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ミライノマナビコラム  ― そこが知りたい小学校英語

2024.7.12

第26回 「書くこと」の言語学習 新教科書の授業実践例(1)

高橋 美由紀

高橋 美由紀

博士(地域研究)
愛知教育大学名誉教授
外国語教育メディア学会副会長・小学校英語教育研究部会代表
世界の研究者が関わった「TOEFL Primary」のテスト開発会議に参加し、制作に携わる。 全国の小学校での外国語活動の指導助言や調査・研究を行う。
主な著書『CLIL in Diverse Contexts 次期学習指導要領とCLILを活用した英語の授業づくり』(2020) 鳴海出版、『小学校授業づくりのポイント』(2015) ジアース教育新社、『新しい小学校英語科教育法』(2011) 協同出版

今年度から使用されている新教科書には、文字の指導については、Sounds and Letters やLet’s write and read 等の活動が導入されています。「知識・技能」の習得だけでなく、児童が「書きたい」「書いてみたい」と思うような動機づけができる教材や主体的な学びを促す授業づくりが求められています。実際にどのような授業が行われているのか、新教科書と鈴鹿市立神戸小学校 岡井崇教諭の授業を例に見ていきましょう。

活字体の大文字、小文字を書く活動の授業

 「書くこと」の言語学習として、(ア)文字の読み方が発音されるのを聞いて、活字体の大文字、小文字を書く活動は、「『書くこと』の指導事項のうち最も基本的なものであり、最終的には、児童が何も見ることなく自分の力で活字体の大文字、小文字を書くことができるように指導する必要がある」と示されています(文部科学省2018)。

 児童は3年生で「大文字」、4年生で「小文字」の文字の読み方を学習しています。これらの学習を踏まえて、5年生では「名前」のつづりをたずねて、文字を書く活動があります(第25回参照)。なお、書く活動では、(1)ワークシート等に文字を書く、(2)キーボードで文字を打つ等の活動があります。

 「書く」活動はとかく単調でドリル的な練習になってしまうと、児童の学習意欲も失われます。そのため「アルファベットBINGO」ゲームや、「名刺を作ろう」等、児童に何らかの書く目的を持たせることが大切です。

 5年生の教科書には「友達が喜んでくれるバースデイカードを作っておくりましょう」(『Blue Sky 5年生』p29)という活動があります。

(1)カードをおくる相手に、名前のスペリング、好み等の情報を集めます。
(2)集めた情報をもとに、カードを作成します。その時に、自分の名前と友達の名前を書く活動を行います。
(3)児童1:Here you are. 児童2:Thank you. の言語活動をしながら、友達に作成したカードを渡します。

バースデイカードをおくる『Blue Sky 5年生』(p29)

「相手に伝えるなどの目的をもって」書き写す言語活動

 相手意識を持って大文字と小文字の活字体を書く活動の次の段階では、簡単な語句を書き写す活動についてみてみましょう。この「書き写す」活動でも、機械的に書かせる指導ではなく、児童が意味を考えながら、目的をもって「書き写す」活動を行います。

 学習指導要領では、(イ)相手に伝えるなどの目的をもって、身近で簡単な事柄について、音声で十分に慣れ親しんだ簡単な語句を書き写す活動と示されています(文部科学省 2018:111)。

 岡井先生の6年生の授業『Here We Go!6』(Unit1)では、「自分が得意なことや興味のあること」について話されている表現を、5年生で学習した「I’m good at ~.」を使用して、表現に音声で十分に慣れ親しませてから、「相手に伝えるなどの目的をもって」書き写す活動を行っていました。

 児童は以下の順で、書く活動の学習を行っていました。

(1)例文で 「I’m good at running.」をなぞる。
(2)自分の得意なことを 「I’m good at」をなぞり、得意なことについては、下の「カードリスト」の中から選んで書き写す活動。

〈カードリスト〉
arts and craft / English/ math/ P.E./ science/ baseball/ soccer/ swimming/ kendama/ kendo/ cooking/ fishing/ playing the piano/ playing the recorder

三重県鈴鹿市立神戸小学校 岡井崇教諭の授業にて(2023年4月)

 書く活動は、英語が得意な児童と苦手な児童では個人差が大きく出てしまいます。そのため、一層の丁寧な指導が求められています(文部科学省 2018:110)。

 この授業では、(1)例文をなぞることで、I am → I’m のように短縮形を使用する時に「’(アポストロフィ)を使うこと、最初は大文字で始める、単語と単語の間隔の取り方等、文の書き方の基礎を学びます。

 次に、(2)I’m good atをなぞり、得意なことについては、〈カードリスト〉(絵辞典)から選んで書き写す活動を行います。ここで児童は相手意識を持って、自分の「得意な教科」や「得意なこと」を書き写すことができます。

 なお、〈カードリスト〉からだけでなく、リストに掲載されていない内容やもっと友だちに伝えたいと思った児童、とりわけ、英語が得意な児童は、I’m good at~.の文を、自分で考えて、「絵辞典」等を活用して書いていました。

絵辞典を活用して書く『Here We Go!6』(Picture Dictionary 絵辞典 p.3)

 加えて、学習者用デジタル教科書を活用することで、児童は自分で伝えたい内容(cooking, dancing等)のカードを選び、書き写す活動、書く活動をすることができます。デジタル教科書を活用することで、児童は何度も練習することができ、さらに、「うまく書けた!」ものを先生に送ります。

 クイズ形式にして、全員の児童が書いたものを見ながら、友達の「I’m good at ~. 得意なこと」について、「誰がどんなことが得意なのか?」を当てたり、自分と同じことが得意な友達を探したりする活動とすれば、「相手に伝えるなどの目的」を持って取り組ませることができるだけでなく、友達理解にもつながると思いました。

 次回は、「書くこと」の言語学習 新教科書の授業実践例(2)Today’s Goal 「自己紹介文をつくろう」をご紹介いたします。

引用文献
文部科学省(2018)『小学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説 外国語活動・外国語編』

 

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