今回は「シンギュラリティ時代の子育て」ということで、シンギュラリティ以降も生きていく子供たちのために保護者は何ができるのかを考えてみたいと思います。
AIとの戦いに備える必要はない
本題に入る前に、再度シンギュラリティの概念に関して簡単に確認します。それは“人間と同等以上の思考能力を有した人工知能(AI)が一度生み出されることにより、そのAIが自身を改良し、より優れたAIを産み出すという過程が繰り返されることで、知能や生み出される科学技術の爆発的発展が起きるだろう”という予測です。
ではこの事象に対し我々は何ができるでしょうか。私は2つの意味で備える必要がないと考えます。
1、シンギュラリティでAIが人類の知能を凌駕するため、彼らが人類に対して何か問題となるようなことを起こしたとしても、人類が対抗することは難しいからです。人類とAIがタッグを組む場合もあるかもしれませんが、そのAIが人類の味方であるとは限りません。
2、シンギュラリティが起こるのは2045年ごろと言われており、今年産まれた子供が24歳になるくらい先の話です。多くの保護者が仕事などで忙しい中、我が子の成長を考えて日々試行錯誤しているのに、まだ現実に起こっていないことに対してまで、恐怖にかられ心配する必要はないからです。
今へのフォーカス
今現在起きている問題の一つとして、子供の読解力不足や思考力不足があると言われていて、そのような力を養うことが先決と警鐘を鳴らす方もいます。確かにそれらは子供の時ほど養うべき力の一つでしょう。なぜならば、人間は過去の情動記憶に今の思考と未来を束縛されており、それが創り出すフィルターを通して重要だと判断したものしか認識することができないため、年齢が上がるほど自分の思考のフレーム外の情報を取り入れ、目指す現実を作り出すことが難しくなるからです。
従来の教育制度に従い”安定した人生”を歩もうとするのであれば、苦手教科を克服し、入試に必要な教科で一定の成績を収める必要がありました。しかし、これからの時代、子供たちの個性を伸ばし自分の人生を歩みやすくさせたいのであれば、学習に必要な言語力の習得(読解力)と思考力を早期につけ、初期段階では自己肯定感を高めることに注力し、苦手を克服するために使う時間を、得意を伸ばす時間に充てることが肝要ではないかと感じます。
思考力とは本来、与えられた選択肢の中から正解を選ぶだけの能力ではなく、自分が得た情報を鵜呑みにせず、その情報を元に調査を行い、集めた情報を分析したり過去の経験から洞察したりすることで、自らの結論を導くことができるようになる、という能力だと思います。さらに得られた結論から自らの思考を変え、それを行動に移すことができるようになると、良いフィードバックループを生めそうです。
また、最近感じるのは、考える以前に実は感じることが大切ではないかということです。なぜならば、あなたの体の無数のセンサーを通して得られる統合された感覚は、あなたにしか感じることのできないものであり、それに伴って生じる情動もこの宇宙で唯一無二のものであるからです。さらに加えて、何を好きか何を嫌いかは人生における幸福度を左右するものでもあるからです。
子供も大事だが、自分も大事
人生には限りがあります。そしてあなたの人生はあなただけのものです。自分の感性に従ってやりたいことを実現させる方が幸福ですし、後悔しないでしょう。
たとえ人間と同等以上に思考できるAIが登場しても、AIが、あなたが生きたいと思う人生をあなたに代わって生きることはできません。あなたがやりたいことはあなた自身が考えて実現させなければなりません。
親が自らの人生を生きる姿を見せて、子供も親のように自分の人生を歩みたいと思えば、子供の方から自主的にどのようにすればそういう生き方ができるのか聞いてくるでしょう。逆に、子供たちが日々やりたいことを存分にできて今を楽しく生きているのであれば、それを邪魔することなく、必要とされる時に必要だと感じる支援をすればいいだけではないでしょうか。シンギュラリティ時代の子育て、それはあなたがあなたの人生を生きること——このように自戒を込めて書かせていただきます。