当初2023年度を予定していた小中学校での一人一台環境だが、新型コロナ感染拡大の影響により、早期の実現を目指すことになった。2020年度補正予算に、小1から中3までの全学年で一人一台の実現を支援する予算が盛り込まれている。2021年4月を目処として本格的にスタートする一人一台の学習環境。これまでの本誌記事をもとに、その課題やあるべき姿を考えてみた。
一人一台はオンライン授業だけではない
2020年3月~5月の臨時休校の間、私立中学校では64%の学校がオンライン授業を実施したのに対して、公立ではわずか5%だった※1。新型コロナの感染拡大によって、日本の公立校のICT整備の遅れが浮かび上がった。
そこで、文部科学省の「GIGAスクール構想(一人一台、校内ICT基盤整備など)」を早期に実現しようということになった。新型コロナの感染状況が予断を許さない現状では、英断だと思われる。ただ、コロナ禍への対策としてのオンライン授業ばかりに気を取られてもいけない。一人一台はオンライン授業のためだけではないのだ。
せっかく一人一台持つからには、オンライン授業を超えて、教材・文房具・学習・記録ツールとして活用して欲しい。これまでの紙ベースではできなかったような新しい学びにどんどん挑戦してもらいたい。具体的な使い方としては、本誌での益川弘如教授のコラム「授業が変わる 学校が変わる」第11回「1人1台端末時代の学び」※2に詳しい解説がある。
※1「私立と公立『教育格差』、長期休校が映した現実」竹内明日香 東洋経済ONLINE
※2[授業が変わる 学校が変わる 益川弘如]第11回 1人1台端末時代の学び
使い倒すぐらいの気概で
一人一台での学びをより有効なものにするためには、授業で使わない時間にタブレットを保管庫で眠らせていてはいけない。
最新のコンピューターは、ただの計算機ではない。機械学習によってどんどん賢くなっていくAIを動かすことができる。いわば「AIの器」なのだ。ひと昔前には考えられないような強力なツールだが、いかに強力なツールも、授業の間だけ少し触る程度では、本領は発揮されない。副教材の延長のような使い方では、子どもたちもいずれ飽きてしまうだろう。
せっかくの一人一台なのだ。各自が休み時間や自宅で、遊びながらどんどん使いこなしていけるようにしたいものである。コンピューターは、あらゆることに使えるツールだ。そのほとんど無限の用途のために、どんなことに応用できるのかは、使い込むことでしか見えてこない。
社会に出れば、コンピューターの使い方に制限などない。うまい応用を思いついた人が新たなアプリを開発したり、仕事を効率よく進められるようになったり、生活上での利便性を高めたりしている。
もちろん、一定の年齢までは、セキュリティやネットリテラシーについて学ぶ必要があるだろう。その上で、できる限り自由に使える環境が、子どもたちの好奇心と発想と相まって、未来に生きる力を育てることにつながるだろう。
本誌で紹介してきた一人一台の新しい学び
本誌でも積極的に紹介してきたが、すでに一人一台環境での学びに取り組んでいる私学は少なくない。これまで紹介した記事へのリンクを以下に記す。
ICTによって浮かび上がる学校の本質 近畿大学附属高等学校(大阪府 共学校)
2013年から一人一台のタブレットPCを先進的に導入した近畿大学附属高等学校(大阪府)。生徒がタブレットを駆使して、自分たちで調べて、発表ムービーを作る授業を展開する。従来の板書よりもはるかに深い学びが実現しているという。何よりも生徒たちが楽しんで学んでいることが素晴らしい。
環境が整えば生徒は自ら学びだす――ICT教育推進プロジェクト 常翔学園中学校・高等学校(大阪府 共学校)
2015年からICT教育推進プロジェクトをスタートさせた常翔学園中学校・高等学校。このプロジェクトによって、同校の学びのスタイルが広がったという。知識を一方的に伝える授業が少なくなり、学習者中心の学びへの移行が起きている。