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大改革時代に向けて

2022.11.18

主体的な学びを進めつつ人間性も磨き 来たるべき共生社会の創り手に
灘中学校・灘高等学校 校長 海保雅一 先生

海保雅一 先生
灘中学校・灘高等学校 校長
公立高校教諭を経て、1994年、同校英語科教諭に。2019年に教頭就任、今春より現職。灘の良さについて「枠からはみ出していても許容する大らかさと、何か秀でたところがあれば一目置かれる校風」と話す。

灘中学校・灘高等学校
http://www.nada.ac.jp/index.html
神戸市東灘区魚崎北町8-5-1
TEL 078-411-7234(代)

 

グローバル化時代の教育が目指すもの

 資本、物、人、情報が国家の枠組みを超えて活発に移動するグローバル化の時代においては、国家のあり方そのものが問われています。グローバル化が進行すれば、国という単位の役割は小さくなり国家機能は縮小していくはずなのですが、現実にはナショナリズムが高まったり、保護主義的な政策を強化したりする国が増えています。また、市民レベルでは、グローバリゼーションがもたらす格差の拡大、失業、環境破壊に反発する「反グローバリズム運動」が世界中で起きています。

 さらに現在では、コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻によって、国境を越えた資本や資源の流れが停滞したり「経済安全保障」論が登場したりするという「グローバル化の逆回転」が生じています。

 このように複雑で流動的な情勢の中で教育の方向性を見定めるのは困難ですが、一つの指針が以下の新学習指導要領前文にあると思います。

これからの学校には,(略)一人一人の児童(生徒)が,自分のよさや可能性を認識するとともに,あらゆる他者を価値のある存在として尊重し,多様な人々と協働しながら様々な社会的変化を乗り越え,豊かな人生を切り拓き,持続可能な社会の創り手となることができるようにすることが求められる。

 つまり、SDGsの基本理念である「誰一人取り残さない」共生社会建設の担い手として必要な資質・能力の育成が、学校に求められているのです。

 本校は今年で創立95年目を迎えます。創立以来掲げている校是が講道館柔道開祖、嘉納治五郎先生からいただいた「精力善用」「自他共栄」です。この校是の理念は今回の新学習指導要領前文の理念とほぼ一致しています。

 「精力善用」とは、自分が持つ心身の力を最も有効に活用しなさい、という教えです。これを体現するためには、自分の得意分野、良いところを見極めてその資質・能力を最大限に伸ばすことが必要になります。

 「自他共栄」は自分も他者も共に栄える理想の社会を築きなさい、という教えです。共生社会である「自他共栄」社会の建設が目標で、それを実現する手段が「精力善用」であると考えてよいと思います。この「精力善用」「自他共栄」は本校のコア・バリューであり、生徒、教職員の行動指針となっています。

 

知的好奇心・探究心を原動力とする主体的な学び

 本校には文章化された校則はありません。生徒は、個々の場面でどう行動すべきかを校是を指針として自分で判断します。この創立以来の「自由・自主」の校風の下、生徒は主体的な学びを進めます。この主体的な学びを強力に後押しするものが、本校には3つあります。

 1つ目は、「質の高い授業」です。生徒の探究心に応えるため、単元の内容をこれでもかというくらい深く掘り下げていったり、また教科によっては、旺盛な知的好奇心を満たすために教科融合的になるほど幅を広げた授業を行ったりもしています。本校の生徒は授業の質を見極める力に極めて秀でていますから、否応なしに、授業の質は極めて高いものになるのです。

 2つ目は6月と10月に計6回開催する「土曜講座」です。これは「総合的な探究の時間」の一環として展開している講座ですが、生徒の強い探究心・知的好奇心に応えるため、研究者、政治家、医療関係者、法曹関係者、起業家、芸術家など各界の第一線で活躍する人たちを多数講師に招くという質量とも他に類を見ない講座です。

土曜講座(スイス領事の講演)

3つ目は図書館です。本校図書館の蔵書は8万冊近くに達し、生徒の多様なニーズに応えるためにありとあらゆる分野の書籍を取り揃えています。そして専任の司書教諭が2名常駐して運営にあたっています。図書館の中には一クラス分授業ができるスペースがあり、授業もよく行われています。その際には常駐する司書教諭が教科担当の教諭と連携してティームティーチングを行ったり、探究学習のための資料を探しに来る生徒に助言を与えたりします。

図書館は新しい学び方にも対応

 

自主的な集団活動を通して育まれる非認知能力

 大学受験などの進路目標の達成、社会的成功、人生における幸福追求など、長期的な目標を達成するための力としては、狭い意味での学力だけでは不十分で、いわゆる「非認知能力」と呼ばれる資質・能力を伸ばすことが欠かせません。新学習指導要領においても、「非認知能力」は「学びに向かう力、人間性等」という表現で、育成を目指す資質・能力の三つの柱の一つに位置づけられています。

 この非認知能力は自主的な集団活動の中で身につくものですから、特別活動、課外活動等に参加することが、その伸長には欠かせません。

 本校においては部活動の加入が奨励されており、兼部をしている生徒も多数います。また「灘校は生徒が主役の学校である」というスローガンのもと、主要な学校行事、文化祭、体育祭、学芸祭などは生徒会が全て企画運営を行っています。体育祭を担当する体育委員会は数十人規模の、文化祭を担当する文化委員会は150人から200人規模の生徒集団です。学校行事のような大きなプロジェクトの遂行に関わることは、企画力、計画性や粘り強さ、コミュニケーション能力やリーダーシップなど様々な非認知能力を飛躍的に伸ばす絶好の機会なのです。

例年行列ができる生徒主導の文化祭

 また、本校では科学オリンピックでメダルを獲得したり、各種コンテストで表彰されたりする生徒が多くいますが、これらもほぼ全て生徒達の自主的な活動の成果です。

 

小学生の保護者様へ

 小学校時代は、学びの原動力である知的好奇心や探究心を育む大切な時期です。国立青少年教育振興機構の調査報告によると「自然体験や生活体験、文化芸術体験が豊富な子供、お手伝いを多く行っている子供は、探究力が身についている傾向がある」そうです。教科の学習はもちろん大切ですが、一方で自然の中で五感を刺激する体験をしたり、地域の活動に参加したりして、好奇心や探究心を育み非認知能力を伸ばすことも大切です。スポーツや音楽などの習い事もお勧めします。

 

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