2021年度より中学校で、22年度に高校で、新しい学習指導要領が全面実施されます。これまで重視してきた「知識・技能」に加えて「思考力・判断力・表現力等」と「学びに向かう力・人間性」の育成が目指されます。そのために「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング)に力を入れることになります。このコーナーでは、なぜこのような教育の改革が必要なのかを、シリーズでお伝えします。今回は興味・関心を見つける学び方とAI時代になぜ学ぶ必要があるのかを考えます。
求められる学習観の転換
前回、ICTツールの進化によって誰もが超人になれる時代には、知識そのものよりも「何がしたいのか」が重要になると述べました。
それでは、一人ひとりがしたい「その何か」を学びを通してどのように見つければ良いのでしょうか? ともかく形だけアクティブ・ラーニングをすれば見つかるというわけではありません。私たちの学習観の転換が求められています。
また、そのような学びを突き詰めて行った先にあるのは、そもそもAI時代に人は何のために学ぶのか、という根本的な疑問です。順に見ていきましょう。
教育に子どもを合わせるのではなく子どもに教育を合わせる
皆さんは、中高大での学びを通して自身が生涯をかけるほどしたいことを見つけることができましたか。それができた方は才能、教師、友人、環境などに恵まれた人かもしれません。多くの人は、学校とは離れたところでしたいことを見つけたのではないでしょうか。
なぜかと言うと、世の中には無数の興味・関心の対象があるにも関わらず、私たちが学校で教わってきたのは、主要教科のうちの決められた単元と、主流の芸術だけだったからです。そのため、多くの興味・関心は学習の枠外となってしまっていました。
これからの時代、教育が子どもたちの「何がしたいのか」を見つける手助けをするためには、彼らの興味・関心に寄り添った学びをデザインしていく必要があるでしょう。教えるべき教科・知識が先にあって、それに子どもたちを合わせさせるのではなく、子どもたちの興味・関心にとって、どの教科のどの知識が欠かせないのかを吟味して、適宜提供するような学び方です。
とはいえ、中学1年生に「さあ、自由に学びなさい」と指示を出したところで、多くは何をしていいのか見当がつかないでしょう。そこで、最初は教員側の仕掛け作りが重要になります。生徒が興味の方向に進めるようにしてあげれば、生徒は次第に自分で学ぶ方法を見出していきます。
AI時代に学ぶ意味
「したいことだけ学ぶのは勉強ではない」という意見もあるかもしれません。確かに、好きなことではなくても、知っていなければならないこと、できなければならないことはあります。
しかし、これまでこのコーナーで紹介してきたように、必要な知識や理解についてはAIがサポートしてくれます。しかも、そのサポート力は年々強力になっていきます。
その先には「したいことだけ学べばいいのなら、そもそも何のために学校があるの?」という疑問に行き着きます。
将来的には多くの仕事をAIに任せて、人は働く余地がほとんど残らないという未来予測もあります。そんな未来が予測される中、子どもたちに「なぜ学ぶのか?」をどう説明すれば良いのでしょうか。あるいは「将来AIに仕事させるから勉強しない」と言い出す子どももいるかもしれません。これに対して、大人としてどう答えるべきでしょうか。
答えの一つは学びの本来の姿にあります。古代ギリシャなどで誕生したばかりの学問がそうであったように、私たちは稼ぎを得るためだけに学ぶのではないからです。
私たちが経済や国際政治の動向に興味を持ち、物理学の発見に興奮し、歴史や人類史を面白いと感じ、サイコロジストの話に耳を傾けるのは、純粋に知りたいからです。人間社会の仕組み、宇宙の仕組み、心の仕組み、生物の仕組み……etc.それらを探究して、驚きや発見を誰かと共有したい、そう感じるのは人間の本性ではないでしょうか。
そして、この人間の特質は、これからの時代の生き方のヒントになります。たとえAIが既存の仕事を代替したとしても、AIには驚くこともそれを人と共有したいと思うこともできません。それは人間だけの思いです。その感動をより豊かに味わうため、そして誰かと共有するため、人は学ぶ。AIが登場したことで、学びは本来の姿に近づいていくのかもしれません。