2021年度より中学校で、22年度に高校で、新しい学習指導要領が全面実施されます。これまで重視してきた「知識・技能」に加えて「思考力・判断力・表現力等」と「学びに向かう力・人間性」の育成が目指されます。そのために「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング)に力を入れることになります。このコーナーでは、なぜこのような教育の改革が必要なのかを、シリーズでお伝えします。今回はGIGAスクールがスタートした2021年の学びを振り返ります。
小学校の挑戦が始まった
コロナ禍への対策として、公立小・中学校での一人一台環境(文部科学省 GIGAスクール構想)が予定よりも早く実現しました。当初は2023年度中の完了を目指していましたが、2021年4月までに児童・生徒の手に真っ新なコンピューターが配られました。
昨年は全国の公立小学校にとってコンピューター教育元年となり、現場の先生方は変化への対応に追われたことと思います。日常業務で多忙な中、新制度導入を大過なく成し遂げたことには頭が下がります。
当初懸念されたような、教科書やドリルをコンピューターに入れただけのデジタル化に終始することなく、プレゼンテーションや調べ学習といった、新しい学びにも取り組んでいるようです。
子どもたちも「パソコンを使った授業は楽しい」と、新しい学び方に加えて、自分専用のコンピューターを持ったことやコンピューターを使いこなせるようになる楽しさを感じているようです。
コンピューターの本領は「なんでもできる」ところ
ただ「なぜ学校でコンピューターを使って学ぶのか」という原点に立ち返ると、まだまだ課題が多いように思われます。以下で見ていきましょう。
1 相変わらずテストでは記憶したかどうかを問う出題が多い
2 いつでも好きな時にコンピューターを使えない
3 コンピュータの本領「なんでもできる」に制限をかけている
1について、せっかく一人一台のコンピューターが導入されたというのに、成績評価の方法があまり変わっていないように思われます。今の子どもたちは将来、覚えていない知識や理解が足りない事柄について、コンピューターが強力にアシストしてくれる環境で生きていきます。
そんな子どもたちに対して、覚えているかどうかや計算が正確かどうかで評価をつけるのはあまり意味がないように思います。テストではコンピューターでの検索力や情報統合力も評価の対象としつつ、単にそれだけでは高い評価の答えにならない、そんなテストの工夫を今後期待したいと思います。
2について、現状では、多くの学校で、授業で使う時だけコンピューターを取り出して、それ以外の時間は保管庫で眠らせているようです。本誌記事「一人一台での学びがスタートする」でも述べましたが、せっかくの一人一台も、使いこなせないとただ荷物が増えただけです。コンピューターを「引かない辞書」にしないために、授業中はもちろん、休み時間にも放課後にも、児童・生徒が思い立った時に使える環境整備(ルール作りなど)が、その第一歩になります。
3については、学校で使うものである以上、教育以外の目的で使うことに異論があるのは理解できます。しかし、コンピューターの本領は「なんでもできる」ところにあります。夏休みの自由研究や自宅での興味・関心に応じた自主学習はもちろん、絵を描いたり動画を編集したりといった創造的な活動や、友達とビデオ通話したりオンラインでゲームを楽しむこともできます。使い方を制限することは、2の「使いこなす」へのハードルを高くし、子どもの持つ自由な創造性を狭めてしまう恐れもあります。
発生する問題の解決は重要な学び
もちろん、なんでもかんでも児童・生徒の自由に任せると行き過ぎることもあるでしょう。しかし、行き過ぎた場合に、そのことについて教師と生徒、あるいは生徒同士で話し合い、行き過ぎかどうかを話し合うことそれ自体も大切な学びの機会になるはずです。
よく言われるように「ハサミは危険だから使い方を教えない」のは大人の怠慢です。どのように使うのが問題のない使い方で、どのように使うのが危険なのかを教えるのが教育なのです。
教育でのコンピューター活用はこれからますます本格化します。だからこそ、正解がわからない中で、児童・生徒と共に未知の領域を探っていくことが、今後のためにも重要であるし、それ自体が価値ある教育活動になるのではないでしょうか。