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ミライノマナビコラム  ― 授業が変わる 学校が変わる

2020.11.13

第11回 1人1台端末時代の学び

益川 弘如

益川 弘如

博士(認知科学)
聖心女子大学現代教養学部教育学科 教授
認知科学者。学習科学、教育工学、協調学習が専門。
著書に、「学びのデザイン:学習科学 (教育工学選書II)」(編著)、「21世紀型スキル: 学びと評価の新たなかたち」(翻訳)「アクティブラーニングの技法・授業デザイン」(共著)など。

 

 前回のコラムでは、ウィズコロナ時代にいかなる教育を実現していくかについて解説しました。今回のコラムの執筆時点(2020年11月11日)においてもコロナ禍の影響は大きく、ウィズコロナ時代の教育の姿が模索されているところです。文部科学省はGIGAスクール構想と呼ばれる小中学校における1人1台の情報端末整備を前倒しし、今年度中には多くの自治体で1人1台端末の環境が整う見通しになりました。

 

1人1台の情報端末によって実現できる学び

 端末を何人かで共有するのではなく、1人1台の情報端末が整備されることで、学校内での利用に加え、家に持ち帰って利用することを進める学校も増えてくるでしょう。実現可能なICT活用の姿を6つに整理して紹介します。

1)指示された学習内容を繰返し見て覚える

 いわゆる情報の提示装置として、さまざまなコンテンツを見ることができます。例えば、先生が解説資料や解説動画などを配布し、それを子供たちは個人のペースでじっくりと見て学ぶ活動などです。しかしながら、この範囲での活用は「目標到達型・教授中心型」から抜け出せていません。

2)出てきた問題を繰返し解き正答できるようになる

 最近は、情報技術の発展によってAIを活用するなど、様々なドリル型アプリが登場しています。解答の正誤に合わせて異なる問題が出題され、これを解いていくことで、指定された領域の問題を間違えずに解くことができるようになる、というものです。個別の得意不得意に合わせた学習法として最近再び注目されています。一見「目標到達型・学習者中心型」に見えるのですが、この学び方の欠点は、「次に知りたいことを選ぶ」ことや「疑問に思った内容を選ぶ」など、自分で次の学びを選択することができません。学ぶ内容の選択は機械が行います。

3)関連する情報を探索し学習内容を深める

 子供自身が「学びたいものを選ぶ」となると、教師がある課題を出し、自分でWeb上の情報などを主体的に調べてまとめる活動を思い浮かべる人も多いでしょう。行動レベルでは良い活動に見えるのですが、深い学びにつながる「目標」や「目的」を持っていないと、浅く調べて出てきた情報をコピー&ペーストするだけに留まってしまう可能性があります。「目標到達型・学習者中心型」から「目標創出型・学習者中心型へと発展させるためには、子供たちに自身に焦点を絞った「問い」を持たせたり、調べた情報の深さについて子供同士や親子で「対話」させたりするなど、学習環境の設計が重要になってきます。

4)自分の考えを可視化、表現し学習内容を深める

 考えを深めていくためには、自分が頭の中で考えている思考やアイデアを頭の外に出す(外化と呼ばれています)ことが有効だと言われています。ICTによって紙のノートとは違い、多様な形で可視化、表現することができます。何度も書き直したり、複製して複製先を作り直して比べたり、どのように書いていったか再生して振り返ったりも可能です。これらを1人で行うよりも、教室の仲間やネットワーク上の他者と比べて見直すことで、可視化のメリットがより生かされ、幅広い視点での見直しにつながっていくでしょう。

5)他者と考えた結果を比較し合い学習内容を深める

 互いの考えが可視化され比較できると、それぞれの考えの違いに気づき、そこからさらに学びを深めていくことができます。しかし、単に並べて情報共有するだけでは「違いを確認」するだけで終わってしまい、「違いから新しいことを考える」にはつながりません。特に「目標到達型・学習者中心型」での利用方法では、1人で考えたことを可視化させ、その後、それぞれのまとめを先生が大型提示装置で共有し、「このまとめはいいね」と先生自身が比較してしまいます。「目標創出型・学習者中心型」にしていくためには、考えた結果を比較した先の学習活動を支える必要があります。

6)他者と考えながら対話する中で学習内容を深める

目標創出型・学習者中心型」で大事なのは、考えた結果を比べて終わるのではなく、互いの考えを比べながら「どういうことなの?」と対話してくような、他者と考えながら対話する中で学習内容を深めていくことです。オンライン会議アプリなどを活用し対話は可能になってきているのですが、対面での対話と比べると、細かな表情やしぐさがわからない、など、微妙な違いがあります。考えながら対話する環境をICTで実現していくためには、さらなる技術開発の期待や、「考えながら対話」しやすくする学習環境の設計が求められるかもしれません。

 

1人1台で宿題も変わっていく

 以上、6つの実現可能なICT活用の姿を紹介しました。家庭における宿題の中身や質も変わっていくかもしれません。各学校の授業で「主体的・対話的で深い学び」が実現していくと、授業時間等ではドリル的な学習は扱わくなり、家庭学習に任せてしまうかもしれません。あるいは、そのような方向性ではなく、むしろ学校と家庭が「主体的・対話的で深い学び」で一体的に結びつくような形になるかもしれません。例えば、色々調べたり、自分の考えを可視化・表現して家庭からクラウドにアップロードしたり、それらクラウド上で他者のまとめを事前に比べたり、家庭でクラスメイトと対話検討したりするような、多様な宿題です。今後、様々なアイデアが出てくることでしょう。

 

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