用する時代になってきました。この学習環境の変化は、「目標創出型・学習者中心型」で学ぶ機会を後押しする方向に動いています。しかし、使い方を誤ると「目標到達型・教授中心型」を助長する方向にも動いてしまいます。「学校」の歴史を振り返り、今、どんな方向に進もうとしているのか。前回に引き続き、『デジタル社会の学びのかたち Ver.2 教育とテクノロジの新たな関係』からアメリカにおける「学校」の歴史と変化を紹介し、日本の今後を考えていきたいと思います。

 

デジタル社会の学びのかたちとは?(2)

 『デジタル社会の学びのかたち Ver.2 教育とテクノロジの新たな関係』(A.コリンズ R.ハルバーソン(著),稲垣忠(編訳)(2020)北大路書房)では、教育の歴史を「徒弟制時代」「公教育時代」「生涯学習時代」の3つの段階にわけて、アメリカにおける教育の変化を以下の8つの視点から整理しています。

 前回は、1から4までを紹介しました。今回は、5から8までを紹介し、アメリカにおける教育の変化のまとめを踏まえ、日本における教育の情報化の今後を考えていきたいと思います。

1.責任:教育の責任は誰なのか
2.期待:教育に何を期待しているのか
3.内容:どのような内容を教育するのか
4.方法:どのような方法で教育するのか
5.評価:教育の成果をどのように評価するのか
6.場所:どこで教育するのか
7.文化:教育の文化的背景はどのようなものか
8.関係性:どのような関係性で教育するのか

 

5.評価:「観察」から「ペーパーテスト」へ、そして「状況に埋め込まれた評価」へ

【徒弟制時代】学習者を注意深く見守り、寄り添いながら指導し、できそうな課題を与え、成功を見届けていました。学習者の丁寧な見守りと学習者へのフィードバックが密接となったサイクルは学習者が失敗から学ぶためにも役立ちました。学習者の能力を理解し、次にどうなりそうかの問題点も把握でき、それに合わせた課題を出すことができました。学習者も何を学ぶ必要があるかが明確でした。

【公教育時代】徒弟制のプロセスは高コストのため、テストを用いて判断するようになりました。徒弟制では形成的な評価(その場におけるフィードバック)でしたが、テストは、ある段階で、教室にいる生徒が同じレベルにいるかどうかを確かめるために作られました(形成的評価に対して総括的評価と呼ばれています)。テストはある種の線引き行為が常に含まれるため、合格・不合格という考え方がもたらされました。学習者は順位付けられ、他者と比べるようになり、挫折感を生じさせることになりました。

【生涯学習時代】再び徒弟制のように、学習者の関心や能力をカバーするようになり始めました。一つはコンピュータ適応型学習システム(AIドリル等)による即時フィードバック、もう一つは、ネットワーク内の仮想グループでの仲間同士の相互評価によるフィードバックです。個々人の学習者の継続的な学習プロセスが蓄積され、評価もカスタマイズできるようになることで、より適切なフィードバックをもとに、学びやすくなっていくかもしれません。

 

6.場所:「家庭」から「学校」へ、そして「どんな場所でも」へ

【徒弟制時代】地元の家庭や地場産業で利用可能な仕事に集中しており、その家庭や職場で学んでいました。

【公教育時代】学校という場を作って教育するようになりました。そして多くの職場でも学校のような環境が作られ教育されるようになり、実技等で測定すべき事柄もペーパーテストで測定するような状況が生まれました。

【生涯学習時代】対面での相互作用はあらゆる形態の学習において引き続き重要な価値をもちつつ、バーチャルに完全に置き換わることはありませんが、オンラインで学習環境にアクセスできることで、教育が行われる場所の概念が大幅に拡大しています。人々が、いつでも、どこでも、学びたいときに学習できる時代が近づいています。

 

7.文化:「大人文化」から「仲間文化」へ、そして「年齢ミックス文化」へ

【徒弟制時代】大人が文化を定義し、子どもたちはその地域の大人たちの文化に参加し学んでいくため、若者だけで独立した仲間文化・青年期は存在しませんでした。

【公教育時代】中学・高校で同年代の仲間が集まる仲間文化が生まれました。学校行事や部活にたっぷり参加する生徒たちがいる一方、学校や先生を敵対視し、非学校的な活動に参加する生徒たちが登場ました。仲間文化はエンターテイメント、ファッション、広告業界を変え、その文化にどっぷり浸かる生徒たちが登場ました。

【生涯学習時代】興味・関心中心のオンライン文化と結びつくと、熟達レベルや年齢が異なるメンバーとの間で情報交換が行われるようになり、地元の仲間文化からの影響が小さくなると考えられています。

 

8.関係性:「個人的結びつき」から「権威者」へ、そして「コンピュータを介した相互作用」へ

【徒弟制時代】親や身近な親戚、友人など、よく知っている大人から教わり、深い絆を築いていました。大切な人を失望させないよう、喜ばれるよう学んでいました。

【公教育時代】子供たちと先生は年度初めに初めて関係を構築することになりました。多人数に1人のため、徒弟制のような関係づくりが難しく、権威性をもってクラス運営する先生も多いでしょう。敬意を払うかどうかは子供次第となりました。

【生涯学習時代】徒弟制による関係性の特徴をいくつか取り戻しています。ネット上のコミュニティに参加したり、共通の興味を持つ生徒同士で交流するようになりました。徒弟制ほど豊かでなく、コンピュータ上という限界がありますが、新たな相互作用が生まれてきています。

 

学校教育と生涯学習が一体化していく時代へ

 前回から今回にわたって、8つの視点を紹介しました。『デジタル社会の学びのかたち Ver.2 教育とテクノロジの新たな関係』によると、今後も高度情報技術の進展によって、学校教育が中心であった公教育時代の役割は終わり、生涯学習時代へのシフトが進むと紹介されています。しかし、国内において、GIGAスクール構想の推進によって一人一台端末の普及し、今後も高度情報技術の進展が続いたとしても,学校教育の役割がなくなっていき、そのままドラスティックに生涯学習時代へと移行することはないでしょう。

 実際、昨年度のコロナ禍における学校の臨時休校措置によって、学校の福祉的役割、子供同士のつながりの中での学びなど、学校の役割が再認識されたところです。ポストコロナ社会では、コリンズやハルバーソンの言う「公教育時代から生涯学習時代へのシフト」というより、公教育と生涯学習が併存していく、「公教育と生涯学習の一体化時代」へのシフト、と表現した方がいいかもしれません。

 そのような中で、子供たちが一人一台端末環境を「学びの道具」として活用しながら、従来の学校・教室という枠組みでは難しかった学びが実現できたり、授業時間外の学びがより豊かになっていったりする動きは加速していくことでしょう。しかし、それらの学び方が「目標到達型・学習者中心型」で留まるのではなく、「目標創出型・学習者中心型」として実現していくためには、実際の学び手がいかに学んでいるか、期待される学びを引き起こしているか、丁寧に見ていく必要があるでしょう。

 本書では、生涯学習時代は徒弟制時代の良い点を取り戻していると指摘されています。しかし、徒弟的な学びであっても場合によっては「目標到達型・学習者中心型」を目標にした教育もたくさんありました。これからの教育がより良い方向に向かっていくために、学習者の学びを丁寧に見とりつつ、次の学びに向けた支援を考えていくことの重要性については、次回以降、紹介していこうと思います。

 

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