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ミライノマナビコラム  ― 今、なぜロボット・プログラミング教育が必要なのか

2020.3.6

第6回 ロボット・プログラミングがもたらす子どもたちの「成長」

福田 哲也

福田 哲也

追手門学院ロボット・プログラミング教育推進室 室長
教科は理科。前職の奈良教育大学附属中学校ではじめたロボット・サイエンス教育を、追手門学院大手前中学校で正規の授業として取り入れた。ロボット・サイエンス部の顧問として、多くの世界大会への出場、入賞を果たしている。2度の文部科学大臣賞を受賞。
日本のロボット教育の普及・啓発を目指して、ロボット教育のカリキュラム監修や出張講義などにも取り組む。

これまで、様々な実践をもとに、ロボット・プログラミング教育が、創造力や論理的思考力、さらにはコミュニケーション力の育成にも寄与することを説いてきた。ただ、教育において忘れてはならないことは、子どもたちの「成長」である。いうまでもなく、それは「テストでよい点をとること」「大会で勝つこと」「メディアで話題になること」と同等ではない。逆に「失敗して学ぶ」「負けても成長する」ことも多々ある。今回、子どもたちの成長や成功に繋がる教育について考えてみたい。

成功の鍵は、「グリット(やり抜く力)」

ある生徒が、「日本の首都、東京を見たい」と言い出した。関西からだと数万円の旅費もかかり、中学生が簡単に行けるものではない。そこで、「先生も見たいなあ。どうしたら、お金をかけず東京に行けるのか考えてごらん」と切り返した。半年後、3 名の生徒と私で東京に行くことになった。ここでは、その詳細を割愛するが、東京を見たことよりも、東京に行くまでの過程が、生徒たちの成長を促したことは間違いない。

ここでのキーは、「諦めずにとことん考える」ことである。最初から「どうせ、無理」で終わらせるのではなく、「どうしたらできるのか」という思考が成長や成功に繋がるのである。

このことは、米国の教育学者であるダックワース氏も説いている。「成功の鍵は、才能や容姿ではない。やり抜く力(グリット)だ」と。さらに「才能があるから、やり抜く力があるとは限らない。むしろ反比例する」と続ける。TED でも紹介されているので、ご覧いただきたい。

TED Talks教育 アンジェラ・リー・ダックワース「成功のカギは、やり抜く力」
日本語訳:吉田裕子

現在、注目されているプログラミングも、あくまでも教育の1つの手段であり、決して目的ではない。プログラミングを通して、子どもたちが成長して、はじめて「教育」と言えるのである。

ロボットに青春を捧げた生徒の学びと成長

中高で、ロボットづくりに打ち込んだ一人の生徒を紹介する。彼女の 6 年間の学びと成長を感じ取って頂ければ幸いである。

私がロボット・プログラミング教育に出会ったのは、中学一年生の時でした。入学して、どの部活に入ろうかと悩んで一覧表を見ていると 、「ロボット」という文字の珍しさに惹かれました。これまで、本気になって取り組んだ経験がなかったので、「ロボット部に入れば、何か変われるのかもしれない」と思い、入部。主にプログラマーとして活動しました。

1年目、世界規模のロボコンWROに挑戦して、いきなり全国3位になりました。そして、次の目標を「世界大会出場」に。ここから私の本気の活動が始まります。

WROに挑戦

大会前は朝から夜まで、必死に活動しました。しかし、2年目は全国大会で負け、3年目は地方大会で負け全国大会にすら出場できませんでした。「努力量や経験は増えているはずなのに、結果はどんどん下がっていく……」こんな状況に嫌気がさしました。悔しさという燃料がたまっていくだけで、エンジンに火が付くことはなくなり、家のベッドで自分を責め続け、ひたすら泣き、もうロボットの世界から離れようとも考えました。

高校生になり、リベンジを誓い、世界最大のロボコンFLLに挑戦。9人のチームリーダーとして……。たまりにたまった燃料に火が付き、再びエンジンが動き出しました。FLLは、ロボット競技だけでなく、研究発表も課せられる世界一過酷な大会でもあります。また、学年も性格もばらばらの9人をまとめるということは、決して簡単なことではありません。そんな状況を乗り越えるために一番大切にしたことが、「自分が一番努力する」ということです。そして、一人一人の個性を大切にし、「全員の得意な部分を最大に活かし、苦手なところはカバーし合う」そんな無限大の力を生み出せるチームを目指しました。数々の問題や課題を力を合わせて乗り越え、地方大会・全国大会を勝ち抜き、ついに米国で行われた世界大会で総合優勝することができました。

FLL総合優勝

ロボット教育活動を通して、プログラミングスキルやプレゼン力、リーダーシップといった力をつけることができましたが、「粘り強く努力し続けていれば、いつか結果が出る」ということを身を持って体験できたことが、最大の学びでした。そして、私が粘り強く続けることができたのは、「悔しい思い」と「仲間の存在」でした。

今、「地震を予測する」という夢があります。どの専門家も地震の短期予測は難しいと述べていますが、だからこそAIを駆使してその可能性に挑戦し、多くの命を救えるようなプログラマーになろうと決意しています。そして、自分が学びたいことを学ぶことのできる第一志望の国立大学に合格することができました。不可能だと思っていた世界大会出場という夢を叶えたように、新たな夢も粘り強く追いかけ続けたいと思います。

追手門学院大手前高 多田遥香

FLL ロボコン世界大会回想記(https://www.otemon-js.ed.jp/uploads/posts/pdf1/1536.pdf)

とことん考え、やり抜く過程に意味がある

ロボットづくりやプログラミングはあくまでも手段で、とことん考え、やり抜く過程そのものが、成長や成功に繋がるのである。今後、プログラミングという教育活動は、様々な場で増えるであろうが、「成長」の観点を忘れてはならない。

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