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ミライノマナビコラム  ― そこが知りたい小学校英語

2024.4.5

第25回 主体性を伸ばす「書くこと」の学習

高橋 美由紀

高橋 美由紀

博士(地域研究)
愛知教育大学名誉教授
外国語教育メディア学会副会長・小学校英語教育研究部会代表
世界の研究者が関わった「TOEFL Primary」のテスト開発会議に参加し、制作に携わる。 全国の小学校での外国語活動の指導助言や調査・研究を行う。
主な著書『CLIL in Diverse Contexts 次期学習指導要領とCLILを活用した英語の授業づくり』(2020) 鳴海出版、『小学校授業づくりのポイント』(2015) ジアース教育新社、『新しい小学校英語科教育法』(2011) 協同出版

2024年度から新教科書が導入されました。第22回でもお伝えしたように「文字を読むこと、書くこと」の活動が増加しています。今回は児童の発信力を高め、主体的に取り組むことができる「書くこと」の学習について、採択率の高い2種類の新しい教科書を例にしてお話します。

 

学習指導要領における「書くこと」の目標

 学習指導要領では、小学校段階から5つの領域ごとに、「知識及び技能」と「思考力、判断力、表現力等」を一体的に育成する目標を設定しており、「書くこと」については、以下の2点が掲げられています。

ア 大文字、小文字を活字体で書くことができるようにする。また、語順を意識しながら音声で十分に慣れ親しんだ簡単な語句や基本的な表現を書き写すことができるようにする。
イ 自分のことや身近で簡単な事柄について,例文を参考に,音声で十分に慣れ親しんだ簡単な語句や基本的な表現を用いて書くことができるようにする。
(文部科学省,2018:81-82)

 中学年の外国語活動で、アルファベットの大文字・小文字を聞いて理解できることを踏まえて、高学年の外国語科では、(1)大文字・小文字を(4線上に)正しく書くことができる、(2)語順を意識しながら、語と語の区切りに注意して、音声で十分に慣れ親しんだ簡単な語句や基本的な表現を書き写すことができる、(3)例文を参考にして、その中の一部の語、あるいは一文を児童が表現したい内容に置き換えて、自分の考えを書き表すことができる能力を育成することが示されています。

 

新教科書で行う「書くこと」の言語活動

5年生の教科書

 5年生の教科書の最初のユニットには、

(1)「聞こえた名前のつづり〇で囲もう」、(2)正しい名前のつづりに〇を付けよう、(3)友達の名前のつづりを聞いて、キーボードの文字をおさえよう(図1)、(4)自分の名前を書いてから、声に出してつづりを読もう(Here We Go!5:18-19)、(5)名前のつづりをたずね合って、友達の名前を書こう(図2)。(NEW HORIZON Elementary5:10)

等が掲載されています。(1)(2)(3)は外国語活動の「文字を聞いて理解できる」活動で復習を行った後に、(4)(5)の書く活動へとつながっています。

図1 キーボードを使って、聞いて文字をおさえる活動(Here We Go!5)

図2 コミュニケーション活動を通して、文字を書く活動(NEW HORIZON Elementary5)

 次のユニットでは、友達の誕生日にほしいものなど聞いて、誕生日カードや誕生日カレンダーを作成する活動があり、(1)Spring, Summer, Fall, Winter、(2)友達の名前を書く活動(Here We Go!5:33)、(1)月、(2)日付け、(3)友達の名前を書く活動(NEW HORIZON Elementary5:22)等、自分や友だちの名前だけでなく、掲示物を作成することで、他者に伝えるために文字を書く活動ができます。

 

6年生の教科書

  中学校への円滑な接続が課題である6年生の教科書の最後のユニットには、

(1)例文の音声を聞いて読み、将来の夢を声に出しながら書こう。(例)I want to be an international businessperson. I want to work in Australia. (NEW HORIZON Elementary6:84)や、将来の夢を書いてから声に出して読もうI want to    .(Here We Go!6:79)、(例)I want to be a doctor. (表現例)(1)I’m good at singing. (2)I want to help people in Africa. (下線筆者)を参考にして、将来したいことをていねいに書こう(NEW HORIZON Elementary6:86)等があります。

 この活動では、語句や表現書き写すことによって、児童が英語の語順や文構造を理解することができます。その後、児童が本当に伝えたい文にするために、下線部を自分の伝えたい語彙や表現に置き換えて文を書く活動ができます。『絵辞典』から適切な語彙を選んだり、ネット等の辞書で調べたりすることで、児童が主体的に言語活動に取り組むことができます。

 次の図は、「将太の夢宣言をモデルにして、自分の『夢宣言(My Dream)』を書こう。」「書いた事がらについて、さらにくわしい発表をしよう。」(Here We Go!6:81)の活動です。(1)中学生が自分たちの学校生活の様子を紹介する内容を聞く、(2)児童が中学校で入りたい部活動やしたいことについて自分の考えをまとめた後に、「夢宣言(My Dream)」の活動を行います。

My Dream
I want to join the art club.
I’m good at drawing.
I want to be a designer.
I want to make cool T-shirts.

 ここで使用されているI want to~.は、既習の表現であり、また、join 、make 、drawing 、designer、cool T-shirts、art club等の語彙も既習です。したがって、これらの例文を参考にして、『絵辞典』等を使えば、自分の伝えたい「~したい」という気持ちを書き表すことが容易にできると思います。また、I’m good at~.も5年生で学習する表現ですから、このようにスパイラルに語彙や表現を活用することで、児童の発達段階に応じた反復学習が可能となります。

 

必要性と目的意識を感じられる言語活動を

 『小学校外国語活動・外国語研修ガイドブック』では、児童より一層言語(英語)の定着が期待できるのは、児童が「自分が伝えたいことを表現するためには、この言葉が使える」などと、必要性を感じながら当該言語材料を使用する時であると述べられています(文部科学省2017:83)。このことから、児童の「主体的に取り組む態度」や「例文を参考にして、自分の考えを書き表すことができる能力」を育成するためには、児童自身が目的意識を持ち、段階的に「書くこと」に慣れ親しむ言語活動を行うことが大切です。

 次回は、「書くこと」の言語学習として、小学校外国語科の授業について紹介します。

 

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