大学入試改革や新指導要領で日本の教育は大きな節目を迎えた。その一つの目玉は従来型の知識を覚えるだけの学習からの脱却だ。それに伴って、中高でも従来とは異なる基準の入試が模索されている。今回紹介するのは、神戸国際中学校の特色IP入試と思考力入試。総務・広報部長の猿丸義彦先生にお話しを伺った。
本気のプレゼンテーションを評価する「特色IP入試」
2021年度、神戸国際中学校は「特色IP入試」を新たに実施した。IPとはInquiry Presentationの頭文字で「探究的発表」のことだ。同校が事前に提示した3つのテーマから1つ選んで、入試日までに調べたり考えたりしたことを3分間プレゼンテーションする。
「3分間とはいえ、小学生が大人の前で自分の考えを堂々と発表するというのは、大変なことです。むしろ、国語や算数のテストの方が簡単かもしれません。しかし、あえてそれに挑戦し、資料を作り、しっかりと表現する、こういう力がこれからの時代に一層求められると考えています。」
特色IP入試では、小学校での成績や塾の模試結果で一定の学力を確認した上で、プレゼンテーションの評価を重視して合否が決定される。その評価は、「課題発見・解決力」「創造力」「表現力」など5項目5段階の明確な基準があり、事前に示されている。例えば「表現力」の項目では、ただ資料を読むだけの発表では1点しか得られないが「表情は豊かか」「聞き手とアイコンタクトが保てているか」「資料を見ないで発表できているか」「分かりやすく伝えているか」といった基準を満たせば点数が上がっていく。
「今は変化の激しい時代です。2~3年で世の中が大きく変わります。実社会を経験している保護者の方々は、旧来の学力だけでは通用しないという認識をお持ちのようです。そのようなご家庭に支持されたのか、特色IP入試は初日午前の専願者のみという条件にも関わらず、課題テーマに高い問題意識を持つ、優秀な受験生が集まりました。また、本校の3教科入試と併願する受験生もいました。」
2021年度に出題されたテーマは、次の3つだ。
・欧米諸国の生活文化の違いについて考えたこと。
・世界各地の気候変動について考えたこと。
・日本の食料の消費と生産について考えたこと。
どのテーマも、教科書に正解が載っているわけではなく、一朝一夕で答えを出せるようなものでもない。日頃から世界のあり方や自然の現象に関心を持ち、自分なりに考えをまとめていくことが求められる。
入学後の学びに繋がる「思考力入試」
同校は、特色IP入試以外にも、個性を生かす自己推薦型入試「特色AO入試」や英語力を生かす自己推薦型入試「特色GS入試」なども実施して、幅広い受験生の個性を学力として認めようと試みている。「思考力入試」もその一つだ。以前「適性検査入試」として実施していた入試を2020年度から同校の独自性を強めた出題内容に磨き上げて、現在の方式とした。
「本校では、中学1年で調べ学習を行いグループ発表をして、中3でグループレポート、高1では課題探究に取り組みます。思考力入試は、これらの教育に繋がるような出題内容になっています。答えが一つに定まらない問いに対して、興味を持って考えることができる受験生を高く評価することが狙いです。」
例えば、2021年度 思考力入試の問題に次のようなものがあった。
(1)資料(SDGsのゴール13「気候変動に具体的な対策を」)で示された方針を参考にして、最近あなたが経験した、もしくはニュースや新聞などで知った気候変動がどのような点で問題であったのかを、説明しなさい。
(2)(1)で答えた問題の対策としては、どのようなことが考えられるでしょうか。あなたの考えを答えなさい。
(神戸国際中学校 2021年度「思考力入試 社会」問3)
「これからの時代に最も重要なスキルは、考える力です。自分には関係ないとか、活動できないではなく、自分で考えて行動する女性になってもらいたい。本校は『学力・語学力・人間力』の3つの力を持った生徒を育てます。これらの入試方式は『人間力』に繋がる試みです。実際に卒業生の多くは、芸術から医学まで幅広い分野で『私はこんなことをして世の中の役に立ちたい』というしっかりとした目標を持っています。大学受験では総合型選抜(旧AO入試)に強い卒業生が多いのも特徴です※。少人数の女子教育でそれぞれの個性を生かし、男子生徒に頼れない環境で、自然体で学べるところが良いのだと思います。」
※ 主な合格実績:東京大学(推薦入試)、京都大学(特色入試)、慶應義塾大学(AO入試、PEARL入試)など