前回、私たちはChatGPTを教育分野でどう活用するかについて考察しました。その結果、人工知能(AI)は教育の新たなフロンティアを開く可能性があることが明らかになりました。今回はさらに一歩を踏み出し、ChatGPTを家庭での子供たちの教育にどのように役立てるかについて具体的に探求します。科学的な根拠に基づいて、ChatGPTの基本的な使用方法から具体的な教育活動の例、そして使用における注意点と制約までを詳しく説明します。AIが子供たちの学習をどのように支援し、その可能性を最大限に引き出すかを理解するためのガイドとして、ぜひご活用ください。
ChatGPTの基本的な使用方法とその教育への応用
ChatGPTは人間と同じように会話を行うAIで、子供たちがいつも話している言葉で質問をしたり、新しい情報を探求したりするのに役立ちます。Kungらの研究※1では、医学生が理解しやすいようにChatGPTが説明を提供することで、医学教育の助けになる可能性が示されています。これを鑑みると、子供が宿題をしていて困ったときや新しい事柄について学びたいとき、ChatGPTに質問をしたり、かみ砕いた説明を求めたり、詳しく聞いたり、するためのツールとしても使用できるでしょう。
ChatGPTを用いた具体的な教育活動の例
ChatGPTは、子供たちの創造性を高める具体的な教育活動にも活用できます。例えば、子供たちはChatGPTと一緒に物語を作成することができます。ストーリーの深掘りに使用したり、具体化を手伝ってもらったりすることもできます。全くアイディアが浮かばない場合は、ヒントを提示してもらい、そこから始めることもできます。これは、彼らの創造性を刺激し、書き取り能力を向上させるのに役立つでしょう。
また、ChatGPTは英会話学習のツールとしても活用できます。例えば、神田敏晶氏※2によれば、“Voice Control for ChatGPT”というChromeの拡張機能によって、ChatGPTと音声で対話することが可能になります。そして、「私の英会話の先生になってください。英語でこれから話しましょう。もしも私が英語で文法の間違いをおかしたら、日本語で指摘して正しい文法を学校の先生のように解説してください。」というプロンプトを入れることで、24時間無料でどんな話題でもつきあってくれる英会話の先生ができあがります。これにより、英語での会話練習が可能となり、スピーキング能力を向上させることができます。これは英語だけでなく他の言語でも同様のことが行えます。
AIを使って学びを深める
AIを使って学びを深めた著名な例は、日本の将棋界で活躍する藤井聡太氏でしょう。彼はディープラーニング※3系の将棋ソフトを研究に導入※4し、その結果、対局の序盤での形勢判断の精度が大幅に向上しました。この事例は、AIと人間の協働が新たな可能性を生み出すことを示しています。
ChatGPTもまた、ディープラーニングの技術を活用しているため、より精度の高い情報提供や、ユーザーの質問に対する適切な回答が可能です。これは、子供たちが学習を進める上で大いに役立つことでしょう。
また、ChatGPTはデータサイエンスの学習にも有用であり、未経験者でもChatGPTのアドバイスをもらいながら予測モデルを作成し、データサイエンスの大会で上位6.5%に入ることができたという事例も報告されています※5。これは、ChatGPTが学習者に対して具体的な手順を提供し、コードの意味やデータ分析の方法を説明することで、学習者が自己学習を進めるのに大いに役立つことを示しています。
ChatGPTの使用における注意点と制約
しかし、ChatGPTを教育ツールとして使用する際には、いくつかの注意点と制約があります。まず、ChatGPTはAIであり、人間の教師が持つ子供たちの感情を理解する能力や、個々の学習ニーズに対応する能力は持っていません。そして、ChatGPTはアメリカ合衆国で医師免許を取得するために必要な3つの標準化試験であるUSMLE examsへの合格レベルの知識を持っている※1ため、子供の宿題に直接回答することが可能です。考える力を養うためには、解答を求めるのではなく、考え方を聞くなどの指導を親がした方が良いかもしれません。
また、Malikの研究※6でも言及されていますが、ChatGPTは元となる大量のテキストデータから学習しているため、提供する情報が常に正確であるとは限らず、バイアスのあるコンテンツが含まれる可能性もあることを理解しておく必要があります。そのため、子供たちがChatGPTから得た情報を鵜呑みにするのではなく、批判的な思考を持つよう導くことが重要です。
このように、AIを正しく用いた学習は、子供たちが自分のペースで学び、自分自身の好奇心を追求するための新たな道を開く可能性があるのです。
※1 Kung, Tiffany H., et al. “Performance of ChatGPT on USMLE: Potential for AI-assisted Medical Education Using Large Language Models.” PLOS Digital Health, vol. 2, no. 2, Public Library of Science, Feb. 2023, p. e0000198.
https://doi.org/10.1371/journal.pdig.0000198
※2 Yahooニュース「ChatGPTで無料で学べる『英会話AI』の作り方」神田敏晶,24 Apr. 2023,
news.yahoo.co.jp/byline/kandatoshiaki/20230424-00346918, (Accessed 9 June 2023)
※3 ディープラーニングとは、深層学習とも呼ばれており、人間が自然に行うタスクをコンピュータに学習させる機械学習の手法のひとつ。ニューラルネットワークを多層に結合し表現・学習能力を高めた機械学習の手法であり、画像認識や音声認識などの分野で活用されています。
※4 デイリー新潮「藤井聡太を最強にした「ディープラーニング」ソフト パソコンまで自作」12 Sept. 2021,
www.dailyshincho.jp/article/2021/09121056/?all=1, (Accessed 9 June 2023)
※5 Zenn「chatGPTにアドバイスをもらったらデータサイエンスを知って1週間の友人がコンペで上位6.5%に入った話」 seiyakitazume, 26 May 2023,
https://zenn.dev/seiyakitazume/articles/bc11bbd020cdfe
※6 Malik Sallam. “ChatGPT Utility in Healthcare Education, Research, and Practice: Systematic Review on the Promising Perspectives and Valid Concerns.” Healthcare, vol. 11, no. 6, MDPI, Mar. 2023, p. 887.
https://doi.org/10.3390/healthcare11060887