2020年、追手門学院はミレニアムスクールとの教育連携協定を締結した。かねてから力を入れてきた探究学習が一層充実したものになる。同校の探究学習の考え方や取り組みについて、学年主任で探究Driverの池谷陽平先生にお話を聞いた。
自信のない日本の若者
内閣府の調査によると、国際的な比較において、日本の若者は、自己肯定感が低く、自分が価値ある存在だと感じている割合が低い。「自分は役に立たないと強く感じる」割合が高いことや「社会における問題の解決に関与したい」と思う割合が低いのも気になる点だ。
しかし、今後の技術の進歩を考えると、人間が主体的・意欲的に関与しない仕事は、徐々にAIに取って代わられる。何より、自ら選び取らない人生は、本人にとって楽しくないだろう。
「生徒は、自分たちで見つけた役割や仕事——オープンスクールの手伝いなど——であれば、とても意欲的に、最後まで手を抜かずにやってくれます。同じような環境を学習でも作ることができないかと考えてきました。」
日本初となるミレニアムスクールとの連携
その学習環境の実現のため、同校では探究の授業に力を入れてきた。『探究科』の専任教員が3名いることからも本気度がうかがえる。そして、2020年に締結したミレニアムスクールとの教育連携協定により、この方向性はさらに強化された。
ミレニアムスクールは米国シリコンバレーにある新しい教育理論を実践する中学校。思春期の発達理論に基づいた取り組みや、授業は『クエスト』と呼ばれる探究、教科横断的なプロジェクト学習で構成されている。
「ミレニアムスクールの『クエスト』の考え方を取り入れることで、プロジェクト学習の水準を高めることができました。『クエスト』は、『Personal(自分)』→『Social(他者)』→『Real world(社会)』のサイクルをベースにします。自分の中から出てくるもの、人と協働して出てくるもの、それらを社会に対してどう展開するのかを、1つのプロジェクトの中に盛り込みます。」
自分自身を知ることで主体的に課題解決に取り組む
入学した生徒の探究学習は「アート」から始まる。生徒が自分を知り、自信を持つことが狙いだ。
「まず一度、自分自身にベクトルを向けて、何かを感じ、考えること。それが、これからの時代に価値を創造する人材育成に欠かせません。生徒には『あなたにしかできないことが必ずある。価値はあなたからしか生まれない』といつも伝えています。」
アートを使った授業として池谷先生は次のような例を挙げてくれた。
「例えば『対話型鑑賞』という方法では、ある絵画を鑑賞して自分の目がどこにいくのか、どのように感じ何を考えたのか、ペアやグループで共有します。今度は自分の感覚などを写真で表現します。作品を作ることで、対話的な学びが広がります。同じ絵画を見ても、見るところや感じ方は人によって異なるということに気づき、自分の創造性や正解はないことなどを学びます。この感じたことや考えたことの振り返りを繰り返すと、表現やコミュニケーションのスキルが磨かれていき、自分の考えを堂々と表現できる自信に結びついていくのです。」
中学校段階から高1までは、このように人間性のベースを築く探究に取り組む。高校2年生からが本格的な課題解決型の探究学習だ。自分を起点に、他者、社会へと世界を広げていくことを重要視している。
「自分がどんなことに情熱を注げるのかがわかれば、どんな人を助けたいと思っているのかが明確に意識できるようになります。その上で、地域の課題解決を考える授業へと進むことで、生徒が『やらされている』と感じることなく、主体的に授業に取り組めるようになります。」
同校探究科の取り組みは、探究メディア「O-DRIVE」にて公開されている。全国の教員に活用してもらいたいと考えての公開だという。
「おそらく、多くの生徒にとって初めて経験する学び方だと思いますが、この年代の子どもたちの反応や気づきには、感心させられます。生徒の満足度も高く、昨年度の高1で80%、中1では95%もの生徒が、探究に取り組んでよかったと答えています。」
2022年度「創造コース」新設
2022年度、追手門学院高等学校で「創造コース」が新たに開設される。教科授業を探究プロジェクト型として、自分を表現したりチームで課題解決に取り組んだりする学びを中心にするコースだ。
「学校の本来の役割は、生徒が自分自身の中にある価値に気づき、社会にどのように貢献していくのかを考えることです。学校が最もクリエイティブ(創造的)な場であってほしい。新コースでは、プロジェクト型の学びを中心にして、独創性を大切にしながら学びに向かう原動力を育みます。」
2019年に移転・新築された新校舎は、探究プロジェクト学習に最適な構造になっている。図書室を中心にした壁のない教室は、旧来の学校がとらわれている固定観念を取り払う。ミレニアムスクールとの連携でますます広がる同校の学びの可能性に今後も注目したい。