激しい時代の変化を背景に、教育の役割も大きく変わっていく。このコーナーでは「明治以来の大改革」と言われる教育大改革時代に、リーダーたちの指針や抱負をお聞きし、変化への心構えを考えます。今回は西京高等学校・附属中学校の岩佐峰之校長。京都大学・特色入試への合格をはじめ生徒を伸ばし続ける考え方をお聞きしました。
10年に一度の見直し
本校はエンタープライジング科創設から22年目、附属中学校21期生を迎えました。中高は10年ごとに新しい方針を打ち立てるのが良いと考えています。学習指導要領が改訂されるのもこの周期です。そこで第3ステージ(21年目~30年目)の教育方針として「CReDi」を掲げました。
CReDiとは、Creativity、Responsibility、Diversityの頭文字です。Creativityは誰かの真似をするのではなく、自分たちで作ること、またはその活動のことです。
Responsibilityは、中高生にとっては「当事者意識を持つ」ことにあたります。模範解答を持ってきて「〇〇だと思います」と表面をなぞるだけでは本当の学びになりません。学習者本人が本当にそう思っているかどうかが大切だからです。
Diversityは、これからのグローバル社会の必然である多様性です。自分と異なる価値観を許容して、共に生きていく力を育んでほしいと考えています。
学校生活やさまざまな活動で、このCReDi度を意識するようにしています。活動内容によってそれぞれ違いはありますが、それぞれの活動での「C」「Re」「Di」を生徒に考えてもらいます。例えば「それ、本当にCreative?」「本当にそう思ってる?」と質問して、考えを深めてもらいます。
西京が考える「グローバルリーダー」
本校は「エンタープライジングなグローバルリーダー」の育成を掲げています。その人物像は、先ほど述べたDiversityを身につけて、さまざまな場面に当てはめてシミュレーションできる人物です。
世界を舞台に活躍するだけがグローバルリーダーではありません。京都の中だけでも、いろいろな国や文化の人たちが暮らしています。本校の中にもいろいろな考え方の生徒がいます。
自分一人の価値観だけでは、大人でも思い込みで結論を出してしまう場合があります。そのため、探究活動ではグループワークを多く行い、わずか4、5人でも価値観に違いがあることを実感します。その違いをぶつけ合って、新しい価値観を見出してほしいと考えています。
中高時代に、一人では思いもつかない異なる視点や正しい情報に辿り着くことはとても意義のあることです。今後も協働での学びの機会を増やしていきます。
学校は「おもしろおかしく」
私は以前から「学校とはおもちゃ箱のようなものであってほしい」と考えています。中高生の年頃では、やりたいことが何なのか分からない、という生徒も少なくありません。人が「やりたいこと」と出会うのは多くの場合偶然です。多種多様な「おもちゃ」を学習環境の中に一つ一つ置いておくことで、ある「おもちゃ」をたまたま手に取る可能性が生まれ、それで遊んでみることで興味が広がって、次の学びへとつながっていきます。探究学習も好きなことを見つける活動の一つです。
自分のやりたいことを見つけた生徒は、力強く伸びます。華道部がなかった本校で、華道をしたいと同好会を立ち上げた生徒は、3年間で10人以上の仲間を集めて、2020年の花の甲子園で全国優勝しました。科学の甲子園に挑戦したいと各分野に秀でた同級生を集めて、いわば「西京ドリームチーム」を結成した生徒も京都府予選を1位で通過しました。
この姿勢は大学進学にもつながります。やりたいことが見つかった生徒は「今、するべきことは何か」「今、できることは何か」を考えるようになり、探究学習を大学での学びの準備と捉えるようになります。その結果が、京都大学・特色選抜8名合格(全国1位)を含めた京都大学50名合格(現役生41)として表れました。
「何となく大学進学」とか「偏差値が届くからこの大学」といった大学選びではなく「やりたいことを実現できる大学」に、困難でも敢えて挑戦する生徒が増えたと感じています。
AIへの対応は規制ではなく評価方法
本校はICT活用に20年以上前から取り組んで来ました。このおかげで、2020年の新型コロナウイルスによる突然の休校に際して、オンライン授業への移行がスムーズにできました。
近年、注目されているAIについても、「とりあえず使ってみよう」というスタンスでどんどん進めています。京都大学の緒方広明教授と協力して、内閣府のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)の実証校として、教育へのAI活用の最先端に参加しています。
ツールは日進月歩で進歩するので、使わない手はありません。また、それに合わせて教育も変わる必要があります。例えば、成果物の評価方法について、従来のように出来上がった作品だけを見て評価するのでは、適切な評価ができなくなります。計画から作品完成までのプロセスを評価するなどの変化が必要です。
本校では、入学試験で単なる暗記知識——例えば漢字の書き——は出題しないようになりました。大学入試でも単なる知識について問われる出題は減少する傾向にあります。
ただし、ICTやAIはあくまでも「ツール」です。知識が簡単に入手できるようになった分、それをどう活用するのか、何が本当にやりたいことなのか、がより重要になります。学びにおいて、自分で問題意識や課題意識を持てるかどうかが、今後さらに問われるようになります。
私は「スマートフォンから知識を得るのも良いけれど、本と出会いなさい」と生徒によく話します。ネットの記事もネット書店も、それまでの自分の興味から大きく外れないものが提案されます。それはそれで便利なのですが、新たな世界を開く「余白」がありません。多感な中高生時代には、すぐには役に立たないかもしれないものと出会う「余白」が必要なのです。
リアルの書店で、ぶらぶらと見てまわりながら、新たな本と出会うことも、そういう「余白」の一つだと思います。
子どもの本当の幸せ
保護者の皆さんは、日々、我が子の幸せを願っていることと思います。ただ、何が本当の幸せなのかは、世代によって価値観が異なります。保護者の方の「当たり前」が、子どもたちにとってはそうではないかもしれません。自分の価値観だけで判断せずに、子どもの考えに耳を傾けてください。
10代の子どもたちは、ちょっとぐらい失敗しても簡単に挽回できます。目先の志望校に合格することだけが本当の幸せではありません。入学後に、学校生活を面白く、楽しく過ごせるかどうかの方がずっと重要なのです。勉強が合格のためだけのものになっているとすれば、それはあまり意味のある勉強とは言えないかもしれません。