生成AIが産業界や社会生活において急速に普及する中、学校教育現場における「生成AI」の適切な利活用を支援するためのガイドラインとして、2024年12月26日、文部科学省は、『初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン(以下ガイドライン)』を公表しました。これは、2023年7月に公表された『初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン』の改訂版で、学校現場において生成AIを利活用する際の基本的な考え方や具体的な利活用場面等が示されています。
学習指導要領が想定する生成AIの利活用
文部科学省は、現学習指導要領改訂にあたり人工知能(AI)の飛躍的な進化について、「人工知能が自ら知識を概念的に理解し、思考し始めているとも言われ、雇用の在り方や学校において獲得する知識の意味にも大きな変化をもたらすのではないかとの予測も示されている。このことは同時に、人工知能がどれだけ進化し思考できるようになったとしても、その思考の目的を与えたり、目的のよさ・ 正しさ・美しさを判断したりできるのは人間の最も大きな強みであるということの再認識につながっている」と言及しています。(【総則編】小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 文部科学省 2017: 1)。
ガイドラインでは、これからの時代に必要な「資質・能力の育成に向けた生成 AI の利活用」について示されて、「情報を主体的に捉え、活用すること、情報技術を学習や日常生活に活用できるようにすることの重要性」及び「各学校においては、教科等横断的な視点からの教育課程の編成を通じて、各教科等の学習の過程における指導の中で情報活用能力を育成することが期待される。」と言及されています(文部科学省 2024:8)。
小学校英語教育でも役立つ生成AI
生成AIの利活用について、ガイドラインでは、「学習場面において利活用が考えられる例(利活用が考えられる例)」として、「英会話の相手として活用したり、より自然な英語表現への改善や一人一人の興味関心に応じた単語リストや例文リストの作成に活用したりする」が中学校の事例とともに挙げられています。
この利活用だけでなく、「教科書等の内容を児童生徒それぞれの進度に合わせて理解するために、解説やイメージを出力し、より内容に対する深い理解を生み出す助けとする」(文部科学省 2024:18)ことについても小学校英語教育では活用できると思われます。
実際に生成AIを利活用した授業
令和6年12月25日中教審では「次期学習指導要領改訂」に向けて、生成AIにおける外国語教育については、「小学校高学年の外国語科を導入する等、小学校から高等学校まで大幅に充実がなされた中、生成AIの活用を含め、今後の在り方をどのように考えるか。また、手軽に質の高い翻訳も可能となる中、外国語を学ぶ意義をどのように考えるか。」について検討することが求められました(【資料5-1】初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について(諮問))。
小学校外国語科のAI利活用の事例として、2023年・2024年度において筆者が指導でかかわっている岐阜県公立小学校6年生の「Unit 8 My Future, My Dream」(東京書籍『NEW HPRIZON Elementary』pp.86-87)のYour Plan「将来の夢について発表しよう」の授業を紹介します。
「発表」については、児童が「どのように発表したらよいのか」を理解するために、デジタル教科書の「Goal」を視聴して、発表のイメージを持つことができました。次に「発表原稿」作成に取り掛かりました。
学習指導要領の「書くこと」の言語活動には、「(エ)相手に伝えるなどの目的をもって、自分に関する簡単な事柄について、音声で十分に慣れ親しんだ簡単な語句や基本的な表現を用いた例の中から言葉を選んで書く活動」の事項が示され、「「書く」とは、例となる文を見ながら、自分の考えや気持ちを表現するために、例となる文の一部を別の語に替えて書くことである。」と解説されています。
児童は、中学校で入りたい部活動や将来の夢について、教科書の例文を参考にしながら、自分自身のことを発表するために、例となる文の一部の表現や語彙を別の語彙に替えて書くことを行いました(図1)。

(図1) 児童のワークシート
例となる文の一部の表現や語彙を別の語彙に替える時に、教科書とPicture Dictionary に載っている「部活動」や「職業」だけでなく、「レスリングの部活に入って、機械科に入る。そして、トヨタ自動車の上の存在になる!」「テニス部に入って、サラリーマンになりたい。」「私の夢は音楽の仕事をすること」「演劇部に入って声優になりたい。」「ハンドボール部に入りたい。理学療法士になりたい。」「人の役に立つ人になりたい。」「世界中のアニメを観たい」(全て原文のまま)等、一人一人の児童の夢は多岐に渡っていました。
そのため、教師が「google 翻訳等」のアプリを活用することを促しました。児童は、自分の夢で使う「語彙」を調べ、ワークシートに「I want to join ~.」「I want to be a(an) ~.」を書き写し、「~」のところは、調べた語彙を書きました。そして、最終の発表に向けて「My Phrase」の原稿を準備しました。
中学校生活については、(1) I want to join . (入りたい部活動)、(2) I want to enjoy .(楽しみたい行事)、将来の夢としては、(3) I’m good at . (得意なこと)、(4) I want to be .(なりたい職業)、さらに(5) (付け加えの文) を書くことにも挑戦しました。
(A)さんの原稿
(1) I want to join the Kendo team.
(2) I want to enjoy the school trip.
(3) I’m good at taking notes. (付け加え文)It was very fun.
(4) I want to be a TV staff.
(B)さんの原稿
(1) I want to join the basketball team. (付け加え文)I want to be a pitcher.
(2) I want to enjoy entrance ceremony.
(3) I’m good at playing baseball.
(4) I want to be a public servant. (付け加え文)I want to have a lot of money.
(C)さんの原稿
(1) I want to join the tennis team.
(2) I want to enjoy Sports day.
(3) I’m good at eating.
(4) I want to be a beautician. (付け加え文)I want to study at a vocational school.
ここでは、ガイドラインの「学習場面において利活用が考えられる例」として挙げられている「一人一人の興味関心に応じた単語リストや例文リストの作成に活用する」ことができたと思いました。
一方、教師は、生成AIにより児童が選んだ語彙を使って書いた文章に対して、一人一人丁寧にワークシートを見て、「この語彙はこの場合には相応しくないよ。」「get よりもhave の方が適しているよ。」「この語彙の方が自然だね。」等の細かなニュアンスや場面ごとの使い分けについては、児童とコミュニケーションを図りながら、表現や語彙の提案をしました。また、“It was very fun.” “I want to be a pitcher.” 等の「付け加え文」は、「どんな気持ちだった?」「どうしてそう思ったの?」等、教師が児童の思考を深めるための問いかけを行ったから児童が「付け加え文を書こう」という気持ちになったと思いました。
小学校外国語科における教師の役割は、生成AIの学習のファシリテーターだけではありません。
人間である教師は、生成AIではできない、児童とコミュニケーションを図りながら的確な表現や語彙の選択等を行うことや、児童の気持ちやモチベーションに寄り添った指導ができると思いました。
参考:文部科学省 初等中等教育局(令和6年 12 月 26 日)
初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン