グローバル時代に通用する力
私たちは今、グローバル化の進展が著しい時代に生きています。多くの企業で、インターネットの回線を使って、複数の国をリアルタイムにつないで協働することが当たり前に行われています。私にとっても、外国出身者が多いYMCAのスタッフと文化や価値観の壁を超えてともに働くのは日常的なことです。
そのような環境で重要なのは、クイズの解答のような知識をどれぐらい持っているかではありません。社会的な経験をたくさん積み、きちんと自己管理ができ、興味を持ったことを積極的にリサーチする行動力、こういった力が身についていなければ、これからのグローバル社会で活躍するのは厳しいと感じています。
教師が黒板に知識を書き、それを一方的に聞くだけの授業では、グローバル時代に生きる力はなかなか伸びません。私たちが目指す教育スタイルは、教師はファシリテーターとなり、生徒は自分たちで学んでいきます。「みつける、つなげる、つくっていく」というコンセプトの下、全ての課外活動をプロジェクト学習の一環と捉えて、生徒の主体的な学習を奨励します。そうして将来、世界に出て行った時に、堂々と自分の意見を主張できる人に育てたいと考えています。
国際バカロレアで5つのスキルを身につける
YMCAは創設時より、社会で生きる力を大切にしてきました。私たちが教育においてずっと大切にしてきたことを国際バカロレア(IB)の教育プログラムはより明確に実践します。水都国際が5つのスキルと呼んで重視する「思考スキル」「コミュニケーションスキル」「社会性スキル」「自己管理スキル」「リサーチスキル」は、IBがまさに目指すものでもあります。
IBでは「TOK(Theory Of Knowledge:知の理論)」「EE(Extended Essay:課題論文)」などをコア科目として、アクティブラーニングやPBL(Project Based Learning)などの課題探究型授業が展開されます。これらは正解を学ぶだけの授業とは大きく異なります。これらの学びを通して、実社会の課題に立ち向かえる人、未知の課題に取り組んでいける人を育てます。
正式認定予定の2020年、高校2年からの国際バカロレアコースで、IBDP(ディプロマプログラム:大学入学準備課程)導入を予定しています。他のコース在籍者も、IB科目を選択できます。学年の全員がIB科目を履修できるのは全国的にも珍しい取り組みです。それだけではなく、文系(グローバルコミュニケーションコース)と理系(グローバルサイエンスコース)との垣根を無くし、時間割さえ重複しなければ、生徒個々の希望に応じて履修科目を選ぶことができます。また、どのコースでも、IBの英語及びコア科目は必須となります。
グローバル時代のツールとして欠かせない英語にも力を入れていきます。英語以外の科目を英語で受講する「イマージョン授業」を含め、週に14~15時間、英語で授業を受けます。ただ、英語は求めるスキルではなく、あくまでもツール・手段と考えています。たとえ入学時に苦手であっても、必要なレベルまで引き上げる授業を用意しています。
施設面でも先進的な学びをバックアップ
水都国際の校舎は旧南港渚小学校・南港緑小学校跡地に立地します。今春、既存棟の改築が完成し、2022年4月竣工予定で増築棟の工事が進められています。探究型の学習に取り組みやすいように、図書室はデジタルリソースも豊富に揃え、プレゼンテーションスタジオを併設します。多くの教室にはホワイトボードウォールと電子黒板・プロジェクターが設置されます。コンピュータ教室もありますが、校内には無線LANが整備され、ノートパソコンやタブレットを開けば、どこでもコンピュータ教室のような環境になります。
さらに、公設民営の手法による民間ノウハウを生かして、YMCAの外国人教員やスタッフ、世界のYMCAのネットワーク、キャンプ場などの施設も必要に応じて活用していくことになります。私たち大阪YMCAが運営を引き受けたからには、出し惜しみせず、全力を挙げて水都国際の教育を充実させたいと考えています。
10年後、20年後に必要な力が大学入試にも役立つ
保護者の皆さんは、当然一期生の進路に注目されることと思います。私たちとしても、できる限り応えたいと思っていますが、教育は大学入試のためだけにするものではありません。今、日本の教育は転換期にあります。社会も大きく変わり、大学入試も変わっていくでしょう。そのような時期に、ペーパーテストで良い点を取る教育にこだわっていて大丈夫なのか、今一度考えて欲しいと思います。子供たちの人生は、大学に入ってから、社会に出てからが勝負なのです。
また、IBの教育プログラムは世界的に高く評価されています。そのため、IBDPのフルディプロマ(コア3科目とDP科目6科目)で一定の成績を修めた場合、成績により海外大学や国内大学での入学資格や入試優遇を受けられます。さらに、一部の海外大学では、フルディプロマを取得できなくても、科目サーティフィケイトを持っていれば、該当科目の単位互換がされるなど優遇される場合があります。
10年後、20年後に子供たちが直面する社会で必要になる力を、水都国際の中・高の3年・6年で大きく伸ばしてください。その力は、いっそうグローバル化が進展した未来の社会で役立つのはもちろん、今後の大学入試改革の方向性ともフィットしているはずです。
私の未来年表 佐藤裕幸
未来への抱負 | 教育・社会の変革 | 現小6 | |
2019年 | 開校 | 中1 | |
2020〜24年 | 21世紀型教育の推進(課題探究型授業・国際理解教育・英語教育) 5つのスキルをもつ青少年の育成 |
労働人口の減少・高齢化 大阪府内の中・高生数の減少 大学入試制度改革(2020) |
中2〜高3 |
2025〜29年 | 英語力を必須条件(CEFR※1のB2レベル)に。 教育環境のグローバル化を進め、英語による授業を主流に。 AIを教育に活用する。 |
グローバル化・ダイバーシティの促進(グローバル人材への需要増/就業・学習のグローバル化) AIによる就業・教育スタイルの変化、Society 5.0※2の実現。 |
大1〜新卒 |
2030〜34年 | 世界を視野に入れた教育カリキュラム作成。 教員採用のグローバル化を推進 |
教育分野で産官学の連携が加速、教育・就職のボーダレス化。 QOF※3による高等教育の世界標準化。日本の教育も世界的な基準で評価されるように。 |
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2035〜39年 | 世界での競争力を高めるための教員採用とカリキュラム作成。 | 公教育の運営スタイルや役割が変化する。 | 30歳 |
2040年 |
※1 CEFR:欧州を中心に活用されている語学力のレベルを示す指標。B2は「実務に対応できる」レベルとされる。
※2 Society5.0:仮想と現実の高度な融合で実現する人間を中心に置く社会。
※3 QOF:Qualification of Framework 学位や卒業認定の国際的互換枠組み