ますます高まる本物の価値
子供たちが将来、社会に求められる力は変化していきますが、まだ当面は、きちんとした基礎学力やレベルの高い学力の重要性がなくなるわけではありません。新しい学びだけではなく、これまでの教育もおろそかにしてはいけないと考えています。
その上で、高い学力をめざして自律的に学んでいくためには、生徒の興味や関心を引き出すような、いろいろな体験や外部の方々との関わりを提供していく必要があります。本校では、多様な分野での「本物の体験」を重視しています。本物に触れることで、多感な年代の生徒たちは、本物に対する尊敬や憧れを持ち、自ら高いレベルの学びへと取り組んでいくことができるのです。
「G(グローバル)プロジェクト」では、ハーバード大学の学生に本校の寮に泊まりこんでもらい、中3生・高1生が彼らからクリティカルシンキングの基礎を学ぶ「北嶺ハーバードキャンプ」を実施しています。さらに学年全員でハーバード大学、MITにて研修する「グローバルリーダー養成プログラム」へと発展させて、世界トップレベルの学生とワークショップに取り組み、英語でのプレゼンテーションも行います。
「S(サイエンス)プロジェクト」では、JAXAやNASA、羽田空港整備場など、実際に科学技術が活用されている場所を訪れ、そこで働いている方々から、やりがいや大変さを直接話してもらいます。「北嶺ロースクール」では法曹の方から、「北嶺メディカルスクール」では医療現場の方から、それぞれ仕事の実際の姿を教えてもらいます。多くの生徒が最新の手術装置「ダヴィンチ」の操作を体験したり、ガンの切除手術を実際に見せてもらったこともあります。
本校は、卒業生の3人に1人が医学部へ進学しています。そのため、医学部に合格するための小手先のテクニックではなく、実際に医師とはどんな仕事で、どんな大変さがあるのか、その先に感じるやりがいまで含めて、生徒たちに少しでも感じ取ってほしいと考えています。
礼文島にある病院での「Dr.コトーキャンプ」医療研修では、生徒たちは島の人々のために自分の専門科以外の診療もこなす医師の姿を直に見学します。その一生懸命な姿に、生徒たちは感動し、カッコ良いと思い、将来自分もそういう人になりたいと使命感が生まれます。もちろん、中には「自分には無理だ」と感じる生徒もいますが、やりたいことや興味があるから、大学受験に挑戦するモチベーションが持てるのです。これらの体験を通じて、大学の先を見据えた進路の指導へとつなげています。
来年は、ノーベル生理学・医学賞受賞者の大村智先生、再来年には、ノーベル生理学・医学賞の大隅良典先生の講演を生徒全員で聞く機会を設けます。
全員参加が原則
本校教育の特徴の一つは「将来求められる力を全員が学ぶ」という全員参加型という点があります。文系・理系関係なく、全員がグローバル、サイエンス、校技と幅広い体験をします。これらの体験から、自分が興味を持つことを発見し、これからどう生きていくのかを1人ひとりが考えるのです。
卒業生全員に強い体とたくましい精神力を持ってもらいたいとの思いから、校技としてラグビーと柔道を取り入れて、全員参加の全校大会を開いています。
ラグビーは、チームのために自分は泥だらけになりながら、ボールをつないでいくスポーツです。柔道は、勝ち負けだけではなく、礼に始まり礼に終わります。勝ち負けを超えて、戦ってくれた相手に感謝する気持ちがなければ本当の強さとは言えません。21世紀を生き抜くための、仲間と協働する力や相手を思いやる気持ちは、これらの競技と相通じる部分が多くあります。
形だけの「探究」にしてはいけない
探究型学習やアクティブラーニングは近年にわかに注目を集めるようになりました。実際に、京都市立堀川高校のように成果を挙げ、実績を残した学校もあります。
教室の枠を超えて、自らアクティブに行動し、調べていく学びに取り組むことは、生徒の人間性を育て、持っている能力を引き出していくことにつながります。このような学びは大いに進めるべきだと思います。
ただ、危惧しているのは、アクティブラーニングをすることが目的化してはいけない、ということです。また、探究型の授業を実施すれば入試で有利だからと、形だけ探究することにならないようにしないといけません。これは海外留学やボランティア活動などにも言えることです。
「改革ありき」だった英語外部試験
大学入学共通テストでの英語外部試験の延期が決まりました。英語の力を「読む」「聞く」だけではなく「話す」「書く」も加えた4技能で測定しようという理念は正しかったと思いますが、うまくいかなかったのは全て民間に丸投げしてしまったことだと考えています。
子供たちがこれからの時代に活躍するために、ひいては日本の将来のために、本当に必要な改革であるのならば、もっと予算を投じて国や大学入試センターが公平・公正な枠組みを作るべきでした。
もっと言うならば、小学校の段階からネイティブ教員を増員し、普段の授業からスピーキングを含めた4技能をきちんと伸ばす取り組みが先にくるべきです。
新制度には良い面もありましたが、こういうことがあるとその部分まで否定されてしまいます。今回の失敗を教訓として、より良い入試制度へと磨き上げて欲しいと思います。
社会は変化するが学校も対応する
社会の急激な変化や大学入試制度の改革など、受験生や保護者の方はみなさん不安が絶えないと思います。この先にどのような変化が起きるのかについて情報も錯綜していて、誰も明解な答えは持っていません。
そのような時代だからこそ、派手な宣伝に左右されずに、実際に志望校に足を運んで、生徒が生き生きと学んでいるのか、明るく楽しく学校生活を送れているのか、ご自身の目で判断してもらいたいと思います。
社会は急激に変化するとは言え、明日から突然違う世界になるということはありません。生徒には6年間の準備期間があり、社会の変化を見ながら対応していくことができます。新しい時代に対応する力を生徒に教え、またそのための教育改革にトップが率先して取り組んでいる学校は、社会がどのように変化しても柔軟に対応することができるのです。
私の未来年表 谷地田 穣
未来への抱負 | 教育・社会の変革 | 現小6 | |
2025 (創立40周年) |
校内完全ICT化 アジア圏研修、アジア圏に連携校 アイビーリーグ合格者 |
超高齢社会、移民の増加 学校のICT化が加速 |
高校生 |
2035 (創立50周年) |
新校舎建設、校舎移転 留学生受入拡大、外国人と共に学ぶ環境 卒業生からノーベル賞受賞者 |
技術革新により時間や空間や情報共有の制約がゼロに | 20代後半 |
2045 (創立60周年) |
東京大学合格者1000名突破 2000人以上の卒業生医師が活躍 北嶺卒医師ネットワークの構築 |
人間中心の超スマート社会 シンギュラリティ到来による仕事の激減 |
30代後半 |
2050 |
生涯学習を前提とした個人に対応した多様な学びを提供する場としての学校の確立 卒業生が国際機関や企業の中枢で中心的に活躍 |
日本の人口が1億を下回る 平均寿命120歳時代、ガン死亡ゼロ |
40代前半 |