次期指導要領の背後にあるもの
学習指導要領が大学入試も含めて大きく変わります。学習指導要領はカリキュラムの基になる方向性・規定なので、私立中・高の学習のあり方も大きく変わるでしょう。ただし、表面的に文言の変化に合わせるだけでは意味がありません。変化の背後にあるものを見据えた上で、本質をとらえた実践を行うことが重要です。
私たちの社会に今後訪れる変化を表す言葉に「Society5.0」という考え方があります。人類はこれまで、狩猟社会(Society1.0)、農耕社会(2.0)、工業社会(3.0)、情報社会(4.0)と社会を大きく変えてきました。Society5.0は、現実(フィジカル)空間と仮想(サイバー)空間とが高度に融合した社会です。政府の科学技術基本計画の目指すべき未来社会とされています。
今回の指導要領改訂も、単なる授業形式や評価方法の変更として表面だけを見るのではなく、このような変化の中で、人々がより幸せで豊かな生活を送れる社会を作る、そのための教育改革という視点で考える必要があります。
2020年に創立80年を迎える本校でも、建学の精神を現代風にアレンジした「グローバルマインドを持った次世代のリーダーを育てる(Developing Future Leaders With A Global Mindset)」をスクールミッションとして掲げ、その実現を全校挙げて目指しています。建学時の「国や社会に貢献する」という目標を、同じベクトルのまま大きく広げて「グローバルマインド」すなわち地球規模での貢献まで考えられる生徒を育てたいと考えたのです。
スマート社会だからこそ回り道を
Society5.0では、様々な面でAIが活用され、人々の生活は一層スマートになっていくでしょう。そのような社会では、クイズの答えのような単なる知識の価値は大きく下がっていきます。インターネットで調べれば単なる知識はいくらでも得られるからです。
中等教育に求められるものも当然変わっていきます。従来は、基本的な知識・技能を身につけることが、中等教育の重要な役割でした。これからは、中等教育の6年間で、様々な問題・課題に向き合い、実験や調査をしながら、時には壁にぶつかりそれを乗り越えていく、という長いスパンでの学習が重要になります。
スマートな社会の中で、学校をあえて回り道や苦労を経験する場とするのには理由があります。それは「本物」と出会い、本物の学びの成果を得ることは、決してスマートにはできないからです。
本校では、SSH・SGHの取り組み、同一法人下にある大阪医科大学・大阪薬科大学との強固な高大連携の学び、スタンフォード大学と連携して行うインターネットを介してのライブでのオンライン講座、英・米のトップ大学での海外研修など、本物と出会う機会をいくつも設けています。SGHの取り組みでは、世界的な第一人者の研究者にも生徒の発表を聞いてもらい、時に手厳しい批評をしてもらいます。国際医療の専門書『グローバルヘルス101』の翻訳に参加した生徒もいました。わざわざしなくてもいい「しんどい目」に挑戦することで、生徒は本物の気づき、本物の成果を手にすることができるのです。
大阪医科大学での「基礎医学講座」
オンライン英会話で会話時間が10倍に
これからの日本のあり方を考えた時、大学入試改革が目指している、記述力や思考力を問い、英語の四技能を測る、という方向はあるべき姿だと思います。
ただ、それらの力は「こうやれば身につく」という近道のあるものではなく、6年間、それぞれの分野で探究的な学びやアクティブ・ラーニング等の手法を取り入れることで育っていくものと考えています。
本校では、高校生になると英語で発表をする機会が増えるため、その基礎を中学段階で身につけます。週8時間の英語の授業のうち、中3では2時間、オンライン英会話を導入しました。
英会話を講義形式で行うと、20人の少人数クラスでも、50分の授業で一人あたり2分半しか会話できません。オンライン英会話では、50分のうち25分を一対一の会話にあてられます。わずか2週間で100分――講義形式1年分の会話量がこなせます。
これだけ話すと、高校生になるころには、外国人講師による英語での各種セミナーもある程度自信を持って受講できるようになり、その場で英語で質問を返せるほどの力がつくのです。
時代の先を見据えた学校選びを
ペーパーテストさえがんばっていればある程度未来が見とおせる、という時代ではなくなりました。また、今後の日本を発展させようと思えば、世界の人々と関わり合いを持ち、多様性を受け入れなければならない時代になってきています。
保護者の皆さんには、時代の先を見据えた教育・学校選びが大切になってきます。新しい教育がカリキュラムにうまく組み込まれていて、その中で知らず知らずのうちに思考力や表現力が身についていくような学校が理想だと思います。
2020年に完成する新校舎
とはいえ、不安になる必要はありません。黒船が来襲して攻め込まれるという話ではないのです。この変化は世の中を良い方向へ進めてくれるでしょう。一昔前は、色々な国、文化の人々と直接触れ合い、ともに生きるというのは、一部のエリートだけが享受できたことでしたが、本校ではそうした機会を持つことができます。子供たちには新しい多様性に満ちた世界を楽しんでほしいと思います。
私の未来年表 工藤剛
未来への抱負 | 教育・社会の変革 | 現小6 | |
2018年〜 | スクールミッションの実現を目指す | 12歳 | |
2020年代後半 | デジタル教科書の完全普及 | ||
2030年代 | 国境を超えた中等教育の相互乗り入れが実現 | ||
2032年 | ミッション策定20年。卒業生が様々な分野で日本をリードする | 26歳 | |
2040年代 | 超スマート社会の到来と共に「学校」の枠組みが大きく変容 | ||
2042年 | ミッション策定30年。卒業生が国連などさまざまな国際機関の中枢で中心的に活躍 | 36歳 |