MIRAI NO MANABI ミライノマナビ

ミライノマナビコラム  ― 子供たちのシンギュラリティ

2020.1.31

第8回 2040年代 テクノロジーはスポーツや芸術の習得も加速させる

小泉 貴奥

日本シンギュラリティ協会 小泉 貴奧

米国テキサス大学アーリントン校学際学部卒。レイ・カーツワイルの思想に傾倒し、帰国後2007年に日本シンギュラリティ協会を設立。講演やセミナーを開催し概念の普及に努める。ベンチャー企業を3社立ち上げ、電子カルテや各種ネット系サービス、人工知能開発を行うなど、シンギュラリティの実現へ向けて邁進している。
日本シンギュラリティ協会
https://www.facebook.com/groups/JapanSingularityInstitute/

文字通りの「情報戦」

今回はテクノロジーが子供たちの私生活をいかに変化させるのかについて、2040年代に中学生になるエウクの放課後と休日を考えてみたいと思います。

エウクは既に中学の過程は修了しているため、積極的に学校に通っているわけではありませんが、登校した日の放課後は他の子供たちと同様に部活に参加したり、自分のための勉強をしたり友達に勉強を教えたり、家族や友人と過ごしている点は現代とあまり変わらないかもしれません。

しかし、その内容はどうでしょうか。部活の内容に関して考えてみたいと思います。現代のスポーツでも、プロの世界では既にデータ分析が取り入れられ、一般レベルでも分析ツールが導入されつつあります。今はカメラからの静止画や動画、手で入力されたデータを元に分析がなされていますが、将来は視神経や脳神経など身体内に張り巡らされたセンサ群から、ダイレクトに個人の思考や身体への命令などの情報も取得できるようになり、それらの情報の分析を許可することで、個人の運動能力向上に役立てるようになるでしょう。

チームプレイを行うスポーツにおいては、チーム内にアイコンユーザが複数いる場合は、アイコン群からの情報が統合され、人工知能と人間によるリアルタイムでの分析が加わり、順次アップデートされた戦術が個人に伝えられることになるでしょう。例えば、他の選手の身体の可動範囲、疲労度、やる気などを推測し、得点可能性が高いルートが計算されることで、次はどの位置に自分が行き、誰からのパスを何秒待てばいいかが視野に表示されます。

もちろん、敵も同等のデバイスを使用できるため、どちらのチームがどれだけのアイコンを使っているか、背後で使用しているデータと演算処理パワー、プレイする人間がスポーツにどれだけ重きをおいてリソースを割いてきたか、など様々な要素が絡んで、試合は今と変わらず白熱することになるでしょう。

芸術活動においては、楽器の練習が放課後の活動として現代でも人気のようですが、ここでもテクノロジーを用いることで習得を早めることができます。例えば、自分が出した自分の外で他人が聴く音と、自分が聴こえる音(体内の様々な音との合成音)の違いが、理想の音に到達することを困難にする一因となりえます。そこで、自分の発した外からの音と理想の音を外部マイクで拾い、体内で聴こえる音とリアルタイムで比較することで、そのずれを埋めやすくなるでしょう。他にも、練習している楽曲のプロの演奏シーン、特に詳細な指の動きを自分の指の動きと重ね合わせて視覚内に表示することで、プロと自分のズレや自分に足りないものへの気付きを得られやすくなります。

※2040年ごろに広く普及すると予想される脳内埋込型のナノサイズのコンピュータ

塾の役割も大きく変わる

エウクの休日に関してはどうでしょうか。現在の中学生は、中学2年生までは部活がある日は学校に行くこともあり、3年生になってからはその時間を勉強に当てている子供が多いようです。エウクはテクノロジーの助けを借りて(第2回「学習のあり方の変化――2040年の学びの風景」参照)既に中学生の過程は完了しています。3年生になったからといって慌てて受験のための勉強をするようなことは少なくなっているでしょう。

休日には、感覚の入出力に連動する身代わりロボットをレンタルし、環境フィードバックを得られるフルダイブ環境を構築してバイカル湖底などを散策して楽しむといった過ごし方も可能になっています。

現在でも既に個別最適化した学習アプリが登場していますが、2040年ごろには現在よりもさらに充実したオンライン学習コンテンツを塾などが個人のデバイスに配信するため、わざわざ教室に足を運んで勉強をすることは少なくなっているでしょう。

とはいえ、全ての子供たちの自宅が勉強に向いている環境とは限らず、集中力を高められる場所も一人ひとり異なります。現在と同様に図書館や学校の自習室などの公共施設を使用することに加えて、シェアリングエコノミーの発展から、街中の様々な空間を必要に応じてレンタルできるようになっているため、そういった場所を安価に使用し学習を進めることも増えていくでしょう。そのような空間の上位グレード版を学校や塾が提供するようになり、それを用いて勉強する子供たちも出てくるかもしれません。

 

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