2020年度からの新学習指導要領で小学校の英語教育が拡充されました。そこでは「実際に英語を用いた言語活動を通して」学ぶことが重要とされています。そのための学習方法の一つとしてヨーロッパで広く採用されているのがCLIL(Content and Language Integrated Learning :内容言語統合型教授法)。前回に引き続いてこの教授法を紹介します。
CLILの4つのC
CLILは、外国語学習方法の一つとして、内容(教科や異文化理解、環境等)と言語(外国語)とを融合して学ぶ方法です。イタリアやフランスなどのヨーロッパで始まり日本でも英語の効果的な学習方法として定着しつつあり、小学校外国語教育の教科書でもCLILを活用した学習が多くみられます。
CLILには、
①Content … 科目や内容
②Communication … 語彙・文法・発音などの言語知識や、4技能
③Cognition … 様々なレベルの思考力
④Community / Culture … 共同学習、異文化理解
の「4つのC」が挙げられます。
例えば、過去形の表現を学習する時に、クラスで先週観たアニメについて、“What anime did you watch last week?” “I watched DORAEMON.” “I watched CONAN.” “I watched ONE PIECE.”等と、友達とコミュニケーションを図りながらアニメの番組についてアンケートを行う内容が掲載されています(Blue Sky elementary 6:73)。
これはCLILを活用した他の科目と英語の融合の例で、3年生の算数の「棒グラフ」の学習を、英語を使って学ぶ活動になっています。
1 何を表したグラフですか。
2 □に結果の数字を書きましょう。
3 わかったことを1つ、英語で言いましょう。
と児童の言語活動が書かれています。
英語でのコミュニケーション活動を通して、算数の「棒グラフ」で使用する語彙や表現について学ぶことができます。また、児童がグラフから「わかったこと」を英語で表現したり、クラスの友達と話し合う協同学習によってさまざまなレベルの思考力が育成されます。
理科と英語を融合させた活動例では、「春」から「秋」への季節の移り変わりで植物の育ち(稲の育ち)や、動物の成長(青虫⇒蝶)(オタマジャクシ⇒蛙)について「現在の状態と過去の状態」について、以下のような例で表現を示して、「過去形」を学習する内容が掲載されています。
“Look at the rice field. It is yellow. It was green.”
“Look at this? It is a butterfly. It was a caterpillar.”
“Look at this? It is a frog. It was a tadpole.”
(CROWN Jr. 6: 66-68)
伝えたい思いが外国語学習の原点
また、文字を書くこと、読むことの学習を通して、「大切な人やお世話になった人にメッセージを添えて渡す」活動があります。ここには、「広島平和記念資料館に展示されているオバマ前大統領のメッセージと折り鶴」が掲載されています(Here We Go! 6:112)。
文部科学省は、「書くこと」について、「「思考力、判断力、表現力等」が育成され、より一層言語(英語)の定着が期待できるのは、学習者が「自分が伝えたいことを表現するためには、この言葉が使える」などと、必要性を感じながら当該言語材料を使用する時である」(『小学校外国語活動・外国語研修ガイドブック』文部科学省 2017: 83)と言及しています。
この活動では児童が「メッセージ」といった凝縮された短い表現の中に、自分の思いを込めるために言葉を選んで「書くこと」で思考力や表現力の育成ができ、一方、読者はその思いを「読むこと」で理解することができます。この教科書のCLILを活用した学習では、国語科、外国語科の科目を超えて、「平和」「人権」「異文化理解」教育として、学習者同士がメッセージを交換するために、考えながら、協力的に学習したり、これらの内容に関連した英語の語彙や表現を学んだりすることで、児童のCognitionを育成できる教材であると思います。
以下は、CLILで授業を行う利点です(和泉・池田・渡部 2012:7-8)。
1 中身のある内容やオーセンティックな教材により、学習への動機づけが高まる。
2 異文化意識が育つことで、国際社会に参加するための英語習得という「統合的動機(受験勉強のような「道具的動機」に対する概念)」が生まれる。
3 意味のある豊かなインプットが与えられる。
4 英語を使って学ぶので、インタラクションやアウトプットを行う必然性が生まれる。
5 聞く・読む・話す・書くを有機的に統合できる。
6 深い思考を伴うので、言語知識が記憶に定着しやすい。
7 文字、音声、数字、視覚など多様な知能(multiple intelligences)に訴えるので、さまざまな学習スタイルに適合しやすい。
(参考文献)
和泉伸一・池田真・渡部良典(2012年)『CLIL(内容言語統合型学習)上智大学外国語教育の新たなる挑戦 第2巻 実践と応用』 Sophia University Press 上智大学出版