MIRAI NO MANABI ミライノマナビ

ミライノマナビコラム  ― 子供たちのシンギュラリティ

2019.10.11

第7回 2040年 学校教育が子供たちに提供し続ける大切なこと

小泉 貴奥

日本シンギュラリティ協会 小泉 貴奧

米国テキサス大学アーリントン校学際学部卒。レイ・カーツワイルの思想に傾倒し、帰国後2007年に日本シンギュラリティ協会を設立。講演やセミナーを開催し概念の普及に努める。ベンチャー企業を3社立ち上げ、電子カルテや各種ネット系サービス、人工知能開発を行うなど、シンギュラリティの実現へ向けて邁進している。
日本シンギュラリティ協会
https://www.facebook.com/groups/JapanSingularityInstitute/

 

シンギュラリティ直前 学校の存在意義は?

今回はシンギュラリティ手前における、子供たちの学びや、教育の存在意義、知識の扱い方について、考えを巡らせてみたいと思います。

まず初めに学びですが、アイコンなどの拡張知能製品を用いることで能力が自在に身につけられるようになった場合、子供たちはどんなことを学ぶのでしょうか。

前回の記事でエウクは、アイコンを用いた高度なリサーチやデータ分析能力を用いて人生の選択肢をよく検討し、特定の学位取得を一つのマイルストーンとして学習の自動化を開始しました。

現在から見れば魔法のような技術であるアイコンを使えば、学校がなくても自分一人でなんでもできそうに思えます。そのとき、将来学校やそこで行われる教育にはどんな存在意義があるのでしょうか。そこには今と変わらず、個ではできないことを学んだり、実現したりするための場を提供することで、価値を提供し続けることになるかと思います。

学校の物質的な価値としては例えば、特殊な実験道具や学術目的のみで使用可能なデータセットへのアクセス、3Dプリンター用の素材など個人では手にはいらないリソースを手に入れることができます。楽器や実験設備など物理的な道具を保有したい場合や一流の人からの個別の指導を受ける場合などには、今と変わらずコストが発生するはずですので、既に予算が割かれている教育機関を活用するという選択肢は十分にあり得ます

さらに大きいのが、精神的な価値です。例えば同世代の友人を得られるということがあげられます。リアルな他者との関係性やコミュニケーションを通じて、自分とは異なる考えや互いを尊重する重要性から、道徳や秩序、社会性を学ぶことができますし、恋愛もできるかもしれません。またそのような経験を通じて、自分一人でできないことを知り、他者と協力することでより多くのことができるなど、多くのことを学べるでしょう。

学校以外での学習に関してはどうでしょうか。アイコンの使用によってあらゆることが効率的に行えるため、趣味や友人との大切な時間は今よりも多く確保できるでしょう。設計した人生の優先順位にもよりますが、芸術、スポーツ、科学、技術、創作活動、料理、経済活動や奉仕活動など多方面に渡る学びを深めることもできるでしょう。膨大な知識にアクセスできるため、類似事例から失敗の要因を減らしていくことで、軌道に乗るまでのつまずきを回避しやすく、行動へのハードルが低くなります。それにより、やりたいこと、興味の赴くこと、それぞれ個人の興味から優先される学びを思いのままに追い求められるようになるでしょう。

 

「収穫加速の法則」がもたらす知識のインフレーション

重要な発明が次の重要な発明までの時間を短縮するという「収穫加速の法則」1はシンギュラリティの重要な概念の一つにあります。もしこの法則がこの先も継続した場合、シンギュラリティ直前は「知識のインフレーション」のような状況となると考えられますが、その場合学習者や教育者はどのように知識を扱うのでしょうか。

まず、従来の紙の教科書では情報の更新が追いつかず、早々に紙の教科書は使われなくなるでしょう。もしそれでも紙の教科書が使われるとすれば、エウクも教師もアイコンによって注釈が沢山付けられた形のものを閲覧することになるはずです。

最新の正しい情報を記憶しても、インフレーションによって時間とともに情報の多くが価値を失う時代に、学校に最新知識を教える役割を担わせ続けるのはリソースの無駄遣いです。授業では、知識の記憶ではなく「知識の探し方」「知識の活かし方」に比重が移っていくでしょう。

受験やテストで高みを目指す場合には、授業を超えて最新の情報が求められるでしょう。専門家はもちろん常に最新の情報を知っていることが求められます。ただ、一般的には、必ずしも最新の情報を知らずとも、実際の生活に支障をきたすことはないため、コミュニケーション時など必要に応じてアップデートして対応することになると考えられます。

 

1 収穫加速の法則 レイ・カーツワイルが提唱した人類の技術的発展に関する経験則。農耕の発明から蒸気機関の発明まで約1万年かかったのに対して、蒸気機関からコンピュータまでは数百年、コンピュータからAIの発明までは数十年と、指数関数的に加速している。

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