MIRAI NO MANABI ミライノマナビ

ホーム  ≫ ミライノマナビTOPICS  ≫ [なぜ学びが変わるのか?] 第14回 生成AI開発から逆算 人間の強みとは?

ミライノマナビTOPICS

2024.8.23

[なぜ学びが変わるのか?] 第14回 生成AI開発から逆算 人間の強みとは?

2021年度より中学校で、22年度に高校で、新しい学習指導要領が全面実施されました。これまで重視してきた「知識・技能」に加えて「思考力・判断力・表現力等」と「学びに向かう力・人間性」の育成が目指されます。そのために「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング)に力を入れることになります。このコーナーでは、なぜこのような教育の改革が必要なのかを、シリーズでお伝えします。今回は、生成AI開発から逆算すると見えてくる「人間の強み」を考えます。

 

「より賢い」AIとは

 情報セキュリティ大学院大学の小林雅一客員准教授の論考「OpenAIが『Strawberry』の開発を加速…次世代AIの「創造的な二面性」に人間はどう向き合っていくのか」※1によると、Chat GPTを開発したOpenAI社は「Strawberry」と呼ばれる次世代AIの開発をすでに進めているそうです。

 同社の最終目標は、人間に遜色ない能力を持つAGI(汎用人工知能:直面する様々な課題に対応できる人工知能のこと)を開発することです。それが実現可能なのかどうか、実現するとしていつごろになるのかは、AIに詳しい方々に任せるとして、ここで注目してもらいたいのは、AIの開発者は何を持ってAIが「より賢くなった」と考えているのか、という点です。

※1 小林雅一 「OpenAIが『Strawberry』の開発を加速…次世代AIの「創造的な二面性」に人間はどう向き合っていくのか」 現代ビジネス 2024.07.18

 OpenAI社のAGI開発目標は次の五段階になっています。
Level 1 人間と自由に会話できる
Level 2 (数学や自然科学などの)博士課程と同水準の問題を解く
Level 3 実務的な行動を伴う「作業」や「仕事」を任せられる「代理作業者(Agent)」
Level 4 新たな技術の発明やイノベーションができる
Level 5 組織的な高度作業を担うことができる

 この五段階は、あくまでもAGI開発の進展度合いを測るもので、人間の知性に上下をつけるものではありません(会話が低レベルの知的作業というわけではない)。しかし、この目標設定から、世界トップレベルのAIエンジニアがAIに実現させる「知性」の難易度をこのように捉えているということがわかります。

 

Level 2の実現は目前

 つい最近まで、あるいは現在でも、学校教育において子どもたちがトレーニングされるのは主にLevel 2の基礎となる力です。Level 3や5は課外活動や行事で身に付くことはあっても、それ自体を教わることはあまりなく、Level 4は近年のSTEAM教育でようやく少し取り入れられたところです。今でも多くの入学試験は、このLevel 2の基礎力を計測しています。

 しかし、実用レベルのAIが登場したことで「知性」を巡る状況は大きく変わりました。現存するLevel 1のAIであるGPT-4は、本連載第11回「ChatGPT以降の教育とは」でも紹介したように、アメリカの共通テストSATで1410点のスコア(1600点満点 アイビーリーグ合格の目安が1500点程度)を取得し、司法試験では上位10%に入ります。すでに、多くの人間の学習者よりも高い「Level 2の知性」を発揮しているのです。先述した「Strawberry」でも、計算や数学的推論の正確性を高められることが予想され、Level 2の実現が期待されています。

 

最難関は「人間との協調」

 興味深いのは、大学院レベルの問題を解くよりも、現実社会での実務を任せられる能力の方がAIにとっては難しいところです。さらに上にある「発明やイノベーション」は人間にとっても簡単なことではないので、高度な知性とされているのは納得できるところでしょう。

 しかし、AIにとって最難関であり、AGIへの最後のハードルとされているのは「組織的な高度作業」です。つまり、仲間と協調して、課題に取り組む能力がAIにとって最高難易度の「知性」であると開発者たちは考えています。

 このことを逆に考えると、仲間と協調して知的な作業に取り組む能力は、少なくとも実用レベルのAGIが実現するまで、人間が優位に立てる能力だと言うことができます。あるいは、AGIが実現したとしても、社会的に人間側が譲らない部分なのかもしれません。

 近年進められている新しい学びでは、従来のように独りで机に向かって演習問題を解いたり、解き方を理解したりすることよりも、グループで協力しながら現実社会での問題に取り組むことが重視されています。人間の賢さとは何かを追求してきた近年の学習科学や認知科学は、結果としてAIの開発目標を先取りしていたのです。

 

空想は高度な知性

 同記事では、もう一つ興味深いことが指摘されています。それは「AIの正確性を上げると創造性という点では劣化する」ということです。ChatGPTの登場当初「生成AIは嘘の答えを返すから使えない」という評価が多く聞かれました。バージョンアップにより正確性が高められてきましたが、その代償として創造性が損なわれたそうです。これは、人間の創造性が、嘘をつく能力と何らかの関連があることを示唆しているように思われます。

 社会の発展にとって重要なイノベーションは「空想(=嘘)の実現」だと言えます。それは正確な技術知識と空想が結びつくことで生み出されます。正確性が要求されるAIに対して、私たち人間は夢や空想を思い描くことが重要な役割になるでしょう。夢や空想も知性の一つとして見直し、それらを学びに取り入れることもこれからの教育には必要なのかもしれません。

 

ミライノマナビ編集部

ミライノマナビ編集部

グローバル化&AI化が子供たちにとって明るい未来となってほしい。来るべき未来に対して教育は何ができるのか、子育て世代やこれから社会に出る若者たちみんなが考えるきっかけを提供していきます。

Category カテゴリ―