これからのグローバル時代に生きていく子どもたちに求められるのは、単純な英語力だけではありません。地球市民として、異なる文化をもつ人々を受け入れて、対等な関係を築き、共に生きていく「多文化共生」ができる態度・能力が不可欠になります。学習指導要領の前文でも提言されているこの考え方を、実際の授業にどう反映することができるのか、教科書を例にして紹介します。
多文化共生時代の教育
グローバル時代に対応した人材育成として、多文化共生に向けた教育が一層必要とされています。
総務省では「多文化共生の推進」として、2006年に「国際交流」や「国際協力」に加え、国籍や民族などの異なる人々が、互いの文化的差異を認め合い、対等な関係を築こうとしながら、地域社会の構成員として共に生きていくような、多文化共生の地域づくりを推し進める必要性を提示しています。
総務省|地域の国際化の推進|多文化共生の推進 (soumu.go.jp)
また、文部科学省では、国際教育の意義と今後の在り方として、初等中等教育段階においては、すべての子どもたちが、
1.異文化や異なる文化をもつ人々を受容し、共生することのできる態度・能力
2.自らの国の伝統・文化に根ざした自己の確立
3.自らの考えや意見を自ら発信し、具体的に行動することのできる態度・能力
を身に付けることができるようにすべきと定めています。
初等中等教育における国際教育推進検討会報告-国際社会を生きる人材を育成するために- (mext.go.jp)
そして、2020年度から導入された学習指導要領では、「一人一人の児童が,自分のよさや可能性を認識するとともに,あらゆる他者を価値のある存在として尊重し,多様な人々と協働しながら様々な社会的変化を乗り越え,豊かな人生を切り拓(ひら)き,持続可能な社会の創り手となることができるようにすることが求められる。(文部科学省 新学習指導要領 前文より)小学校学習指導要領 (mext.go.jp)」と提言され、多文化共生教育と連携することが求められています。
外国語活動の目標には、「外国語を通して、言語やその背景にある文化に対する理解を深め、相手に配慮しながら、主体的に外国語を用いてコミュニケーションを図ろうとする態度を養う。」また、小学校外国語教育の目標には、「外国語を通して、外国語の背景にある文化に対する理解を深め、他者に配慮しながら、主体的に外国語を用いてコミュニケーションを図ろうとする態度を養う。」と示されています。すなわち、外国語活動・外国語教育では、児童が外国語を「知識・技能を習得する」ために学ぶだけでなく、地球市民として言語・文化の異なる人々に配慮しながら、外国語で円滑にコミュニケーションを図ることが求められています。
以上のことから、ここで小学校外国語活動・教育における「多文化共生教育」の授業づくりについて教科書に掲載されている内容からご紹介しましょう。
多文化共生の授業づくり
1.英語の歌による多文化共生教育
It’s a Small World 【Let’s Enjoy the Music】 (ONE WORLD Smiles 5: p.118)
教科書の解説には、「『この小さな世界で、わたしたちは笑いやなみだを分かちあい、笑顔でだれとでも友達になることができる』と歌うこの曲には、争いのない平和な世界への願いがこめられています。」と記されています。 |
Everyone Is Special 【英語の歌】 (Here We Go!5: p.115)
教科書の解説には、「『一人一人はかけがえのない存在で、あなたの代わりはだれもいないよ』というメッセージがこめられた歌です。」と述べられています。 |
小学校外国語教育では、歌詞の内容を全て理解して歌うことは難しいと思いますが、繰り返し何度も聞くことで、It’s a Small World では、「hope, share, laughter」等や「It’s a small world after all」等、共に生きることに対するポジティブな語彙や表現をメロディーに乗せて歌うことができるといいですね。
また、Everyone Is Specialでは、「You are special, you’re the only one.」 「You’re important, you really are. 」「You’re the only one of you.」等、世界中で、自分も友達もみんな一人一人が特別で大切な人間であること、だからこそ「みんな価値ある存在なんだ!」と力強く歌えることができるといいですね。
2.世界とつながる言語活動と多文化共生教育
外国にルーツのある児童にとっては、彼らのルーツである国や母語との関係を考慮した活動を行うことが重要です。
「世界と自分のつながりを発見して紹介しよう」(NEW HORIZON Elementary 6: 61)
HOP: 身の回りのもの(持ち物・動物・食べ物)から世界と自分のつながりをさがそう。 |
という活動があります。外国にルーツのある児童にとって、彼らの自身のルーツである持ち物や食べ物などを紹介することで彼らのアイデンティティを尊重することができると思います。
例えば、以下のような言語活動ができます。
ウクライナにルーツのある児童がビートの写真を見せます。
クラスの児童たち: What’s this ?
外国にルーツのある児童: It’s a beet, Blood Turnip.
クラスの児童たち: Where is it from ?
外国にルーツのある児童: It is from Ukraine.
Let’s cook буріщі (ブリシシィ=ボルシチ:ウクライナ語) with me !
※ロシア料理として日本人に知られているボルシチ(ロシア語表記борщ /ボールシチ)は、元々はウクライナの家庭料理で、ウクライナ語では、буріщі (ブリシシィ)、 赤いスープという意味です。
また、教科書には、「Horizon Mart」のお店で、Norway の salmon、Philippines のbanana等、海外や国内の食材と生産地が掲載されています(NEW HORIZON Elementary 6: 56-57)。ここでは、「お国自慢 ふるさと料理」の内容で家庭科と外国語科を関連づけてCLILを活用した授業もできます。
「World Tour」 (Here We Go!5: p.88)では、「世界各国の料理が味わえるお祭りの様子です。あなたは何が食べたいですか。」が掲載されています。
ここでの活動は、Spain, Vietnam, Indonesia, Thailand, Brazil の各々の国で有名な食べ物が掲載されています。
日本の料理にも同じような料理がありませんか? 焼き鳥に似ている「アテアヤム」はどんな味なのでしょうか? インドネシアにルーツをもつ児童がいたら、訊いてみましょう。
「リングイッサ(ポルトガル語: Linguiça)」は、生肉をハーブやスパイスと一緒に腸詰めにしたポルトガル風ソーセージです。
「Abby and Philippine (アビーさんとフィリピン)」では、映像を見た後、(Here We Go!5 : p.94)のフィリピンの説明を読み、理解を深め、アビーさんの「フィリピンを知る・クイズ」に取り組みます。
例えば、フィリピンにルーツのある児童であれば、家の周りに「バナナ」「パパイヤ」が採れることは知っている場合もあると思います。このような写真等を提示しながら、さらに多くの「クイズ」を作ってみてはいかがでしょうか。他にも、外国にルーツのある児童の国についての「クイズ」や、日本の文化・食べ物等の「クイズ」を作成して、海外に発信することもできると思います。
このように、小学校外国語教育を通して、一人一人のこどもが「地球市民の一員である」ことが自覚できること、そして、「国際共通語としての英語を学ぶ意義」等の理解ができることが多文化共生教育の第一歩であると思います。
その上で、国際共通語としての英語を主体的に学ぶこと、さらに、言語活動を通して、児童に「違いを認め、共に生きるという意識」を育むことが多文化共生教育には必要だと思います。