「いっぱい失敗したけど、楽しかった。」
「生まれてはじめて、むちゃくちゃ考えた。」
「頭を使いすぎて、脳が疲れた。」
「2人で力を合 わせると、不可能が可能になった。」
これらは、ロボットの授業での生徒の感想の一部である。追手門学院大手前中学校では、2013年より総合的な学習の時間に、発達段階に応じたロボットの授業(年間6回)を行っている。昨今、小学校のプログラミング教育の導入は教育界でも注目されているが、中学校でロボット・プログラミング教育をカリキュラムに設定し、実践している学校は珍しい。今回は、本校のロボットの授業の実践とその教育的効果について紹介する。
これからの時代に欠かせないプログラミング的思考
これからの教育を考えるとき、時代を超えて普遍的に求められる力がある一方、どのような職業に就くとしてもコンピュータと無縁であることはありえない。ふだん利用しているテレビ、洗濯機などの電化製品だけでなく、自動車や自動ドアにもプログラムが組み込まれており、われわれの生活に欠かせない。それゆえ、文科省は「プログラミング的思考の育成」を掲げている。よく間違えられることだが、これはコンピュータ言語の習得が目的なのではない。プログラミングという教育活動を通して論理的思考力を育むことがねらいとされている。そして、プログラミング的思考を育成するカリキュラム開発が初等中等教育において早急に求められているのである。
「ロボット授業は、どのような授業?」−−ロボット・プログラミング授業実践例
プログラミング思考の育成を意図した本校中学2年生のロボット・プログラミングの授業を紹介する。全6時間の主な学習内容は次の通りである。
【1時限目】課題提示「火星環境と火星探査機の機能(操縦と自律)について」
【2時限目】ロボット製作「火星探査ロボットをつくろう」
【3時限目】プログラミング「プログラミングの基礎を学ぼう」
【4,5時限目】プログラミング「火星ミッションに挑戦(練習)」
【6時限目】成果発表「火星ミッションに挑戦(競技・発表)」
生徒たちが挑むミッションは次の図のような課題である。あくまでもプログラミングは手段として、火星ミッション達成のために行う授業設定が、生徒の興味関心を高めることに繋がっていることを想像いただけるであろう。この取り組みは、多くの教育関係機関やメディアから注目され、日本経済新聞に「育てAI人材!ロボ五輪常連、追手門中の超実践授業」として紹介された。
「答えが1つでないから面白い」−−ロボット・プログラミング教育の学習効果
「失敗してもいいよ」とは、教員が授業でよく使う言葉の一つだ。しかし実際に、失敗覚悟で学習する機会がどれくらいあるだろうか。ロボットの授業では、まさに失敗の連続である。そこで「何が問題なのか」「どうすれば上手く動かすことができるのか」を考え、試行錯誤を繰り返す過程で、思考力が鍛えられる。
最初は同じものからスタートしても、最後はすべての班のロボットやプログラムが違うものになっていく。中には、指導者をアッと驚かすロボットを製作する生徒たちもおり、思考力以上に創造力の育成に寄与すると実感することも多々ある。
ロボットの授業の面白いところは、答えが1つでないことである。だから、世界に1つしかない自分のロボットを発表する際、教室には「すご~い!」「へ~」「わぁ~」と歓声が上がり、拍手が鳴り響くのである。
「無理だとあきらめずに!」−−効果的な授業をするためのヒント
ロボット・プログラミング教育に挑戦しようという教員からよく相談を受ける。その多くは次の2つである。
1. 1人で40人を教えることができない。どのように教えればよいか?
2. ロボット教材を購入したいが、学校にお金がない。校長に嘆願したが断られた。
1について
筆者のロボット授業では、基本的に教員は教壇に立たない。ロボットやプログラミングに興味をもつ生徒に対して事前に教授し、生徒が指導者として授業をすすめる授業形態をとっている。35人学級を想定したとき、5人のリーダー生徒がいれば、リーダー生徒はそれぞれ6人(3つの班)にプログラム方法を教えれば授業は成立する。これにより「教え合い」「学び合い」「育ち合い」の教育活動への発展も実現する。
2について
公立、私立を問わず、多くの場合、学校の予算ですべて行うことは厳しいと考える。そのような場合「無理だ」とあきらめずに、外部資金の検討を勧めたい。「教育助成金」とインターネットで検索すれば、多くの企業や教育機関が価値ある教育活動に対して助成を行っていることがわかる。自らの願いを紙面に起こし応募することは、たんに資金面の充実だけでなく、学外の研究機関との連携にも結びつき、生徒だけでなく教員の成長にも繋がるであろう。