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2022.4.22

[なぜ学びが変わるのか?] 第7回 AIと競争しないための学び

 

 

2021年度より中学校で、22年度に高校で、新しい学習指導要領が全面実施されます。これまで重視してきた「知識・技能」に加えて「思考力・判断力・表現力等」と「学びに向かう力・人間性」の育成が目指されます。そのために「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング)に力を入れることになります。
このコーナーでは、なぜこのような教育の改革が必要なのかを、シリーズでお伝えします。今回は近年アントレプレナーシップ教育が支持を集めている背景を考えます。

 

サイエンスとグローバルは「標準装備」

 先日、ある私立中学校から「本校に対する塾の評価を教えてほしい」という依頼があった。その中学校はサイエンス教育やグローバル教育に力を入れていて、傍目には面白い取り組みをしている学校という印象なのだが、募集は今ひとつ伸びない。

 サイエンスとグローバルは、21世紀の中等教育のキーワードだ。なぜ、それが空回りしてしまうのか、筆者も興味津々で塾の方に評価をお聞きした。

 その回答の中に衝撃的だったコメントがある。それは「サイエンスとグローバルはもはや標準装備」というものだ。

 中等教育の現場が変わりつつあるし、変わらなければ新しい時代に子どもたちがついていけない。その思いで『ミライノマナビ』が創刊して5年目。「これからの時代はサイエンスだ、グローバルだ」という段階はすでに超えてしまっていた。それはもはや選ばれる私立中高にとって「標準装備」なのだ。

 

2022年度入試で人気を集めたアントレプレナーシップ教育

 このことを踏まえた上で、今春の中学入試結果を見ると興味深いことが見えてくる。確かにサイエンスやグローバルを謳っているだけの学校は苦戦している。だが、一見よく似ていながら人気を集めている取り組みがある。

 それはアントレプレナーシップ(起業家精神)教育だ。サイエンスやグローバルを前提的な教養として、その上で「社会に対して何ができるか」「何がしたいのか」という地点まで踏み込んだ取り組みが支持されている。知識や教養の習得にとどまらず、具体的にどんなビジネスプランを立てるのか? ターゲット層は? 販売価格は? 広報戦略は? と知識や教養の活用に焦点を当てている。

 

「どこに就職するか」から「何ができるか」へ

 知識や教養の活用に焦点を当てるためには、アントレプレナーシップ教育でなくても可能だ。PBL(プロジェクトベースドラーニング)や研究発表会でも良いはずだ。近年アントレプレナーシップ教育が注目を集めるのには、社会経済的な背景が影響していると思われる。

 その背景は、日本の大企業が終身雇用による年功序列制度を見直し始めたことだ。年功序列に代わるジョブ型雇用へと移行すれば、大企業への就職イコール将来安泰ではなくなる。「どこに就職するか」ではなく「何ができるか」の方が人生を大きく左右するようになるだろう。

 この延長線上には、中等教育・高等教育のゴールを「企業に雇われること」にしている現状への疑問がある。企業に雇われて、誰かの作った枠組みの中で指示された仕事をするのは、いずれAIの方が得意になる。AIとの競争は負けるのを待つだけの不毛な試みだ。一部の企画・経営層を除いて、多くの被雇用者の仕事は、将来的にはAIを監視するだけになり、単価も下がるだろう。

 

自由に生きるために学ぶ

 このように予測される未来で、従来の枠組みのままだと、抜きん出たジョブスキルを身につけるか、一部のエリートとして選ばれるか、しか生き抜く道がない。いずれにしても年々その席を巡る争いは熾烈になる

 そこで「枠組みを自分で作る」という生き方で、自分の席を確保することが新たに生き抜く道となる。まさにアントレプレナーだ。逆説的に、アントレプレナーシップを身につければ、企業の中でそれを活かすこともできる。そのような人材は、終身雇用を断念した企業にとっても「終身」で居てほしい人材となるだろう。近年のアントレプレナーシップ教育の人気は、このような社会の変化に対する、各家庭の自然な反応に支えられている。

 人は自由に生きるために学ぶ。学んだことを活かして企業に力を貸す、協力するというのが、これからの自由な教養人の生き方になるだろう。

 自由な教養人は「理想」や「目指すべき社会像」「好きなこと」を持ち、それらを仕事を通して社会全体に問いかけたり、成果物を提供したりする。これらの理想や嗜好はAIには持ちようがないものだ。アントレプレナーシップ教育にはAIとの不毛な競争をしないための力が期待されている。

 

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ミライノマナビ編集部

ミライノマナビ編集部

グローバル化&AI化が子供たちにとって明るい未来となってほしい。来るべき未来に対して教育は何ができるのか、子育て世代やこれから社会に出る若者たちみんなが考えるきっかけを提供していきます。

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