2020年以降の大学入試改革や次期指導要領で日本の教育は大きな節目を迎える。その一つが従来型の知識を覚えるだけの学習からの脱却だ。しかし、肝心の入学試験が知識だけを問うタイプのままでは、塾も学校も知識詰め込みを続けざるを得ない。今回紹介するのは、今春から始まった追手門学院大手前中学校のWIL入試Ⅱ期。上髙潤詞先生にお話しいただいた。
新しい授業に合わせた新しい入試
新たに導入されたWIL入試はⅠ期とⅡ期の2タイプがある。Ⅰ期はグループワークを行う学習会を経て出願資格を得た受験生が受験可能となり、試験当日は「作文」「面接」で選考される自己推薦タイプ。本記事で紹介するⅡ期は、ロボットプログラミングを使って課題解決に取り組む、新しいタイプの入試だ。
「本校では基礎・基本の徹底をし、知識の習得も当然重要視していますが、その知識を活用したり、探究する『協働型』『プロジェクト型』の学びも推進しています。従来のような、一方的なチョーク&トークの授業ではなく、唯一の正解を素早く見つけることだけが良いわけでもありません。これらの授業の効果をより高めるためには、グループをまとめる力や発表する力が欠かせません。WIL入試はそういう力を測る入試です。」
上髙先生がWIL入試導入の経緯を教えてくれた。Ⅱ期は入試当日までにワークショップの参加を必須とし、ロボットプログラミングの基礎を学ぶ。当日は、ロボットプログラミングによって解決すべきミッションが提示されて、グループでロボットの組み立て、プログラミングの作成、プレゼンテーション、ロボットの実演を行い、その後、振り返りシートに書き込んだことを元に個人面接となる。
ミッションクリアだけでは合格できない
「ロボットだけ、プログラミングだけが上手にできれば合格ではありません。ロボットやプログラミングは、協働したり、課題を解決したりするためのツールです。そのため、ミッションクリア自体は合否に関係しません。たとえミッションに失敗しても、どういうロボットを作るのかの話し合いや作業での協調性、どういうロボットを作り、なぜそう考えたのか、きちんと説明できることなど、18の評価項目(ルーブリック)を設定して判定します。」
たとえば、ロボットが思うように動かなかったためか、集中力が切れて他のグループの発表を聞くときの態度がよくなかった受験生がいた。この受験生の評価は低い。一方で、自らの班のロボットはうまく動かなかったが、他のグループのロボットの良いところをきちんと分析して振り返りシートに綿密に書き込んだ受験生は高い評価を受けた。
「ミッションクリアだけで合格するわけではないことは事前に伝えています。ただ、最初こそ協調的に振る舞うものの、試験開始から10分もすれば、それぞれの素顔が見えてきます。開始直後からどんどんアイデアを試す受験生、なかなかロボットを動かそうとしない受験生など、実に多様です。」
今年度、出題されたミッションは「宇宙ゴミを回収してゴールまで運ぶ」というもの。黄色のゴミはボーナス点を獲得できるが、直線的な動きでは回収が難しい。ボーナス点を諦めて簡単なプログラムにするのか、高得点を狙って複雑なプログラムに挑戦するのか、それぞれの班で戦略が分かれるところだ。工夫次第で、平易なプログラムでも高得点を狙うこともできる。
「弧を描くようにスタートからゴールまでロボットを進めるだけで、高得点を獲得したグループがありました。方向転換をしてあちこち動かすよりもプログラミングのミスがなく確実で、感心させられました。」
知的な悦びは合否を超える
今回の入試では不思議なことが起きた。すでに一般入試でSSコースの合格を手にしているのに、わざわざWIL入試Ⅱ期を受けに来た受験生がいたという。その受験生にとっては合否を超えて挑戦してみたい課題なのだ。そういう課題でこそ、子どもたちの真の思考力や判断力が発揮されるのではないだろうか。評価スコアとプレテストの成績にほとんど相関は見られず、協調性や主体性、表現力などの力はペーパーで測ることが難しいことも改めてわかった。
「基礎学力は本校入学後につけることができます。一方、協調性・主体性などは一定の素養が必要です。受験という理由で、好きなことや得意なことを諦めることなく続けてほしいと思います。その子が持っている個性や才能で開く扉は増えてきました。今回、予想を上回る優秀な生徒が入学してくれます。3年間、6年間の成長を期待しながら見ていき、将来的には、このような入試を拡大していきたいと考えています。」