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ミライノマナビコラム  ― 子供たちのシンギュラリティ

2022.1.14

第16回 SDGs実現社会 子供たちの仕事はどうなっているのか?

小泉 貴奥

日本シンギュラリティ協会 小泉 貴奧

米国テキサス大学アーリントン校学際学部卒。レイ・カーツワイルの思想に傾倒し、帰国後2007年に日本シンギュラリティ協会を設立。講演やセミナーを開催し概念の普及に努める。ベンチャー企業を3社立ち上げ、電子カルテや各種ネット系サービス、人工知能開発を行うなど、シンギュラリティの実現へ向けて邁進している。
日本シンギュラリティ協会
https://www.facebook.com/groups/JapanSingularityInstitute/

 

前回「雇用の未来」や「無用者階級」に言及しました。今回はそれに加えてSDGs実現社会やAI時代にどのような仕事が生まれるかも検討したいと思います。

 

SDGsESGで生まれる仕事

 SDGsとは、Sustainable Development Goals2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標※1です。また、ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取って作られた言葉※2で、近年このESGに配慮した企業に対して投資を行うESG投資が重要視されています。これら二つは別物ですが、それぞれの目標に対応している部分があります※3

 これらの目標を達成するためには、「ムーンショット」理論※4といわれる大きな目標を掲げ、それに必要なイノベーションを起こしていく必要があります。日本では、内閣府が掲げるムーンショット計画※5というものがあり、その目標1は2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現すると書かれています。

 具体的にはICTやロボットを使って人間の身体能力や認知能力、知覚能力を拡張し、1人で10体以上のアバターをサイバーフィジカル空間で動かすことで仕事をしたり、旅行に行った気分になったりするような形を目指しているとのことでした。

 現在その片鱗を垣間見られる事例として、株式会社オリィ研究所が運営する分身ロボットカフェ DAWN verβ※6が挙げられるでしょう。東京都の日本橋にあるカフェで、外出困難な方を企業が雇用し、彼らにロボットを遠隔操作してもらうことで顧客に接客サービスを提供しています。SDGsのダイバーシティやバリアフリー拡大に貢献し、身体・空間の制約から解放されたといえる事例です

 これはまだ実現していませんが、例えば調理を職業にしていた方が、自身の料理の手順をモーションキャプチャーしたものをMoley Robotics※7のキッチンロボットなどに販売することができれば、ライセンスで稼ぐことができます。これは身体、脳、空間、時間すべての制約から解放されているといっても良いのかもしれません。

 身体能力の拡張という意味では、先日、主鏡の展開に成功したばかりジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡※8のようなものも、人間の目では見えない空間を観測するという意味において当てはまりそうです。同様に様々な機械やそこから発生する数値やデータを使いこなすというスキルを身につけておくことで常に能力を更新し続けられると言えるかもしれません。

 NFT関連もデジタルトンラスフォーメーションを促進し、リアルと融合することで仕事を作れる技術の一つかと思います。本来無限にコピー可能なデジタルデータを有限に制限できる技術であり、ネット上でも希少性を担保することが可能になります。リアルで活躍していたアーティストなどはデジタルでも活躍の場が広がります。

 他にもマイクロソフトテクノロジーライセンシングLLCが保有する特許WO2020060606A1※9には、タスクに関連づけられた身体活動を暗号通貨システムのマイニング過程に用いる方法が記載されています。システムから命令された通りに体を動かすことで、マイニングした暗号資産の一部が貰えるような仕事も生まれるかもしれません。

 

対応が遅れている日本は厳しい時代に

 しかし、上記のように新しい仕事が生まれる場合もあるとはいえ、SDGs、ESGはいわゆる「グレート・リセット※10の一環であり新しい社会を創るためのものです。すなわち、デジタル社会への道でもありますので、対応できない多くの人間は不要とみなされるのではないかと思われます。なぜならばロボットやAIは文句も言わず、雇用に関する制限もなく、安価に”クリーンに”多くの仕事をこなすことができるからです。また、SDGsやESGは人間の高い創造性を発揮して解決していく科学ベースというよりは一部の人間が決めたルールであり、それに従わない企業は評価・価値が下がり、銀行からの融資が受けられなくなる、ということも起こるでしょう

 私は「不要な人間などいない」と考えています。しかし、実力がものをいう現代の資本主義社会では、この社会を所有している人々からは、不要とみなされるのではないかと危惧しています。「社会を所有している人々」とは、世界上位の億万長者のことで、彼らはわずか2000人ほどでその他46億人が持つ富の6割を所有しています(2020年)※11。彼らは食糧、加工品、工業製品とその原材料、生産体制、物流、燃料、軍事、メディア、IT、あらゆるものを所有しているため、社会の方向性を握っているといっても過言ではないでしょう。

 SDGsやESGは彼らの意向でもあります。日本は法的な問題に加え、多くの企業が対応できていないため、これから特に厳しい時代に入りそうです。デジタル化を推し進めるか、そこから降りるか、私にはその二つの選択肢しかないように思えて仕方ありません。

 

※1 外務省JAPAN SDGs Action Platform
※2 NRI 用語解説 経営 ESG(環境・社会・ガバナンス)
※3 SDGsを羅針盤に据え、大学も教育と研究でグレート・リセットを マトリックスによる情報整理の一例
※4 SDG PARTNERS 1. ムーンショット理論
※5 内閣府 ムーンショット目標1
※6 DAWN CAFÉ
※7 Moley Robotics
※8 ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(Wikipedia)
※9 Cryptocurrency system using body activity data
※10 World Economic Forum: The Great Reset
※11 World’s billionaires have more wealth than 4.6 billion people Published: 20th January 2020

 

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