大学入試改革や新指導要領で日本の教育は大きな節目を迎えた。その一つの目玉は従来型の知識を覚えるだけの学習からの脱却だ。それに伴って、中高でも従来とは異なる方法での入試が模索されている。今回紹介するのは、松蔭中学校の課題図書プレゼン入試。副校長の芳田克巳先生にお話しを伺った。
兵庫県でも屈指の図書館
2022年度、松蔭中学校は「課題図書プレゼン入試」を新たに実施した。同校が指定する課題図書から一冊選び、ポスターを使って「おすすめポイント」をアピールする。5分間のプレゼンテーションと10分間の質疑応答で合否を決める入試だ。導入の背景を芳田先生は次のように説明する。
「本校には蔵書10万4千冊の充実した図書館があり、4人の司書による丁寧な運営がなされています。50年以上続いている全校読書運動では、単に読むだけでなく、本を紹介するPOPを作るなど『書に親しむ』取り組みをしています。そこで、従来の学力に加えて『本が好き』という生徒にも入学してもらいたいと考えました。」
松蔭といえば「英語の松蔭」のイメージがあるが、読書を軸にした国語教育にも力を入れている。10万4千冊は兵庫県でも屈指の蔵書だ。しかも、生徒の意見も取り入れつつ選書を行い、150冊~200冊が毎月入れ替えられている。公共の図書館では返却待ちになる人気の新刊本から最新の雑誌まで、蔵書の内容も充実している。
今まで見えなかった答案の背後を見る
「従来の入試方式では、答案用紙の背後にある受験生の考えや思いを見ることができませんでした。プレゼンに加えて質疑応答をすることで、プレゼンでは言えなかったことを話しの中から聞き出すことができました。受験生とのやりとりを通して、それぞれの資質や個性をより深く見ることができたと思います。」
実際に受験生が入試で使ったポスターは、どれも力作揃いだ。ポスターは何枚でもよく(サイズは四つ切以下)、スライドのようにページをめくっていく作品が多かった。イラストが凝っていたり、感想や考えたことを効果的に伝えるようにページを区切っていたり、これだけで十分な学力の証明となりそうなものだった。
「一生懸命作ってきたのがわかるものや、伝えたいことがよくわかるものが高評価になりますが、それぞれの受験生が感じたこと、考えたことを絵や言葉で工夫して表現していて、聞いていて楽しいものばかりでした。」
評価の観点には「熱意」「課題図書の内容理解」「プレゼンの表現力」など7項目があり、それぞれ4段階で評価する。複数の試験官が同時に採点し、個人の主観で偏らないようにしている。おすすめの対策方法について芳田先生に教えてもらった。
「課題図書は子ども向けのベストセラーからも選んでいて、本校としても読んでもらいたい本ばかりです。どれも面白いので、いくつか読んでから、気に入ったものを2回ぐらい読んで、内容のまとめや感想を言語化したり、絵画で表現したりする練習をすると良いと思います。入試のためではなく、本に親しもう、というスタンスで取り組んでもらえればと思います。」
12月17日(土)には課題図書プレゼン入試の練習会が実施される(要申込み)。同入試の受験を考えている場合はぜひ参加しておこう。2023年度入試での課題図書や選考方法の詳細は以下で公開されている。
https://shoin-jhs.ac.jp/prezen/
土曜日や長期休暇には図書館を開放
同校では、兵庫県屈指の蔵書を誇る図書館を活用して、土曜日や長期休暇中に、男女問わず小学生に図書館を開放する「松蔭サタデーライブラリー」を実施している。また、夏休み終盤には図書館を使ってオリジナル新聞を制作する「夏休み宿題お助け講座」が開講される。地域に開かれた私学の知の財産を大いに活用したい。