2021年度より中学校で、22年度に高校で、新しい学習指導要領が全面実施されます。これまで重視してきた「知識・技能」に加えて「思考力・判断力・表現力等」と「学びに向かう力・人間性」の育成が目指されます。そのために「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング)に力を入れることになります。このコーナーでは、なぜこのような教育の改革が必要なのかを、シリーズでお伝えします。第3回はこれからの時代にアクティブ・ラーニングが必要な理由について考えてみます。
アクティブ・ラーニングが先か? 基礎知識が先か?
社会が大きく変動するこれからの時代、「学力」の常識も大きく変化するということを第1回、第2回で見てきました。そのため、従来の学び方だけではなく、探究学習などの主体的・対話的に学ぶアクティブ・ラーニングに力を入れる必要があると考えられています。
一方で、この方向性に対して慎重な意見も聞かれます。例えば「中高では基礎知識をしっかりと身につけて、アクティブな学びは大学に進んでからでいい」「まず基礎知識を身につけないと、アクティブ・ラーニングがただのお遊びになりかねない」といった意見です。
中高での学びに基礎知識が大切なのは言うまでもありません。問題なのは「まず基礎知識が身につかなければ、アクティブ・ラーニングへと進めることができない」という考え方です。
目的のない知識は浅く脆い
「まず基礎知識」という考え方には、大きなデメリットがあります。それは、子どもたちの学びの核心に関わります。「学びの楽しさ」に到達する前に、目的がよくわからない基礎トレーニングを強いられて、意欲が削がれてしまうということです。
スポーツ選手が厳しい基礎トレーニングを続けられるのは、そのスポーツ自体が楽しいからです。楽しさを知り、さらに上達したいと考えた時に、初めて苦しい基礎トレーニングにも耐えられるようになるのです。何の目的かも知らされずに、走り込みや筋力トレーニングばかりさせられては、続けられないか、続けても手を抜いてしまう場合が多いでしょう。
これは勉強においても同様です。ただテストのためだけに暗記した知識と、自分の興味のあることを調べたり発表したりするために学んだ知識とでは、後者の方が定着度もその後の広がりも大きいのです。
社会が激変する時代の基礎知識
また、本連載第1回で見たように、コンピューター登場後の世界は10年で全く別の世界になっています。産業構造や基盤となる技術も急激に変化するので、求められる能力もどんどん変化していきます。
かつては、大学まで学んだ基礎知識を使って、その後の40年間の社会人生活を送ることができました。つまり教育は「40年間飛ぶためのカタパルト」だったと言えるでしょう。
しかし、これからは、必要となる知識は年々変化します。そのため、大学を卒業してからも、新たな社会や技術の状況に合わせて学び直さなければなりません。教育は「自律飛行のためのエンジン」であることが求められます。
興味を持ったことに対して、その都度、自ら基礎知識を調べて、まとめる、という探究型の学びは、このような生き方の雛形となります。「習ってないからできない、わからない」では、変化する社会に置いて行かれかねません。逆に、基礎知識はAIが補ってくれるため「習ってないけどやってみたい、挑戦したい」という人が活躍するようになるでしょう。
確かに、基礎知識が不足した状態でのアクティブ・ラーニングが単なるお遊びになってしまう恐れは否定できません。しかし、これからの社会では、事前に基礎知識を持っている場合の方がレアケースになっていきます。そのため「まず基礎知識」ではなく、基礎知識がない状態を前提にして、必要に応じて自由自在に基礎知識を取りにいくような学びが重要になるのです。
人間らしく生きるための学び
さらに視野を広げると、子どもたちが社会に出るころ、お金のために働くことや、利益のために企業活動を営むことは、それほど重要なことではなくなっているかもしれません。これは、今後の10年ではまだ実現しないかもしれませんが、少なくともその方向に人類は向かって行くでしょう。
そのような社会で真に重要な課題は、持続可能性や公平・公正な富の分配、生命倫理・技術倫理、多様な価値観の受け入れ方、人権の適用範囲など多くが正解のない問いです。国連が主導して、2030年に向けて世界的に取り組まれているSDGsがその代表例です。
今後、個人は世の中をよりよくするために働き、社会への貢献度が企業の価値となる、という経済のあり方へと徐々にシフトしていきます。その時に、すでに正解のある問題を処理するだけの仕事は不要になっています。
子どもたちに、将来、世界に何事かを働きかける人間らしい生き方をして欲しいと望むのであれば、学校にできる準備は、自らの興味に基づいて正解のない問いに取り組むアクティブ・ラーニングなのです。