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ミライノマナビコラム  ― 今、なぜロボット・プログラミング教育が必要なのか

2024.9.6

第24回 教員養成大学の新たな挑戦——大阪教育大学「みらい教育共創館」を訪問

福田 哲也

福田 哲也

追手門学院ロボット・プログラミング教育推進室 室長
教科は理科。前職の奈良教育大学附属中学校ではじめたロボット・サイエンス教育を、追手門学院大手前中学校で正規の授業として取り入れた。ロボット・サイエンス部の顧問として、多くの世界大会への出場、入賞を果たしている。2度の文部科学大臣賞を受賞。
日本のロボット教育の普及・啓発を目指して、ロボット教育のカリキュラム監修や出張講義などにも取り組む。

近年、教育課題の高度化や教員のなり手不足の問題もあり、教員の育成および確保が急務になっています。2024年春、教員養成のフラッグシップ大学として大阪教育大学は、天王寺キャンパスに「みらい教育共創館」をオープンしました。1階から5階までが大学施設、5階には企業やNPO法人が入居し、6階から10階は大阪市教育委員会の施設となっています。産官学の共同研究など、多様な主体が連携して日本の教育の未来を変える取り組みが進められています。今回は、入居する理科教材メーカー ケニス株式会社のみらい科学教育創造センター長ガン・アンドリュー氏にインタビューを行い、この施設の特徴と今後の教育のあり方についてお話を伺いました。

 

みらい科学教育創造センター長に「みらい教育共創館」についてきいてみた

ケニス株式会社 みらい科学教育創造センター長
ガン・アンドリュー氏(47歳)


シンガポール出身。シンガポール国立大学から東京海洋大学・大学院へ進学し、魚の免疫システムの研究を行う。卒業後、日本の企業に就職し、現在、理科教材メーカーのケニスにて理科教材開発、教育プロジェクトの研究・企画を行いながら、8人の研究員の指導にあたる。

 

Q1 センター長の仕事について教えてください

 ロボット教育やプログラミング教育に興味を持ち、その研究の中で、教科横断的な学習、つまりSTEAM教育の重要性を認識しました。科学教育に有効な教材開発を行ったり、大学の先生方と連携して様々なプロジェクトに取り組んだりする中で、もっと日本の教育に提案できることがあるのではないかと考え、「みらい教育共創館」のオープンラボの公募に手を挙げ、当センターを立ち上げました。 現在の理科教育の課題を解決し、STEAM教育の推進に貢献することを目標にしています。普段、企業の方や大学の先生方と話すことが多く、お互いの強みを共有しながら、デジタル教材やオンライン教育システムの開発を行っています。当センターでは、教材開発だけでなく、授業デザインを提案し、現場での活用の様子も実感でき、楽しいかぎりです。

Q2 「みらい教育共創館」について教えてください

 この施設には、ケニスだけでなく、5つの企業のラボが入っています。大学の施設の中に企業のラボが入っているのは珍しいことです。例えば、NTT ExCパートナーはICT活用教育、レノボはメタバースや不登校の学習支援など、教育に関連する研究を行っています。上階には教育委員会があり、先生方と情報交換する機会も多く、教育現場のニーズを常に把握できます。時間のロスもなく、対面で話ができることは大きいです。また、毎週末、情報教育のシンポジウムやロボットコンテストの説明会など、様々な講演会や教育イベントが開催されており、教育の最前線に触れることができます。教育の課題と展望を考えると、課題ばかりがクローズアップされがちですが、学生にとっては希望や展望を感じる場所になると思います。将来的には、先生方だけでなく、学生たちともコラボしていきたいと考えています。

プレゼンテーションコート:毎週のように研修や講演会が開催

 

5つの企業やNPOの研究センター:産学官連携拠点フロア

 

Q3 日本の教育についてご意見をお聞かせください

 日本では受け身の姿勢の学生が多いように感じます。もっと主体的に行動し、自立することを意識してほしいです。世界的な視野で考えると、0から1を生み出す創造的な教育が求められています。そのためにも、科学教育は重要です。シンガポールでは、学校だけでなく、科学館も大きな教育的役割を果たしており、STEAM教育が進んでいる要因の1つです。日本には熱心な先生方が多いので、企業の立場から少しでもお役に立てるよう、科学教育や環境教育に関する様々なプロジェクトに挑戦していきたいと思います。

 

「みらい教育共創館」から教育を考える

 インタビューを通して、大学の施設に企業や教育委員会を取り込むことで、「大学教員+大学生」に「企業+学校教員+教育行政」が加わり、新たな化学変化を生み、教育研究をより加速させることができると感じました。「みらい教育共創館」の設立意義はここにあるのではないでしょうか。また、日頃、大学で教鞭を執る中で、教職を目指す学生から次のような声を耳にします。「教員になるために、たくさんの教職科目をとっているが、学校で教える先生の話をもっと聴きたい」「日頃の大学の授業は原理原則が多く、教育の意義を感じることが少ない」と。教職を目指す大学生が、先駆的な教育実践やそれを遂行する教員との接点を持つことで、単なる「教員免許の取得」にとどまらず「教職の意義」を知る機会に繋がると考えます。本館の存在は大学の教員養成の新たな方向性を示しており、教員不足が深刻化する中、その解決の起爆剤になることでしょう。

 「立場や世代の違う人と話をすると、自分が思いもつかなかった考えやアイデアと出会うんですね。ここでは、学ぶことがいっぱいです」と語るアンドリュー氏の笑顔が印象的でした。教育とは、子どもたちの成長を促すことが目的であり、本来、楽しいものであることを改めて認識する機会となりました。産学官の連携が日本の教育再生の鍵であると考えます。

 

【大阪教育大学「みらい教育共創館」】
https://mirai.osaka-kyoiku.ac.jp/

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