近年、トップレベルの私学から海外大学を志望する生徒が増えている。世界には東京大学よりも高く評価される大学がいくつもあることがようやく知られるようになってきた。そのことを早くから認識し、日本の進学校としては珍しい海外進学を視野に入れた進路指導を行ってきたのが西大和学園だ。入試企画部長・宮北純宏先生、進路指導部長・髙﨑道裕先生に海外進学の実情についてお聞きした。
今の親世代が大学受験生だったころ、東京大学や京都大学は目指す目標の頂点だった。そのために青春の全てをかけた方もいたことだろう。それでは「東京大学を蹴って入学する大学」と聞けば、どう感じるだろうか? 冗談にしか聞こえないだろうか? しかしながら、それはすでに起こっている現実なのだ。
「東京大学や京都大学に合格したものの海外大学に進学する卒業生が現れるようになったのは、15年ほど前からです。昨年は、4年で英国と米国の2つの大学の学位が授与されるダブルディグリーの試験に合格した生徒もいます。」
宮北先生がそう話す。進路指導時に考えているのは、生徒たちが社会に出るころの世界の姿だ。未来のグローバルリーダーたる者がいつまでも日本にとどまっているとは考えにくい。髙﨑先生が次のように説明してくれた。
「これから先に来る時代に、東大、京大だけを基準に指導していていいのだろうか、という思いがあります。例えば、将来アジアを中心に活躍したいのであれば、香港やシンガポール、上海、北京にも優れた大学があります。欧米圏であればオックスブリッジ※なども考えるべきです。自らの将来を日本という狭い土俵に縛られずに選んでもらいたい。」
※イギリスの2つの名門大学オックスフォード大学とケンブリッジ大学をまとめた呼び方
将来の活躍の場に加えて、進路指導で重要なのは、何を学びたいのか、という点だ。学びたい分野の専門家が日本の大学に少ない場合、海外を目指すしかない。この理由で東京大学に合格しながらUCバークレーに進学した卒業生もいる。それに加えて、海外大学では「学部の垣根を超えた学び」ができるという。
「生徒が医学の進歩に寄与したいと言った場合、従来の指導では医学部を勧めるところでしょう。ところが、近年の医療技術の発展には、医学よりも科学技術の貢献の方が大きい。そうすると『医学と工学』や『医学と物理学』などの学部をまたいだ学びを選ぶ必要があります。そういう学び方は日本の大学では難しいのが現実です。」
同時に、卒業生たちには将来日本のために活躍してほしいとも考えているという。
「海外の大学を目指すとしても、いずれは日本に帰ってきてもらうようにするのも教育の役割です。自分の国のことをきちんと教えて、日本の将来のことを考える指導を心がけています。優秀な高校生が海外に出て戻ってこなければ、日本の国力が下がってしまいます。」
実際に、海外大学で学んだ同校の卒業生の多くは、日本に戻ってきたり、日本に軸足を置いたりしているという。もちろん、世界を相手に仕事をするなど活躍のフィールドは圧倒的に広いようだ。海外大学に進学した生徒に共通する特徴を宮北先生は次のように表現した。
「違いを認めて、細かな違いに目くじらを立てないところがあります。『当たり前』の幅が広く、常に複数の視点から物事を考えているようです。世界には多様な価値観がある、ということを知識として知ることは簡単ですが、実感として持つには、多様な価値観の中で学び合うしかありません。これが、海外で学ぶことの一番のメリットです。」
両先生の話を聞いていると、海外大学に進学した卒業生は総じて優秀で、平凡な生徒には縁がない話に思える。現実問題として、語学力をはじめ、様々なハードルがあるのだ。そう思い、質問をぶつけてみた。
「海外大学への進学は、必ずしも成績とは関係しません。むしろ、生徒の相性や性格こそ考慮すべきポイントです。日本的な評価方法では揮わない生徒が、海外の大学で持っている良さを発揮する場合もあります。」
宮北先生が、ある卒業生の例を挙げてくれた。その卒業生は、在校中の成績は決して上位というわけではなかった。しかし、今はアメリカの大学に進学し語学力の上達に合わせてみるみる成績が上昇した結果、多くの奨学金の支援を大学から受けながら生き生きと自らの学びに邁進している。先日、自身の体験を元に海外大学を勧めるレポートを送ってくれたそうだ。もしも日本の大学に進んでいれば、芽が出ずに埋もれていたかもしれない。
最後に、髙﨑先生に、海外大学進学を視野に入れている受験生へのメッセージをお願いした。
「今、見えている世界だけを元に将来の夢を決めてしまうのはもったいないことです。世界の変化は想像以上に速く、みなさんが大学を卒業するころには、全く未知の社会になっているかもしれません。従来の常識だけで考えるのではなく、現在には無いものを作る、その技術を身につけるつもりで学んでください。」
西大和学園高等学校 海外大学合格実績 2019 年度 コロンビア大学 ウィリアムズ大学 清華大学 2018 年度 セントアンドリュース大学 ウィリアムアンドメアリー大学 ネブラスカ大学 プレーベン医科大学 2017 年度 カリフォルニア大学バークレー校 2016 年度 ニューヨーク大学アブダビ校 ダラム大学 ウースター大学 |