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ミライノマナビコラム  ― 大局観で教育を考える

2022.6.10

第17回 2回の共通テストから見えてくる日本の教育の行方(1)

後藤 健夫

後藤 健夫

教育ジャーナリスト。
大学コンサルタントとして、有名大学などのAO入試の開発、 入試分析・設計、情報センター設立等に関与。早稲田大学法科大学院設立に参画。元・東京工科大学広報課長・入試課長。『セオリー・オブ・ナレッジ―世界が認めた「知の理論」』(ピアソンジャパン)を企画・構成・編集。

 

大学入学共通テストも昨年度、今年度と2回実施されたことになる。来年1月の3回目の実施を前に、この2回の共通テストを振り返ってみると、国際バカロレア(IB)で展開される教育と通じるものが見えてくる。今回、次回と2回にわたってこれを説いていきたい。

 

教育は社会の影響を強く受けるもの

 パリ8大学で社会心理学を教えていた、知人の小坂井敏晶さんは「教育は社会の中にあり、社会の影響を強く受けるものである」と言う。時代に呼応した社会から求められる教育は時代の変化に応じて変わる。それは日本に限らず、世界を俯瞰しても言えることなのだろう。

 例えば、日本の戦後復興、高度経済成長期に求められたものは「促成」「一律一斉」など、若者を効率的に勉強させることだった。「詰め込み教育」に象徴されるものだ。いわゆる「工場モデル」と言っても良いのかも知れない。しかし、日本において、少子高齢化、社会のデジタル化が大きな課題となり、教育は変わることになる。

 これまで優秀なコンピュータのようにたくさんの知識をため込み正確で素早い処理能力を学習者に求めたが、いまではコンピュータの発達でそのような業務は機械に任せた方がより確実かつ迅速になる。このとき人間はどのように学ぶべきかを考え、従来のコンピュータを育てるような「受動的」な学び方から「能動的」な学び方への転換が求められた。そして、知識はため込むだけでなく知識をいかに活用するかを求める。さらに、日本は少子高齢化に代表されるように「課題先進国」であり、世界に先立って課題を解決していくことが求められているが、残念ながら「課題“解決”先進国」にはなり得ていない。

 これらに対応するために文部科学省は今回の学習指導要領の改訂で主に高校教育にて「探究学習」を導入した。IBでは当初よりこの探究学習が展開されている。近年、IBに注目が集まったのも、教育のグローバル化に加えて、探究学習がなされている点もある。

 

10年に1度の「教育のアンラーニング」

 こうした社会と教育の摺り合わせをする機会が「学習指導要領」の改訂であり、だいたい10年に1度の割合でなされてきた。IBでも7年に1度、カリキュラムの内容が刷新される。これにより教員には「アンラーニング」(知のデットクス)を求めて教える方法や教える内容を変えていき、社会の期待に応えられる教育へと変貌するのである。

 そして、いまはデジタル社会への適合を教育は求められており、GIGAスクール構想が進められている。この動きはコロナ禍の学校の一斉休業でより加速された。

 さらに、2021年度の入学者選抜試験から「大学入試改革」が行われて、大学入試センター試験から大学入学共通テストへと様変わりしたり、数学を新たに課す私立大の人文社会科学系の学部が現れたりし始めた。記述式の出題をするところも、民間英語4技能試験を導入するところも出てきた。

 今年度から新しい学習指導要領が高校に導入されて、いまの高校1年生が大学受験をする25年度の大学入試は大学入試改革の「完全実施」と言われており、それまで待っていられないと、共通テストでは出題が大きく見直されている。

 次回は、その共通テストの大きな変化や、それにともなって求められることは何なのかを解説していく。

 

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