MIRAI NO MANABI ミライノマナビ

ミライノマナビコラム  ― 子供たちのシンギュラリティ

2021.1.15

第12回 思考の有無が人生を分断する

小泉 貴奥

日本シンギュラリティ協会 小泉 貴奧

米国テキサス大学アーリントン校学際学部卒。レイ・カーツワイルの思想に傾倒し、帰国後2007年に日本シンギュラリティ協会を設立。講演やセミナーを開催し概念の普及に努める。ベンチャー企業を3社立ち上げ、電子カルテや各種ネット系サービス、人工知能開発を行うなど、シンギュラリティの実現へ向けて邁進している。
日本シンギュラリティ協会
https://www.facebook.com/groups/JapanSingularityInstitute/

 

前回は、無思考量産型のタテ型社会から、自ら思考し個性を発揮するネットワーク型社会への移行に関して説明しましたが、今回は思考の有無が幸福と不幸、富裕と貧困の二極化も引き起こすことと、思考のヒントについて考えてみます

思考する人としない人とで幸福度・経済的豊かさの二極化が進む

 経済産業研究所「幸福感と自己決定」※1によれば、「幸福感を決定する、健康、人間関係に次ぐ要因としては、所得、学歴よりも自己決定が強い影響を与えている。」とあり、自己決定自体が幸福感を高めることにつながると指摘されています。

 また、ブロニー・ウェア著『死ぬ瞬間の5つの後悔』(仁木めぐみ訳 新潮社)では人生の後悔として「自分に正直な人生を生きればよかった」「幸せをあきらめなければよかった」が挙げられています。

 つまり、自分が幸福と感じることは何かを考え、やりたいことをやると決めて実行することで、自らの人生を歩めるだけでなく、幸福度の高い人生を歩める可能性が高まります。反対に思考停止している人間は、自らの人生を他人にゆだねることになるため、弱肉強食の資本主義社会では報われず、本当にやりたいことができず、不幸で、死ぬ間際に後悔することになってしまう、この二極化は今後いっそう進むことになると考えます。

 技術革新で誰にでも強力なツールが手に入るようになりますが、その技術を使いこなす前に自らの思考を鍛えておかなければ、指示通り生きるだけのロボットになり下がってしまう危険性があるということです。

※1 経済産業研究所「幸福感と自己決定」 西村和雄(神戸大学/経済産業研究所)、八木匡(同志社大学)
https://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/18j026.pdf

 

答えの暗記では価値を創り出せない

 では、思考するにはどうすればよいのでしょうか?

 それには人間の脳の仕組みにヒントがありそうです。人間の脳のつくりとして、人は重要なものしか見ないようになっているようです(”スコトーマの原理”)。ただし、「重要なもの」はその時々で変わるので、自ら目的を設定していないと外からの影響で自然と変わってしまう可能性があります。そして思考はエネルギーを消費するため、脳は基本的に省エネモードになっており、なるべく思考しないようになっています(”努力の最小限化”)。そのため、普段から意識していないと自然と思考停止状態になってしまう、ということです。

 従来の教育では「正しい答え」だけを求める習慣が身につくことから、世の中にはこれが正しいという解決策であふれています。教育課程で教えられた様々なことは、正しいとは限らないばかりか、正しかったとしても、それはただの情報の丸暗記であり新しい価値の創造にはなっていません。そして現在では正しい答えを見つけてくる課題解決よりも、課題発見力の方が求められています。

 思考して課題発見する力を鍛えるには、普段から良い問いを発する訓練を続けることが必要です。ハル・グレガーデン著『問いこそが答えだ!』(黒輪篤嗣訳 光文社)には、答えのブレインストーミングではなく、問いのブレインストーミングをしてみたらどうかという提案がなされており、固定概念を崩すような問い、次の行動がうながされるような魅力的で具体的な問い、が良い問いだとも書かれています。

 固定概念をくつがえすという意味では、ソビエト連邦で考案されたTRIZ※2などの問題解決理論などのフレームワークと組み合わせて問いを発してみるのも一考かもしれません。

※2 TRIZ:発明的な問題解決の理論。膨大な特許を分析して得られた発想の着眼点と思考プロセスを体系化したもの。

 

良く問うことは良く生きること

 資本主義経済は突き詰めると弱肉強食の社会であり、弱者を利用しようとする様々な罠があらゆるところに張り巡らされています。情報というのは発信者が目的をもって発信しているものですから、鵜呑みにするだけでは思考が誘導され、自らの望む豊かな人生を歩めなくなってしまいます。人工知能をはじめ様々なテクノロジーが今後発展していきますが、まずは自らが意識して思考しなければ、思考停止になりがちな私たちの脳は、幸福な人生から遠ざかってしまうのです。普段から良い問いを発する訓練をしておくことが肝要でしょう。

Category カテゴリ―