近年の先進的な取り組みで、メルボルン大学(THE世界大学ランキング32位)などの世界トップクラスの大学に卒業生を進学させたことで話題となった箕面高等学校。どのような取り組みが奏功したのか、国際グループ長の後藤大介先生にお話を聞いた。
普段の成績が大切だと入学直後に伝える
「特別に海外大学への進学指導をしているわけではありません。」
後藤先生の言葉は期待はずれのものだった。実際に海外大学への進学実績は急伸しているのだ。何らかの秘訣があったに違いないと予想していた。しかし、続いて後藤先生はこうも話してくれた。
「学校としては『行きたかったら行ってね』というスタンスですが、もちろん、必要なものはサポートします。その一つとして、必要な情報を説明会などで伝えています。特に重要なのは、最低限の普段の成績は絶対に必要だということです。」
海外大学が入学者を選抜する際、GPAと呼ばれる普段の成績(日本でいう評定平均)が重視される。英語力があれば良いというものではないのだ。この事実を3年生になってから教えられても、手遅れになってしまう生徒もいることだろう。そのため、1年生4月の説明会で伝えている。
さらに、多くの卒業生が進学しているメルボルン大学、クイーンズランド大学をはじめオーストリアのGroup of 8(オーストラリアのトップ8大学)が同校で合同説明会を開催し、その場で出願もできるという。これは他校にはない大きなアドバンテージだろう。
従来の授業とは一線を画する形式
合同説明会は大きなアドバンテージだ。しかし、そもそも最初にメルボルン大学への実績が出なければこの説明会も実現しなかった。最初の突破口はどうやって開いたのだろう。
「本校には国際教養科(現:グローバル科)があり、もともと英語や海外に興味のある生徒が多く入学していました。ただ、海外大学への進学は現実味がないと考える生徒が多かった。実績が急伸し始めたのはSET(Super English Teacher)の赴任がきっかけでした。」
SETとは、英語4技能の能力を英語圏の大学に就学できるレベルまで高める教育を担う教員のことだ。2015年に同校に着任したSETは、それまでTOEFL対策講座として行われていた土曜講座を一変させ、新しい授業の進め方を導入した。その授業で学んだ生徒たちは、2016年に海外大学へ述べ36名合格する。一体、何が起きたのだろうか。
「基礎的なところでは、ノートテイキングという情報をまとめるスキルやTチャートなどのチャートを描いて比較するなどの考えるスキルを学びます。従来の日本の授業では、ノートの取り方を教わらないので、教師の言うことを一言一句メモするという生徒も少なくないと思います。」
「思考力」についても同様だ。考えるスキルを教わらない従来の日本の教育方法のまま「考えなさい」と急に言われても、できる生徒は一部だろう。数学で帰納法などの論理を学ぶが、それを言葉でも使えると理解できる生徒は少ない。そのように教えられないからだ。
「積極的に自分の考えを伝えようとする姿勢、それができる環境も重要です。海外では、ペーパーだけができても良い成績になりません。たとえ間違えても意見を発言することが評価されます。一方で、日本人は当てられたら嫌だ、間違ったら恥ずかしい、という意識があります。そのハードルを学校全体で下げるよう努めてきました。それこそが21世紀型学習の前提だと考えたからです。積極性を評価する環境が整わないとアクティブラーニングもうまくいきません。」
土曜講座の中身も「従来の授業とは一線を画する形式」へと変わったという。
「プロジェクトベースの学びへと変わりました。例えば、倫理のプロジェクトでは、自動車の運転中、前方で荷物が落ちた、右にはSUV、左にはバイク、そのまま突っ込むと荷物と衝突という状況で、あなたならどう判断しますか、あるいは、自動運転車はどうプログラムしますか、というような問いをチームで話し合います。正解のない問題に、自分たちなりの答えを見つける授業です。」
誰でも自ら走る力を秘めている
確かにこの授業で「思考力」は伸びるだろう。しかし、それだけでオーストラリアのトップ大学に合格するほどまでに生徒が伸びるものだろうか。その疑問に対しては次のような答えが返ってきた。
「教え込むのではなく、自ら学びたいと思わせる授業を心がけています。正解のない問いに取り組む授業では、生徒は誰も寝たりしません。生徒たちも『これを調べたら面白いな。後で発表ができるな』と思うようになり、自ら走り出します。」
他にも普通教室の後ろ側の壁一面がホワイトボードになっていて、授業中いつでも「さあ意見を書いていこう」という使い方ができる。アイデアや意見をみんなで共有しながら正解のない問いへの答えを組み立てていく。他人の意見をどんどん取り入れて活用するという考えるスキルが身についていく。
「個人の意見を出し合う場ではペアワークを取り入れます。個人→ペア→クラスを繰り返すと、自らの意見を発表することに自信がつくからです。個人からいきなりクラス発表だと尻込みしてしまいがちですが、ペアで相手に評価された意見は自信を持ってクラスに発表することができるのです。」
ここまで聞くと、海外大学への実績急伸も頷ける。21世紀型の教育に率先して取り組み、それまで文字通り眠っていた生徒たちの学ぶ意欲を目覚めさせたのだ。興味を持てば誰でも優秀な学習者になれる。
最後に、海外大学進学に際してのアドバイスをたずねた。
「海外進学は大きな決断。責任も伴います。人任せではなく自分で決断して行動してください。学校はサポートはできますが、主体はあくまでも生徒自身。あらゆる情報を自分で探して活用できるぐらいでないと、海外大学に行っても無駄に終わりかねません。海外大学に挑戦する過程それ自体も、主体的に行動する力を伸ばしてくれるいい機会になると思います。日々自分の成長を楽しんでください。」