2021年度より中学校で、22年度に高校で、新しい学習指導要領が全面実施されます。これまで重視してきた「知識・技能」に加えて「思考力・判断力・表現力等」と「学びに向かう力・人間性」の育成が目指されます。そのために「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング)に力を入れることになります。このコーナーでは、なぜこのような教育の改革が必要なのかを、シリーズでお伝えします。第1回はテクノロジーの変化――特にそのスピードについて解説します。
気づいたら100倍の世界
「10年ひと昔」と言われていたのはひと昔前のこと。今では10年も経つと、まるで別の世界のようです。例えば、スマートフォンが普及しはじめたのがおよそ10年前(2007年、最初のスマートフォン発売)。さらに10年ほどさかのぼると、インターネットが各家庭で使われるようになったばかりでした(1995年、ウィンドウズ95のヒット)。
10年ほど前には、スマートフォンのない世界があり、さらに10年ほど前には、インターネットがあまり使われていない世界だったのです。10年はひと昔どころか、今では「大昔」になってしまいました。
わずか10年でこれほど大きな変化が起きるのは「ムーアの法則」のような技術の加速度的な進展があるからです。「ムーアの法則」は18カ月でコンピューターの性能が2倍になってきたという経験則です。もちろん自然法則のように正確なものではありませんが、これまで概ね法則通りに推移して、10年では約100倍の性能向上が起きています。
コンピューターの登場以来、私たちは常に10年前と比べて100倍になった技術に囲まれて生活していることになります。10年で世界の風景がガラリと変わるのも、納得できるのではないでしょうか。
10年は長いのか短いのか?
10年という時間は長いでしょうか。「スマートフォンがなかった時代」と聞くと大昔のように思えますが、今、中学1年生の生徒が大学を卒業して社会に出るまでがちょうど10年です。すると、中学校の教育は最低でも10年後を見据えなければなりません。これからの教育は、技術が100倍になった未知の世界を想定しながら行うというとても難しい営みになるのです。
このことを、香里ヌヴェール学院の石川一郎学院長は「子どもは未来からの留学生」と表現しました※。留学生は、学んだのちに、元の世界に帰っていきます。子どもたちが学んだことを役立てるのは10年後の未来ですから、現在の常識で教育を考えていては、時代遅れになりかねません。
コンピューターの登場以前は、科学技術が10年程度で大きく変化することはありませんでした。そのため、一般に年長者がより多くの知識を蓄積していて「先生(先に生まれた人)」が敬称とされました。
翻って現在では、後から生まれた人の方が新しいテクノロジーに詳しい、という状況が現れています。過去の知識は検索できるため、私たちはおそらく人類史上初めて「知識の上では、教師と生徒が対等」である時代に突入しているのです。
※「みなさんは『未来からの留学生』 突き抜けた善を志し、学び問い続けてください」 香里ヌヴェール学院 石川一郎学院長
新しい取り組みに積極的に挑戦
さて、今の中学校1年生が社会に出てから、さらに10年経つとどうなるでしょうか。10年で100倍に進化するテクノロジーは、もう10年経つとさらに100倍されて、100×100=1万倍の変化となります。現在でもいくつかの分野では人間を凌駕しているコンピューターがさらに1万倍されるのです。一体どんな社会になるのか想像もつきません。
一方で、社会に出て10年というとまだ30代前半です。ようやく重要な仕事も任されるようになり、家庭も築き、学んできたことをいよいよ活かせるという年頃ではないでしょうか。そんな時に1万倍に強化されたAIがすぐ隣に鎮座しています。そのAIが手強いライバルになるのか、頼もしい相棒になるのかは、これから学んでいく内容にかかっています。これが新しい教育が求められる大きな背景の一つです。
どんな教育が正解なのかは10年後、20年後にならなければわかりません。良いと思ったことをそれぞれの学校・先生方の判断で取り入れて、走りながら修正したり調整したりするしかないように思えます。慎重に検討している間に、中学1年生は2年生になり3年生になり高校生になってしまうからです。この意味でも、各学校の考え方・方針は、まさに子どもの未来を左右する重要なポイントになるでしょう。