MIRAI NO MANABI ミライノマナビ

ミライノマナビコラム  ― 今、なぜロボット・プログラミング教育が必要なのか

2019.12.6

第5回 ロボット開発によってSDGsの学びを深化させる

福田 哲也

福田 哲也

追手門学院ロボット・プログラミング教育推進室 室長
教科は理科。前職の奈良教育大学附属中学校ではじめたロボット・サイエンス教育を、追手門学院大手前中学校で正規の授業として取り入れた。ロボット・サイエンス部の顧問として、多くの世界大会への出場、入賞を果たしている。2度の文部科学大臣賞を受賞。
日本のロボット教育の普及・啓発を目指して、ロボット教育のカリキュラム監修や出張講義などにも取り組む。

 

 

目に見える解決モデルをつくり、SDGsに挑む

最近、「SDGs」という言葉をよく耳にする。SDGs(持続可能な開発目標)とは、持続可能な開発 のための17のグローバル目標と 169のターゲットからなる国連の開発目標の略称である。(図 1) また、高校の「総合的な探究の時間」のテーマとしても、企業の社会貢献のキーワードとしても、 注目されている。

図1 SDGsの17の目標

 

とはいえ、SDGsのテーマは、国際的な課題であることから、教育活動として具体的な行動にまで発展させることは難しい。しかし、課題解決の方法をモデル化することによって、より具体的に思考を深め、実行・発信につなげることができる。そして、課題の理解を深め、実現のために何をすべきか、考える機会に繋がるのである。

今回、追手門学院大手前中高の実践例を紹介する。同校では、毎年、SDGsに興味ある生徒がチームを組み、SDGsを意識した課題を解決するためのロボット製作に取り組んでいる。これまで製作したロボットを次に記す。

2016年 SDGs No15 環境問題 「日本の森を守る枝打ちロボット」
2017年 SDGs No11 コミュニティ問題 「心をつなぐ手話通訳ロボット」
SDGs No15 環境問題 「農作物を傷つけない農作物回収ロボット」
2018年 SDGs No 2 食糧問題 「食品ロスをなくす食品並び替えロボット」
SDGs No 3 福祉問題 「心にも栄養を与える食事介助ロボット」
2019年 SDGs No14 海洋環境問題 「進化型海上ゴミ回収ロボット」
SDGs No 3 福祉問題 「癒やしも兼ね備えた盲導犬ロボット」

上記のロボットタイトルを見てもわかるように、課題を熟考し、課題解決に挑戦している様を察することができる。

 

【実践例】食品ロス削減「消費期限食品並び替えロボット」開発に取り組む

数ある実践の中から、2018 年度に取り組んだロボットの開発過程をまとめた。

1 テーマの設定(2月~3月)

ロボット開発において、「何をつくるか」ということは重要である。安易にテーマを決めるのではなく、とことん考える時間をとり、課題と向き合うようにしている。議論の流れを次に述べる。

「【SDGsのNo2飢餓をゼロに】に焦点をあてる」

→「一方で食品を大量に廃棄している事実を知る」

→「食品ロスを減らすことで、生産者の負担だけでなく、流通、食品価格、さらには環境問題にも良い影響を与えることを推察する」

→「食料品店にも取材。人件費のこともあり、つねに消費期限順に並びかえることができない事実を知る」

→「省スペースで、自動で消費期限順に並びかえるロボットを製作することに決定」

 

2 ロボットの製作(4月~10月)

テーマが決まると、どのようなロボットを製作して、モデル化するのか、具体的な活動に落としこむ。 その際、ゴールイメージを明確にし、「誰が」「何を」「いつまでに」「どのように」つくるのかを意識する。また、ロボット製作費用を捻出するために、教育助成金の申請を行ったり、新しい技術を習得するために、どの機関の誰に指導を仰ぐかも考えたりする。中高生にとっては、これらの活動はかなりハードルが高いものであるが、自分たちで決めたということが、ハードルを越える力をもたらす。一連の過程を視察した人から「まるで企業のようですね」とよく言われる。そして、進捗確認と環境整備が指導者の重要な役割となる。

実際に製作したロボット(図 2)の主な技術は次の通りである。

●消費期限をあらわす QRコードを読むシステムの構築

●移動の誤差を小さくするために、2つのガイドラインを用いたロボット製作

●最短で牛乳パックを並び替えるために A*探索アルゴリズムのプログラム作成

図2 牛乳パックを消費期限順に並び替えるロボット

 

3 ロボットの発表・発信(9月~12月)

2014年当初、ロボコンに出場するためにはじめた活動であったが、SDGsを意識することで、より多くの発表の機会があった。また、取材を受ける機会も多くなり、生徒たちの意欲も掻き立てられた。実際に発表・紹介した場面の主なものをあげる。

・WROロボコン世界大会(タイ) ※高校オープン部門世界5位

・サイエンスキャッスル関東大会(東京) ※東京都市大学賞

・国際公共政策カンファレンス(大阪大学)

等々

さらに、2019年6月のG20で来日した海外メディアからも取材を受け、世界中に紹介されたことは、自分たちが価値ある活動をしてきたことを確信づけた(図 3)。

図3 G20海外メディアからの取材

 

 

目に見えるモデルをつくることによって、SDGsの学びを深化させる

課題解決するためにモデル化したロボットをリアルにつくることによって、SDGsを深く学ぶ機会につながる。それは、与えられた課題ではなく、自分たちで考え抜いて、決めた解決方法であるがゆえに、意欲的に取り組むことができ、さらにその過程で高度な技術も身につけることができるのである。そして、世に問うロボットを完成した時の達成感によって、生徒の成長は一層加速するのだ

 

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