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ミライノマナビコラム  ― 授業が変わる 学校が変わる

2019.2.8

第4回 うまく学ぶための条件をいかした授業づくり

益川 弘如

益川 弘如

博士(認知科学)
聖心女子大学現代教養学部教育学科 教授
認知科学者。学習科学、教育工学、協調学習が専門。
著書に、「学びのデザイン:学習科学 (教育工学選書II)」(編著)、「21世紀型スキル: 学びと評価の新たなかたち」(翻訳)「アクティブラーニングの技法・授業デザイン」(共著)など。

 

前回のコラムでは、新しい学びのゴールに向けた「目標創出型・学習者中心型」の授業づくりを進めていくための「子どもたちがうまく学ぶための条件」を紹介しました。今回は、このうまく学ぶための条件を実際の授業場面に効果的に取り入れた授業事例として「知識構成型ジグソー法」を紹介します。

知識構成型ジグソー法は、前回までのコラムで紹介してきた三宅なほみ教授が立ち上げた東京大学CoREF(http://coref.u-tokyo.ac.jp)にて、中心的に扱われている授業改革の取り組みです。東京大学CoREFは、全国の小学校・中学校・高等学校、そして教育委員会と大学が連携して「目標創出型・学習者中心型」の授業づくりを支援しています。

 

知識構成型ジグソー法による授業の流れ

東京大学CoREFのホームページには、知識構成型ジグソー法の具体的なステップをはじめ、多くの実践事例が収められています。その中から、具体的な授業のステップを引用して紹介します。

 

STEP.0 問いを設定する

まず先生は、単元での「問い(課題)」を設定します。この時、既に知っていることや、3つか4つの知識を部品として組み合わせることで解けるものになるように設定し、その問いを解くのに必要な資料を、知識のパートごとに準備します。

STEP.1 自分のわかっていることを意識化する

「問い」を受け取ったら、はじめに一人で今思いつく答えを書いておきます。

わかっていることを意識化

 

STEP.2 エキスパート活動で専門家になる

同じ資料を読み合うグループを作り、その資料に書かれた内容や意味を話し合い、グループで理解を深めます。この活動をエキスパート活動と呼びます。担当する資料にちょっと詳しくなります。

知識パートに別れて行うエキスパート活動(色ごとに異なる資料を読む)

 

STEP.3 ジグソー活動で交換・統合する

次に、違う資料を読んだ人が一人ずついる新しいグループに組み替え、さきほどのエキスパート活動でわかってきた内容を説明し合います。このグループでは、元の資料を知っているのは自分一人なので、自分の言葉で自分の考えが伝わるように説明することになります。この活動が、自分の理解状況を内省したり、新たな疑問を持つ活動につながります。同時に他のメンバーから他の資料についての説明を聞き、自分が担当した資料との関連を考える中で、理解を深めていきます。理解が深まったところで、それぞれのパートの知識を組み合わせ、問いへの答えを作ります。

知識を持ち帰ってジグソー活動

 

STEP.4 クロストークで発表し、表現をみつける

答えが出たら、その根拠も合わせてクラスで発表します。他者の意見に耳を傾けて、自分たちも全体への発表という形で表現をし直します。各グループから出てくる答えは同じでも根拠の説明は少しずつ違うでしょう。互いの答えと根拠を検討し、その違いを通して、一人ひとりが自分なりのまとめ方を吟味するチャンスが得られ、一人ひとりが納得する過程が生まれます。

STEP.5 一人に戻る

はじめに立てられた問いに再び向き合い、最後は一人で問いに対する答えを記述してみます。

より深い理解に到達

 

知識構成型ジグソー法とうまく学ぶための条件

知識構成型ジグソー法を受けた子どもたちからは「ゆっくり課題に取り組める」「友だちの考えが自分と違うから楽しかった」「大事なことがすっと頭に入ってくる」「次々と知りたいことが出てくる」という声が、また、先生方からは「一人ひとりが分担した資料を伝えたいと思う状況を経験し、伝え方を工夫することによってコミュニケーション能力の基盤をつくることができる」「話し合って学ぶと自分の考えがよくなるという体験を通して、協調的な問題解決が好きになる、そういった問題解決を体現できる」などの報告があったとのことです。

知識構成型ジグソー法は「子どもたちがうまく学ぶための条件」がうまく取り入れられている方法となっています。前回のコラムで紹介した7点と関連付けて紹介します。

1) 参加者が共通して「答えを出したい問い」を持っている

STEP.1で授業時間中に考えてほしい「問い」を明確に伝え、教室の全員が共通した目標である「答えを出したい問い」を持っている状況が実現されます。

2) 問いへの答えを、一人ひとりが、少しずつ違う形で、最初から持てる

STEP.2のエキスパート活動によって、一人ひとりが少しずつ違う考えを持つことになります。

3) 一人ひとりのアイディアを交換し合う場がある、言い換えれば、みんな自分の言いたいことがあって、それが言える

STEP.3のジグソー活動が当てはまります。グループ内の他の生徒が知らない内容なので伝えたいという思いが強くなり、他の生徒の話も知らない内容なので真剣に聞くことになります。

4) 参加者は、いろいろなメンバーから出てくる多様なアイディアをまとめ上げると「答えを出したい問い」への答えに近づくはずだ、という期待を持っている

STEP.0で、教師が「問い」を明確に設定していますので、STEP.3ジグソー活動で伝えあった後、その内容を組み合わせて「問い」の答えづくりをする対話が続きます。

5) 話し合いなどで多様なアイディアを統合すると、一人ひとり、自分にとって最初考えていたのより確かだと感じられる答えに到達できる

対話を通して、問いの答えがだんだん見えてくると、STEP.1で考えていたことよりも、深い理解に到達していることを実感できます。

6) 到達した答えを発表し合って検討すると、自分なりに納得できる答えが得られる

STEP.4のクロストーク活動で、各グループで作り上げた「答え」を発表し合います。新たに考えを比較する機会となり、クラス全体での対話を通してさらに自分なりに納得できる答えを得ることができます。

7) 納得してみると、次に何がわからないか、何を知りたいか、が見えてくる

STEP.5で、自分の考えを改めて記述することで、STEP.1時点からの自分の理解の深まりを実感するとともに、今日学んできた内容の先に、知りたいことや疑問に思うことが生まれ、さらなる学びにつなげていくことができます。

このように、知識構成型ジグソー法はうまく学ぶための条件をうまく取り入れた「目標創出型・学習者中心型」の授業です。また、子どもたち一人ひとりが主体的に対話したくなる仕掛けが散りばめられていて、学習者が「能動的で有能である」ことを前提としたデザインにもなっているのです。次回は実践事例をご紹介します。

 

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