子供たちに未来の学習環境を
今後ますます普及するAIやロボットに対して、人間の仕事が奪われるという危機感をメディアなどを通じてよく聞かれますが、私はむしろ未来は明るいと考えています。大事な判断をするのは自分たち人間だ、という姿勢で、AIやロボットの成果を世界中の人たちと共有し、人類の生活の質を高めていくために活用すれば良いからです。
中等教育は、生徒が社会に出ていく前に準備をする期間です。ですから、AIやロボットに関してもネガティブに反応するだけではなく、それらを使う側になる準備をする必要があります。
今でも学校によっては、スマートフォンやタブレットの持ち込み・使用を禁止しているところがあるようです。私はナンセンスなことだと思います。世の中を見渡せば、スマートフォンを使いながらPCを開いて仕事をする、コンピューターを駆使して問題解決する、というのは当たり前です。子供たちが社会に出る頃には、さらに技術は進歩しているでしょう。むしろ、大人が使うものよりも進んだ環境で勉強することが望ましいと思います。
海外体験は大学生からでは遅い
中等教育が社会に出る準備期間という意味では、今後一層進むグローバル化に対しても準備が必要です。そのためには、より多様な人たちで構成される社会や組織を体験することです。海外留学の体験は大学生では遅いぐらいです。中高の時期に色々な異文化を経験してください。
本校では留学を奨励していて、多彩な留学先と最大100万円給付の奨学金制度を用意しています。文部科学省が後援する「トビタテ!留学JAPAN」にも今年度3名が採用されました。また、カリフォルニア州立のカレッジ(2年制大学)2校と協定を結んでいて、卒業後の進路に選ぶことができます。3年目からは奨学金をもらって、UCLAやUCバークレーなどのカリフォルニア大学各校へ一定の進学枠があります。地理的に近い私立名門スタンフォード大学への進学も夢ではありません。
「SDGsを広めたい」生徒の思いが世界を動かす
2015年に国連が採択したSDGs(持続可能な開発目標)はすべての国と地域が取り組むもので「誰一人として取り残さない」という理念が掲げられています。これは浄土真宗・宗門校である本校の教育理念ととても親和性が高く、学校の理念を変えることなく取り入れることができました。2017年には、首都圏の高校初の国連グローバルコンパクトに加盟しました。
ここからが面白いのですが、ある生徒が「SDGsを全国に広めたい」と全国の高校に呼びかけて勉強会を企画。日本生徒会大賞を受賞して、松下政経塾から講演の依頼まで来ました。家電を廃品回収するバッグを作り、金・銀・銅のメダルを作る材料を集めました。武蔵野大学も協力し、金メダル30個分の金が回収できたそうです。
他にも、コンピューターが得意な生徒は、開成・広尾学園・立教池袋の生徒と連携して、モーツァルトの楽曲をAIに学習させて、現代にモーツァルトを再生させるプロジェクトを行いました。AIモーツァルトが新曲を5曲作曲し、CDデビューするそうです。
SNSで知らされて「いいね」
生徒が活躍する学校を作るにも、学校全体を改革していくにも、肝心なのは「できるだけ権限を譲る」ことです。学校は教員に権限を譲り、先生方は生徒に任せる。そうしてはじめて自発性や創造性が出てきます。
生徒の自主性に任せると、活動や成果を後から知ることも少なくありません。「何か面白いことやっているな」と思っていたら、後になってSNSでその活動を知らされます。蚊帳の外も悔しいので「いいね」を押して応援します。
究極の習熟度別「アダプティブ・ラーニング」
生徒には一人ひとりに得意なこと、そうでないことがあります。知性には多重性があって、一人ひとり知性のあり方が違うのです。
それを伸ばすためには、究極は一人ひとり、異なる時間割を組むのが理想です。このように授業科目・進度を個別に最適化した学習のことを「アダプティブ・ラーニング」と呼びます。
本校では経済産業省「未来の教室」の事業として「Rewrites」(株式会社キャタル)というシステムを使った、英語ライティングのアダプティブ・ラーニングに取り組んでいます。生徒一人ひとりに各自の英語力に応じた教材が配布され、答案をアメリカの大学生に添削してもらい、動画配信サイトを利用して、解説付きで返却される、という仕組みです。
アダプティブ・ラーニングのメリットは学習効率だけではありません。従来の一斉授業では、授業について行けず、赤点ギリギリで卒業する生徒がいました。高校時代の貴重な時間の多くを「理解できないことを延々聞かされる」ことに費やす、そんな卒業資格に何の意味があるのでしょう?
授業が個別最適化されれば、全ての生徒がそれぞれ学ぶべき最前線に立ち、その一歩先へと踏み込んで行きます。全ての生徒がわからないことをわかるようにするために学んでいるので、わからないことを恐れなくなります。
この新しい学びのあり方は、入学試験も変えつつあります。本校ではIDとパスワードを発行して、3ヶ月間eラーニングに取り組んでもらう、という入試を実施しています。最終的には適性検査を行いますが、3ヶ月の間に学ぶことが楽しくなったり、自信がついたりした受験生を歓迎する方針です。
失敗はチャレンジした証
保護者の皆さんには、子供が安全に失敗できる環境を作って欲しいと思います。チャレンジすれば大体は失敗するものです。ですから、失敗はチャレンジした証なのです。
子供は必ず知的好奇心を持っています。常識や既成概念がない分、物事の本質に迫る力を大人より持っている場合もあります。家庭では、良いものを見せて、多くの体験を積み、感性を磨いてあげてください。
問題なのは、保護者が先に何でも決めてしまうことです。そうすると、子供は自分で決めることができず、指示待ちの姿勢が身についてしまいます。自分で決めるのは成長のチャンスです。身の危険や健康を害する場合はともかく、保護者が自分の安心のために決めてしまうのは、そのチャンスを奪う行為だと自覚してください。
その「子供のため」は本当に「その子の成長のため」になっているのか、今一度考えてもらいたいと思います。
私の未来年表 荒木貴之
未来への抱負 | 教育・社会の変革 | 改革1期生 | |
2020 | 全コース共学化、MIコーススタート | 大学入試改革 | 高3 |
2021 | IBコース生徒が海外大学進学 | 海外からの留学生30%(大学) | 大1 |
2022 | 海外協定校100校達成 | 大2 | |
2023 | MIコース医学部進学 卒業生が、カルフォルニア大学など4年制大学へ進学 |
大3 | |
2024 | 大学100周年、新校舎完成 | 大4 | |
2030 | 卒業生がSDGsで世界で活躍 | 国連・SDGs終了年 | 28歳 |