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2023.5.12

[なぜ学びが変わるのか?] 第11回 ChatGPT以降の教育とは

2021年度より中学校で、22年度に高校で、新しい学習指導要領が全面実施されます。これまで重視してきた「知識・技能」に加えて「思考力・判断力・表現力等」と「学びに向かう力・人間性」の育成が目指されます。そのために「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング)に力を入れることになります。このコーナーでは、なぜこのような教育の改革が必要なのかを、シリーズでお伝えします。今回は近年その実用性を飛躍的に高めた生成系AIに対する教育の反応を見ていきます。

1年間での飛躍的な技術革新

 2023年3月、アメリカのAI開発会社Open AI社がGPT-4という名前のAIを発表しました。半年前に発表されたChatGPT(GPT-3.5)から、その性能は飛躍的に向上しています。

 既に、本誌のコラムニストの方々も言及しているように、子どもたちの未来を大きく変える技術革新が起こりました。つまり、教育を変えなければならない緊急度合いがさらに増したのです。

 GPTはGenerative Pretrained Transformerの略で「生成可能な・事前学習済み・自然言語変換機」という意味です。一般的には「生成系AI」と訳されます。初代のGPT-1は2018年に発表されました。以降、訓練データとパラメータ数※1を増強しつつ、性能を向上させてきました。

 2022年3月に完成したGPT-3.5は、11月末にChatGPTとしてWebでの利用が可能になりました。十分に自然な対話を生成しますが、話す内容に嘘が含まれることが多く、アメリカの司法試験を解かせると、下位10%程度のスコアしか取れませんでした。

 ところが、3月に発表されたGPT-4は、GPT-3.5よりさらに自然な文章を出力できるだけではなく、アメリカの司法試験で上位10パーセントの成績を取り、アメリカの大学入学共通テスト「SAT」で読解710/800点・数学700/800点(SATは各500点が平均点になるよう作られる。アイビーリーグ合格者で合計1500点程度)を取るなど、大半の人間よりも優れたパフォーマンスを示しています。先日、日本の医師国家試験でも合格ラインを超えるとの研究結果が報告されました※2

 これだけの進化が、たった1年程度で起こったのです。

※1 パラメータ数は脳のニューロンやシナプスに相当する。GPT-1では1億1700万だったが、GPT-3では1750億まで増強された(GPT-3.5、GPT-4では非公開)。ちなみにヒトのニューロンは約1000億、シナプスは約150兆。

※2 最新版AI「GPT―4」、日本の医師国家試験で「合格」…安楽死などでは不適切解答 読売新聞オンライン 2023年5月10日

人間が作文することは認めない

 「AIが社会を変える時代に子どもたちの教育を考える」ことは本誌の使命の一つです。しかしながら、このコーナーでは、これまで「将来的に社会が変わる」という話が多かったと思います。それに対して、今回はまさに足元で起きている変化です。およそあらゆる質問に自然な回答を返すGPT-4のようなAIの登場は、本誌が考えていた未来がもはや未来ではなく現実になりつつあることを示しています。

 GPT-4の登場に対して、教育機関はさまざまな反応を見せています。例えば大学では「許可なしでは使わせない」という大学や「AIのみで作成したレポートは認めない」という大学など、それぞれ対応が異なっています。おそらく、大学の先生方でさえ、AIの加速度的な進化に戸惑っているのでしょう。

 そんな中、興味深いツイートがありました。京都大学のレポート課題で、次のような指示が出されたそうです。

・生成系AIを使ってレポートを作成せよ
・人間が作文することは認めない
・嘘や間違いを回答として採用してはいけない

出典 加納学:自転車で全都道府県へ さんのツイート

 優れた課題の出し方だと感心しました。実用レベルの生成系AIが世の中に登場したことは無かったことにはできません。仕事の現場はもちろん、教育の現場にも急速に広がっていくでしょう。それを無理矢理に禁止するのではなく、正しい使い方、教育的にプラスになるような使い方を模索することが重要なのです。

 現ヴァージョンのGPTは、事実に関して間違えることが少なくありません。間違いを直すためには、人間がGPTに対してそれを指摘し、書き直しを命じなければなりません。つまり、前出の課題は、人間がGPTの教師役となってレポート作成を指導する課題なのです。

 一方で、正しく命令すれば(あるいはプロンプトと呼ばれる事前設定を適切に行えば)GPTはブレインストーミングの相手にも、プログラマーにも、ゲームマスター(ゲームの進行役)にもなってくれます。

 このようなツールが存在することを前提として、子どもたちはどんな能力を身につけるべきなのか、改めて教育の中身を吟味する必要があるでしょう。

AIは勝手に仕事をしない

 これまで「正解のある問題」については将来AIが解くようになると考えられてきました。しかし、今般の技術革新を目の当たりにすると、実はそれ以上のこともAIに任せられるのではないかと思えてきます。

 GPTは平然と嘘をつきますが、勘違いや覚え間違いをしている人間も同じことをします。これは創造性の第一歩だと見ることもできます。実際、AIが描いた絵画があるコンクールで優勝したことが話題になりました※3し、AI artと呼ばれる新しいジャンルでたくさんのイラストや写実的な画像が発表されています。

 AIについての認識を改める必要がありそうです。正解のない問いを解けるのは人間だけだと考えていると、子どもたちが学ぶべきことを間違えるかもしれないのです。

 では、AIと人間の決定的な違いは一体何でしょうか? 現時点での生成系AIを見る限りでは、AIは自発的に意見を述べません。意見を述べようという意志も持っていません。

 これからの子どもたちが、人間だからこそ身につける能力がここから見えてきます。AIに何を命じるのか、何をしてもらいたいのか、が最も重要になるのです。それに加えて、そのしてもらいたいことを上手に伝える表現力も同じぐらい重要になります。IT関係者の間で「次世代の最強のプログラミング言語は英語(日本人の場合、日本語)」ということが真剣に言われています。

 本連載第4回ではこのような技術環境を「誰でも天才になれる!?」として紹介しましたが、その時代の到来は思っていたよりもずっと早いようです。誰でも天才になれる時代に備えた教育の中身を、実践レベルで考えていく必要があるようです。

※3 画像生成AI「Midjourney」の絵が米国の美術品評会で1位に 優勝者「物議を醸すことは分かっていた」 ITmedia NEWS 2022年9月1日

ミライノマナビ編集部

ミライノマナビ編集部

グローバル化&AI化が子供たちにとって明るい未来となってほしい。来るべき未来に対して教育は何ができるのか、子育て世代やこれから社会に出る若者たちみんなが考えるきっかけを提供していきます。

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