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大改革時代に向けて

2023.6.23

正解を見つけるのではなく「問い」を見つける探究をしよう
奈良県立国際中学校 校長 中尾雪路先生

中尾雪路 先生
奈良県立国際中学校・高等学校 校長
英語教諭。奈良県教育委員会事務局で国際中・高の企画段階から関わり、2020年度に国際高校初代校長。中高一貫での国際バカロレアプログラム認定校を目指す同校は自身にとって「ライフワーク」と話す。

奈良県立国際中学校・高等学校
https://www.e-net.nara.jp/hs/kokusai/
奈良市二名町1944番地12 TEL 0742-46-0017

 

これからのグローバル教育は英語だけではない

 本校は、奈良県の県立高校の適正化実施計画に基づいて開設されました。少子化が進行する中で、県立高校をただ再編・統合するだけでは公教育の縮小になるばかりです。そこで、再編にあたって、新しい時代に適応した学校を作ろうというのが適正化実施計画です。本校は、これからの時代のグローバル化に対応する学校というコンセプトで構想されました。

 その際に、これからのグローバル教育では英語ばかりやっていては不十分だとの判断から、国際バカロレア(以下、IB)教育を取り入れた学校を目指すことになりました。2020年の国際高校開校時より3年間の実践を積んだ上で、この春開校した中学校ではIBMYP(ミドル・イヤーズ・プログラム:中等教育課程)の候補校としてスタートすることができました。中学校の一期生が高校2年に進級する年には、DP(ディプロマ・プログラム:大学入学資格課程を導入することを検討しています。

 これによりMYPDPの一貫教育が実現すれば、奈良県では唯一のIB一貫校となります。IBは世界的に認められた優れた教育プログラムですが、実施にはかなりの予算が必要となります。だからこそ、学習者自身に負担をかけないよう、公教育で取り組むべきだと考えています。これは未来の社会を担う子どもたちに対する責任だと思います。

奈良登美ケ丘にある同校校舎

 

未来を創るのは子どもたち

 いつも生徒に言い聞かせているのは「大人に任せていても社会は変わらない。未来を創るのはあなたたち」ということです。IB教育はこれからの地球をみんなで支えること、一人ひとりが平和に貢献することを考え、実践するための学びです。

 基礎的な知識はもちろん重要ですが、従来のような知識の多寡で1点を競う学び方では、将来通用しなくなります。今後ますます高度化するAIに知識では勝てないからです。そこで、これからの社会で必要となる人間性を6つの力として、本校の「育てたい力と生徒像」に定めました。

 探究力、創造力、協働力、寛容さ、挑戦力、キャリアデザイン力の6つの力です。これらはAIが持っていない人間ならではの力で、どれだけAIが高度になっても人間らしく生きていくための力だと考えています。

 

グローバルな問題は身近なところにつながっている

 もちろん、旧来の教科だけで、これら6つの力を身につけるのは容易ではありません。本校では、高校で「グローバル探究」、中学で「グローバル探究基礎」という独自教科を設定しています。例えば、中1の「グローバル探究基礎」では、ボルネオ島の熱帯雨林が消失している問題に焦点を当てた総合的な学習に取り組みました。

 ボルネオ島では、パーム油のプランテーションがどんどん増えていて、それが熱帯雨林消失の原因となっています。そこで生産されるパーム油は、日本で食品や洗剤の原材料として使われています。一見、自分とは関係がないように思われる世界の問題が、実は自分たちの身近なところにつながっているのです。グローバルな問題は遠い世界の出来事ではなく、身近な問題なのだと認識することで「では、自分たちには何ができるか」と自分の問題として考えることができるようになります。

 まだ入学したばかりの中学1年生が、5月にこのテーマでポスターセッションを行い、それぞれが調べたこと、考えたことを発表しました。「まだ中1だから無理だろう」と大人が決めつけるのではなく、生徒を信じてやらせてみることで人間性の6つの力が大きく成長します。生徒が信頼に応えてくれた時の嬉しさは、まさに教師冥利に尽きる瞬間です。

中1生がポスターセッションに挑戦

 

海外大学へも広がる進路

 中学でMYPを導入し、高校でもIBの理念を取り入れた教育を行っている本校では、卒業後の進路として海外の大学も視野に入ります。今年度卒業を迎えた高校1期生は6名が海外の大学に合格しました。国際高校では、1年生から全生徒を対象として海外進学に向けたセミナーを開催します。さらに、希望する生徒には個別での進路相談も実施しています。

 留学を専門に扱う民間企業ISAと協定を結んでいて、海外の大学から奨学金付きのオファーもあります。そのほかにも、英語圏以外の大学も視野に入れて、本校独自の提携大学も増やしていく予定です。

 将来、海外の大学で講義を受けることも想定して、全員が高3までに英語検定準1級を目指します。まず中学校では1718人の少人数で4段階の習熟度別クラスを編成、ネイティブ教員に学ぶ機会も多くあります。高校でもネイティブ教員による少人数・習熟度別授業を実施するほか、「ディベート・ディスカッション」や「エッセイ・ライティング」などアウトプットの機会を多く設定しています。また、海外進学希望者向けには、EAPEnglish for Academic Purposes:大学講義受講のための英語)という高度な英語の授業を、高2で週2時間、高3では週6時間実施しています。

ハイレベルな英語を学ぶEAP

 IB教育に象徴されるような探究中心の教育は国内の大学からの評価も年々高まっています。協定関係にある大阪公立大学には、本校生徒が探究学習の発表などでも訪れていますが、その際に「まさしく大学が欲しい生徒」との高い評価を受けました。

 

色々なものの見方ができる受験生に

 受験生のいるご家庭では、様々な物事に対して色々な見方を広げて欲しいと思います。例えば、輸入された食品を食べて「美味しい」だけで終わるのではなく、どの国で生産されて、現地にはどのような問題があるのか、など1つのことから考えが広がるような会話をしてください。

 探究学習は「正解」を見つける学びではありません。「問い」を見つける学びです。すぐに点数にはなりませんし、見つかるまで遠回りになることもあるかもしれません。それでも生涯をかけて追求する「問い」を見つけることが、これからの時代に生きてくる学びなのです。

 

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