近年、大学受験が早期化し、一般選抜による入学者が減少している。この変化の背景には、受験生の安全志向や少子化による入学者の早期確保の動きもあるが、注目すべきは、大学の教育観の変化だ。総合型選抜が重要視されるようになった背景を解説する。
2月が大学入試のピークではなくなった
かつて、12月になると受験シーズンに入ると言われていた。そして、大学入試の本番と言えば2月であった。
しかし、近年この状況が変わってきている。大学進学を志望者する高校生の大半は12月に既に大学進学先を決めているのだ。下記の表を見てほしい。2021年度以来、2月1日以降に選抜試験が行われる一般選抜によって入学するケースが50%が下回り続けている。
【大学入学者の選抜方式による比率】
20年度 |
21年度 |
22年度 |
23年度 |
24年度 |
|
一般選抜 |
50.9% |
49.5% |
49.0% |
47.9% |
47.5% |
総合型選抜 |
10.4% |
12.7% |
13.5% |
14.8% |
16.1% |
学校推薦型選抜 |
38.4% |
37.6% |
36.2% |
35.9% |
35.0% |
※20年度は一般入試、AO入試、推薦入試(文部科学省資料より)
今やマイナーな一般選抜
「年内入試」と言われる「総合型選抜」「学校推薦型選抜」の多くが年内に合格発表を行う(国立大学など大学入学共通テスト(共通テスト)を課すところもある)。つまり、年明けに、合否が決まり進学先が決まることの方が今やマイナーなのだ。
なぜ、一般選抜がマイナーな存在になったのだろうか。その要因はいくつかある。受験生の安全志向や早期の進学先確保の動きもあるが、その背景には、少子化による選抜試験の緩和により、一般選抜が成立しにくくなっていることがある。
24年度の大学入学者における定員割れは私立大学で352校(59.2%)となっている。そうした大学では早期に入学者を確保するために「年内入試」に力を入れるようになった。加えて、国立大学でも全体の3割の定員を一般選抜以外にする目標が設けられている。
それにも関わらず、表にあるように学校推薦型選抜は減少傾向だ。学校推薦型選抜は学校長の推薦を受けることが要件である。従来の推薦入試で見られた学校長の推薦を必要としない「自己推薦」は、現在、総合型選抜に位置づけられる。学校推薦型選抜は定員の50%までしか入学させられないと決められているため、この選抜方式に大量の定員を振り分けることができない。多くの附属校を抱える大学では各校からの推薦人数を絞り込み、内部進学志望者には総合型選抜での志願とするように誘導しているところもある。
なぜ「脱・学力試験」が起きているのか
そもそも従来は、大学入試は学力試験を主な要件とする一般選抜が中心であった。それは、学力試験により「大学教育にふさわしい準備」ができていることを判断するためであった。それなのに、なぜ、いま大学は「脱・学力試験(一般選抜)」の傾向を強めているのだろうか。もちろん前述のように大学の募集困難や受験生のニーズがあるが、重要な背景がもうひとつある。大学の教育観が変わったのだ。
従来であれば、大学の講義では教員による知識の伝達が中心であり一方通行であった。そのような講義では、前提となる知識レベルが同程度であると効率が良い。だから同じような学力層、資質を揃えることが、入試の目的の一つとなっていた。しかし、インターネットの発達、知識爆発の時代、多様性の重視などにより、単に知識を蓄えるだけでなく、その知識をいかに使うか、多様な意見、考えといかに向き合うかが求められるようになった。国際バカロレアの授業のように、双方向のディスカッション、グループワークが重視され、学生は多様な立場や意見、考えをもった人たちで構成されることが望ましいとされるようになった。
そうした観点で、特に大学は「総合型選抜」を多面的、総合的に評価するように設計している。
次回は、この「総合型選抜」ではどのような能力、資質が求められているか、関西大学の総合型選抜(AO入試)に関する冊子に書かれていることなどを取り上げ、具体的に説いていきたい。